8 アニマルチェンジ
ガーゴ村跡地から白虎に乗って音速長距離移動に成功したリヴィア達は、現在ノイズァの街入り口にて新たな問題を抱えているのだった。
「なんだ貴様らはっ! 変わった身なりに見たことのない姿、そんな者達をこの街に入れると思ったのかっ!」
「な、何よっ! あなたまでこんな可憐で美しい美少女を虐めるつもりなのっ!?」
ノイズァの街の入り口を見張っていた亜人に止められたリヴィア達。リヴィアが散々追いかけたレッドが捕まらず、センチメンタルになってよく分からないことを言っていた。
さすがの亜人も「ちょっと何言ってんのコイツ」という目で見始める。
「い、いいか? ここは貴様らのようなよく分からん奴を入れる場所ではないっ! さぁ帰った帰った!」
別の亜人が無理にでも帰らそうとリヴィアを掴み、外へと向かわせようとする。「もぉ! 何よっ! 私はお嫁に行くんだからねっ!」とリヴィアは余計に訳の分からないことを言って追い返されるのであった。
「ありャあ、亜人主義国家の街だろうなァ」
「そうね、亜人は独自の国家を形成する習性みたいなものがあるらしいわ。私達のような人間は恐らく入れてもらえないでしょうね」
ヴァルとニコレットが入り口から離れた所で話をし始める。
「くぅぅ、あったま来るわねっ! なんなのよあの態度ぉ!」
「お、お姉ちゃん落ち着いて……」
イライラのベクトルが違うのだが、リヴィアも相当お怒りモードであった。キアラは苦笑いしつつ、リヴィアを宥めている。
「私ヲ見テ驚いていましたしね。どうしたものデショウカ」
緑の生体兵器は肩をガックリと落としている。
「なんでミロ達は私達の姿を見て驚かないのに、あの亜人さん達は話も聞かずに追い出したのよっ! 酷いと思わないっ?」
「そうね……確かに変よね。ミロ達の時代はそもそも獣人達の世界で姿形はそれぞれ全然違っていたから良かったのかもしれないわね……」
「あァ、そういや、亜人っつーのは耳や尻尾、牙や毛がねェだけで差別扱いしてくるからなァ。この時代じゃあそれが普通で、俺らがおかしいっつーこったろうなァ」
うーむ、とリヴィア達は考え込む。そこにずっと黙っていたレッドが口を挟む。
「ならば、亜人になればいい」
全員の目がレッドに釘付けとなる。ニコレットとヴァルは「まぁたなんか言ってる」という目で見るものの「まさかね……」となる。
「ちょっと! 変なこと言わないでよっ! どうやって亜人になれってぇのよ!」
「え? お姉ちゃん達亜人になれるのっ? わぁ! キアラと一緒だねぇ!」
レッドに対して段々と口が悪くなるリヴィア。『元』お姫様の影も形も見当たらない。キアラは何を勘違いしているのか、リヴィア達が亜人になれると思って手を上げてぴょんぴょんと喜んでいる。
「簡単なことだ」
「? な、何よっ!」
そう言ってリヴィアに近付くレッド。リヴィアはさっきのような事をされると身構える。次「ふん……」なんて言ったら殴り飛ばすという気で右手を既に構えている。
するとレッドがリヴィアの身体の前で両手を伸ばし、魔力を注いでいく。次第に白くぼんやりとした雲のような塊が現れ、リヴィアをモフっと包み込む。リヴィアは「な、何よこれーっ」と騒ぐが、身体を包む雲がやがてリヴィアの身体を形成して消えていく。
「これでどうだ?」
「ゲホッゲホッ……な、何がどうだよっ! けむかっただけじゃないっ!」
とリヴィアは怒りを露わにするが、ニコレットとヴァルが驚きの声を上げたのでそっちに振り返るリヴィア。
「じょ、嬢ちゃん、その姿はァ……」
「し、信じられない……」
「フム、どっからどう見ても亜人……デスな!」
「え? ちょっと何を……」
「わぁ! お姉ちゃんカワイイっ! モフモフ〜っ!」
「ひぁっ!」
キアラがモフモフとした毛で覆われた尻尾に抱きつく。リヴィアはまるでお尻と背中の延長にある感覚を刺激されたようで変な声をあげる。
「な、何なのよコレェェエエ工!」
振り返るとリヴィアのお尻から茶色くて太く、膨らみのある尻尾が生えていたのだった。ハッと気付いて頭の方に手を当てると……柔らかいものが付いている。丸っこい耳であった。
キアラは嬉しそうに「仲間! 仲間!」っとはしゃいでいた。そう、現在リヴィアの背中にはタヌキのような尻尾に、耳まで付いていた。
「え? えっ? ちょっと私の耳はっ!?」
と言って本来あるはずの耳を触っても何も無かった。丸っこい茶色い耳が本物のように耳の役割を果たしていたのだった。
「ちょ、ちょっとレッド! どういう事よっ!」
「アライグマだろ?」
そーーーーじゃないと言いたいリヴィアだが、レッドに何を言っても無駄だと言うのが分かっているので、鼻息を荒くしながらも怒りを堪える。
「亜人に変身させたって事でいいのかしらっ!?」
「最初にそう言っただろう」
歯を閉じたまま、怒りを抑えるようにレッドに聞いたリヴィアだったが、レッドのナチュラルな煽りに目が血走り、額の血管が浮き出る。その娘の姿に天国のバルド王でさえ顔を真っ青にしている。
リヴィアの尻尾がピンと天に向かって伸び、毛が逆だっている所を見ると本物の亜人のように、完璧な変身であることが分かる。
「お前達も来い」
「あ、あァ……で、でェえじょうぶなのかコレ?」
「わ、分からないけど、デタラメな事だけは分かるわ……」
「ワ、私も出来ますかっ!? 私モォォ!」
恐る恐るニコレットとヴァルがレッドの前に立ち、テンションアゲアゲで緑の生体兵器が整列する。
すると先程と同じように白くぼんやりとした雲が三人を包み込む。やがて身体に馴染むように形を変えて消えていく。
「おおっ、こ、こりャあすげェ……」
ヴァルの頭には青っぽい毛に覆われたとんがった耳と、同じく青っぽい毛に覆われた尻尾が生える。それはまるで狼のような亜人の姿であった。
「ふ、不思議な魔法ね……こんな事って……」
ニコレットには黄色い三角の耳と、黄色い毛で覆われ、先っぽが茶色に変わっている尻尾が生える。こちらはまるでキツネのような亜人の姿だった。
二人はその耳や尻尾を触って、そこに神経が通っている事を確認する。しかし、一人おかしな事になっている者がいた。
「ァ、アノォ……これはどういう事デショウカ……」
その声に全員が反応するが、全員が無言となる。だってそこには一頭のロバがいたからだ。バイザー付きの。
「ロバだ」
レッドの言葉に「そんな事聞いてるんじゃあないっ!」と全員が心の中でつっこむ。
「準備は出来た。行くぞ」
スタスタと街に向かって歩き出すレッドをリヴィアは制止する。
「ま、待って! レッドはいいのっ?」
「ああ……」
忘れていたのか、レッドは頭に手を伸ばして白い光を当てるとポンっと音を立てて黒い毛の三角耳が現れる。そして再び歩き始める。動揺しつつもリヴィア達もその後を追う。ロバは一人寂しくパカパカと歩く。小声で「コ、コンナ仕打ち……あんまりだ……」と呟くのであった。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
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