2 夢夢夢 Ⅱ
真っ白な空間の中をリヴィアとルゥは仲良く手を繋いで歩いている。お互い顔を見合って笑顔で、まるで本当の姉妹のようだ。
「ねぇ、ルゥちゃん」
「んみゅ?」
「この前許してあげてって言ったの……あれはレッドの事だったの?」
「…………」
リヴィアにそう聞かれて、表情を固くするルゥ。驚いたように目と口を開いて、そして俯く。
「……やっぱり。どこまで知ってるの?」
「…………」
リヴィアは少し意地悪く口を開いて、ルゥに問いかける。ルゥの無言が肯定である事をリヴィアは悟った。
「もっと詳しく話してくれてたら良かったのに……」
リヴィアは俯くルゥを見て、寂しく笑った。二度もタイムトラベルをして、何が何だか分からないリヴィア達は、流されるままに行動し、そして悲しい現実を知ってしまったのだから余計辛かったのだろう。
「……お姉ちゃんは」
「?」
ルゥが俯きつつ、反対の手で服の袖を強く握っている。リヴィアはそんなルゥを見て、ルゥも辛いのだと思った。きっと何か事情がある……そう思えてならなかった。
「お姉ちゃんは、レッドちゃんの事……どう思ってるの?」
「…………」
ルゥが顔を上げて、リヴィアの翡翠の瞳を見つめる。その真っ赤な瞳は、まるで助けて、助けてと悲鳴をあげるような子供の目をしていた。その瞳に、一瞬リヴィアの心が痛む。やってはいけない事をしてしまったような、または聞いてはいけなかった事を聞いてしまった時のような心境に、リヴィアは陥る。
しかし、知らなくてはいけない。もっとレッドの事を……。
「……正直分からないの」
「…………」
「獣人達を惨殺してるレッドを見て、怖かった。それに過去の事なんて気にしてないような言い方も、ダールを殺したと言った時も、レッドの瞳はいつもの通りだった。まるで当たり前のように……いつも通りだった」
「…………」
「分かってるのよ? 魔王に取り憑かれたダールも手遅れだって……。息子さんも、その手下の獣人達も酷い事をして、殺されても仕方のないって……。でも、何も全部抱える事ないじゃない。私だって……世界を救うためにここまで来たのに……」
「リヴィアお姉ちゃん……」
リヴィアは下を向いて唇を噛み締める。無意識にルゥの手を握る力が少し強くなる。
「レッドちゃんはね、背を負わせたくないんだと思うなの……」
「背負う……?」
「死の……十字架を……」
「!」
ルゥの言葉にリヴィアの心がギュッと締め付けられる。
「わ、私だって背負ってるわっ! みんなの死を! ラリィや父様や、国の……みんなの……死を……」
叫ぶようにルゥに言うリヴィア。途中で、何を言ってるんだろう……と冷静になる。
「分かってるなの。……でも、リヴィアお姉ちゃんとレッドちゃんの背負うモノはまるで違うなの」
「違う……?」
うんみゅ! っといつものように身体を使って頷くルゥ。そして、リヴィアの瞳に真っ直ぐ向き合い言う。
「リヴィアお姉ちゃんはみんなの希望を背負ってるなの」
「!」
そう言われて、リヴィアはハッとする。父様の最後の言葉。ザガン隊長やブランガの笑顔。ラリィの安らかに微笑んだ顔を思い出す。
「忘れないで……なの。そうすればきっと、あの魔王にだって負けないなのっ!」
「ルゥちゃん……」
反対の手で口と鼻を押さえるリヴィアだが、涙は止まらない。何度挫けそうになっても思い出して踏ん張ってきたじゃないかと、再びリヴィアは心に刻まれた覚悟を思い出して、込み上げてくる想いを身体いっぱいに感じる。
「ぐすっ……ぐすっ……。でも、レッドは……レッドは一体何を背負ってるというの? どうしたらあんなに強くなれるというのっ!」
「……レッドちゃんは。……まだ言えないなの……」
「あんなに……『簡単』に人を殺せるほど、何を背負ってるというの!?」
「お姉ちゃんっ!」
ルゥの突然の大声に、ビクっとするリヴィア。ルゥはその小さな身体を震わせながら、俯いている。
「レッドちゃんだって、世界を救うために必死になってるなの。それだけは……忘れないで欲しいなの……」
「ルゥちゃん……」
ルゥの様子に、リヴィアはまた言っては不味い事を言ってしまったと……悟る。
「ゴメンね……何も知らないのに、レッドの事を酷く言ってしまって……」
「……ううん。リヴィアお姉ちゃんは悪くない。悪いのはこの世界。そして……魔王」
「……うん。大丈夫。魔王は必ず倒す。そう約束したものっ!」
リヴィアは強く宣言する。そのために前を向くと改めて心に誓う。ルゥもその様子にやっと笑顔になる。
「お姉ちゃん! 必ず倒してね! 何があっても、何が起こっても、誰が相手でもっ! なのっ!」
「うん! 分かったよ、ルゥちゃん!」
二人は再び笑顔で向き合い、歩き続ける。そして、ニコニコ歩きながら、いつものようにルゥが何かを思い出す!
「ああっ!」
「わっ! な、何? どうしたの?」
またコミカルな動きをし始めるルゥ。これはきっと大事な事をまた言い忘れてるんだろうなぁと、直感的にリヴィアは思った。
「た、大変だよーーお姉ちゃん!」
「お、落ち着いてルゥちゃん! ほら、大事な事はしっかりと伝えて。ね?」
リヴィアは慣れないお姉ちゃんを演じつつ、ルゥを宥めるが、ルゥは落ち着いて説明する。そう……落ち着いて。
「え、えっとね。目を覚ましたら、大変な事になってるけど大丈夫だよっ! 安心して大きな街を目指して! ヴァルちゃんに気をつけて! あとは……えっとー、レッドちゃんを信じてあげて!」
「え? ちょ、ちょっと情報量多いよルゥちゃん!」
そんな感じでワーッとルゥが言いたい事だけ言ってハァハァしている。もちろん、リヴィアの頭には何一つ入ってこない。最後の信じて! くらいだろうか。
だが、タイムアップなのか、スーーっとルゥが離れていく。ああっ、もう! っとリヴィアは一応追いかける。
「ご、ごめーーーーん…………」
「ルゥちゃんのおバカァァ!」
半泣きでルゥは消えていくのだった。リヴィアは半ば諦めつつも、文句だけは叫ぶ。そして、白い霧がリヴィアの身体を包み込み、意識もモヤに掛かったように段々となくなっていくのだった。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
ルゥの慌てる姿がみたいだけだったり……
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