7 街の伝承
日が暮れ始めた頃、ノイズァの街の外れに暴風のように一つの塊が現れる。リヴィア達を乗せた白虎だった。
ガルルアア!
地面に着地した白虎が背中に乗っている主、いや、レッドにそう告げる。レッドは「……うむ」といって背中から降りる。緑の生体兵器も「イヤぁ快適な旅でした。さすが風の精霊様デス」と感心するように背中をスタっと降りる。
しかし、他の四人はぐったりとしていた。特にリヴィア……だったものがキアラに寄りかかるように灰と化していた。「お、お姉ちゃん、お、重いぃ……」とキアラが必死に支えているが、まるで返事がない。
髪も顔もぐちゃぐちゃになった『元』美少女は口から魂が出かかっている。親子というのは似るのであろうことが証明された。ニコレットもヴァルも哀れな目でリヴィアを見やるが、声を掛けることが出来なかった。その姿が怖くて。なんか「ぼはァァァ……」とか声に出しているリヴィア……。
そこへレッドの専売特許になりつつあるKY振りを披露する。
「おい。何をしている。遊んでる場合か?」
「「!」」
ニコレットもヴァルも「あああ、そんなこと言ったら……」とレッドを非難の目で見つつ、リヴィアへそっと視線を向ける。リヴィアの身体がガタガタと揺れ出す。「ひぃぃ!」と一回味わった恐怖が蘇り、悲鳴をあげるヴァル。
キアラが壊れたガラクタ人形のように動き出すリヴィアを「あわあわ」言いながら支える。そしてピタっと揺れが止まり、背景に暗雲が立ち込める。ニコレットとヴァルはすぐさまレッドのそばを離れ、緑の生体兵器を盾にして背後に隠れる。もちろん、バイザーから黄色と黒の模様が右から左へとWarningされた緑の生体兵器が「チョ、私ヲ盾にしないで下さいィ!」と焦っている。
「………………」
レッドがリヴィアの様子をジッと見つめたままで居ると、リヴィアの仰向けで後ろにだらんとさせている頭を、ギギギギ……っとまるで油を差していない機械のような音をさせながら持ち上げる。その動きだけで見るものは発狂するレベルだ。安全地帯の確保に必死なニコレットとヴァルは、緑の生体兵器を生贄に自分たちの命の保証という切符を獲得する。
やがてリヴィアの顔が持ち上がり、暗い表情のまま瞑っていた目をカッと見開く。レッド以外の全員がサッと目を逸らす。見たらいけないと本能が警鈴を鳴らしている。
ギョロりと死んだ魚の目をしたリヴィアがレッドの姿を捉え、そして動き出す。解放されたキアラが一目散に近くの茂みにダイブする。白虎は背中の怖気に汗を流しながら動けないでいるようで、くぅんくぅん……と泣き始めている。
「レッド……アンタ、私が遊んでいるというの……?」
「違うのか?」
「「「!!!!」」」
腹の底に響くような低い声で尋ねるリヴィアに、いつも通りの対応で返すレッド。その辛辣な流れに汗が止まらないニコレット達。
「遊んでる……わけ……」
ブルブルと震えるリヴィア。その怒りは遂に大地を凍らせ、天を焼く。
「ないじゃないのぉぉぉぉお!」
ウガァァアとまるでベルセルクのように突進していく。白虎は背中の鬼がいなくなったと同時に空へと帰っていた。いや、逃げた。
リヴィアの腕が高速でレッドに掴みかかるが、ヒョイヒョイと避けるレッド。既に髪の毛が無重力のように浮かび上がり、リヴィアの身体からは真っ赤な怒りのオーラが吹き荒れる。しかし、当たらないので余計にオーラが膨れ上がる。
「避けるんじゃないわよぉぉぉ!」
「………………」
ヒョイヒョイ……と完全回避を魅せるレッド。距離を一定に保つように後退しつつ、リヴィアをジッと見つめる。リヴィアはこれでもかぁぁあ! っと前進して暴れ狂う。
ウガァァァア!
この日、ノイズァの街に鬼神が現れたと、後の史伝に残ることとなり、鬼神の心を鎮めるための催しが毎年開かれることになるのだが、これはまた別のお話だった。
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「ハァハァ……あ、アンタねぇ! 乙女がこれだけ怒ってるのになんでそんな涼しい顔して居られるのよっ!」
汗まみれで息を乱す鬼の成れの果て、リヴィアが膝に手をついて呼吸を整えていた。
「何を怒っているか分からん」
「乙女が酷い仕打ちに合っているのに、アンタは鞭打つような事を言うからよっ! ちょーーーーっとくらい、心配してくれたっていいじゃないっ!」
キィィィィイっとリヴィアが地面を足で地団駄する。その姿は既に乙女とは程遠い何かであった。
「まぁいい。それだけ元気なら問題ない」
そんな事は関係ないといった様子のレッドはサッサと街へ向かおうとする。そこに待ったをかけるのはもちろんリヴィア。
「待っちなさいっ! アンタねぇ! あんな風圧でこーんな顔も髪もぐちゃぐちゃにされて、美少女が売りの私がお嫁に行けなくなったらどうするのよっ!」
リヴィアが手を使ってわざわざ顔をぐにゅぐにゅと変形させながら文句を言う。それに対してレッドは「そうか……」というと、トコトコとリヴィアの目の前にやってくる。リヴィアはリヴィアで「え? まさか謝ってくれるんじゃ……」と期待する。
するとおもむろに顔に手を伸ばすレッド。予想外の行動に、リヴィアは身体が硬直する。「え? ええ?」と顔を熱くさせる。あまりこういったスキンシップに慣れていないウブなリヴィアたんは心臓がバクバクする。
(ちょ、ちょちょちょ、待って待って! な、何をするのよレッド!?)
ニコレットやヴァルもレッドの行動に「お、おお!」っと興味津々に見つめている。そんな中でリヴィアは落ち着かせようと心の中で素数を数えようと試みるが、そんな時間は必要なかった。
「ふん……」
「……え?」
それだけだった。レッドは顔から手を離し、再び街へと向かう。ニコレット達も「え? 嘘でしょ?」という表情でスタスタ歩くレッドを目で追う。
しかし、ニコレット達の鋭い勘が冴え渡り、息を殺すように緑の生贄に隠れる。なぜなら、背後に八つの首を生やした龍を背負う般若、いやリヴィアがいたからだ。
「こ、こ、こ、ここ、こんのレッドォォォオ!」
その日、目撃した住民達によって、鬼神と戦う相手はヤマタノオロチを従えし、般若であると伝承になり、般若の仮面を被ってヤマタノオロチの神輿を担ぐという習わしがこの街の一大イベントとして定着するのであった。
「まぁァァァあてぇぇぇぇ!」
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
リヴィアの天敵はレッドであるのだった。
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