23 惨劇の後、涙
リヴィアは肌に触れる冷たいものに意識が呼び戻されていくのを感じる。
ポツポツ……ポツポツ……
(あ、……め……?)
肌に触れ、流れる雫の正体は雨だった。火口から降り注ぐ雨がリヴィアの肌を濡らしていたのだった。
ゆっくりと目を開けるリヴィア。見上げた先にはまーるく空いた火口と、その先に映るどんよりとした曇。まだ降り始めなのだろうか、あまり雨の勢いはないようだった。
「ここ……は……っう!」
倒れた時に頭を打ったのだろうか、軽い鈍痛がリヴィアを襲う。ゆっくりと身体を起こし、周りを見渡すリヴィア。
近くには、ニコレットと緑の生体兵器が横たわり、ちょっと離れた場所にヴァル。ジハードちゃんがいた壁際にはキアラが横たわっていた。
「みんな……、! ジハードちゃん? ミロっ?」
段々と意識が覚醒し、いない二人を探す。すると真後ろで気配がしたので振り向く。壁際の暗い場所に大きな影が見える。その陰に見覚えのあるリヴィアがその名を呼ぶ。
「ジハードちゃん……?」
その声に反応したのか、大きな影は動き出し、立ち上がって暗がりから身体を見せる。
グルルル
ジハードであった。しかし、その姿はとても痛々しいものであった。
「ジハード……ちゃん……そんなっ」
グルルル……
両手で口を塞ぐリヴィア。ジハードの姿に息を呑み込む。ジハードは今、右の翼を半分程失い右腕も失っていた。さらに顔の右側が削られたように抉れていて、口元まで続いている。剥き出しになっている牙が痛々しい。ここからでは見えないが、背中には大きなやけどの跡があり、立派な赤い鱗がほとんどはげ落ちていたのだった。
恐らくあの巨大なエネルギー弾から、リヴィア達を守るために盾となって右側で受けてしまったことがわかる。
リヴィアは立ち上がり、ヨロヨロと歩き出す。涙が溢れてくるのが止められない。こんな姿のジハードを見て、涙が出ないわけがなかった。
「ご、ゴメンね……ゴメンね……」
グルルル……
リヴィアはジハードに泣きながら抱きつく。痛くないように優しく。そして助けてくれた事に心から感謝していた。
ジハードの唸り声も、とても優しく心地よいようだった。
リヴィアはジハードを抱きしめた後、涙を拭いてみんなを起こして回る。みんな一様に驚き、ジハードの姿に息を詰まらせる。一番大変だったのはキアラだった。
ジハードの姿を見るなり、大泣きし、泣き止むのに相当な時間が掛かった。ジハードもキアラに心配させまいと、鼻先を使ってキアラを撫でる。そんなジハードにキアラは余計に大泣きするという繰り返しだった。
しばらくして、力尽きたように眠るキアラ。ジハードのそばを離れまいと、くっついて眠っていた。
「キアラ……ゴメンね……」
リヴィアは責めても仕方ないと分かっていても、自分を責めてしまう。ニコレットはそんなリヴィアを横から抱きしめる。
「ニコ姉……」
「私も……力になれなかった……ごめんなさい」
ニコレットもまた、自分を責めていた。魔法が使えないことで、どれだけみんなに迷惑を掛けているか……これもまた、責めても仕方のないことだった。
ヴァルも壁に持たれたまま下を向いている。その目には悔しさと後悔の色が見える。舌打ちがやたらと多く、頭の中でどれだけ自分を責めているのかが見て取れた。
こんな時でも緑の生体兵器は行動をする。何もしない事が、彼にとっては一番の後悔に繋がる事を、長い時間の中で経験してきているからだ。
今は姿も形もなくなってしまったヤンナとムンガジのお墓を立てている。
「安ラカにお眠り下サイ、強き戦士達よ……」
特に絡みがあった訳でもないが、彼には彼の正義があった。弱い者を守る。あのダールに捕まったミロはまさにそんな正義の力を見せる場面だっただろう。そんな場面で何も出来ない自分に、彼自身も嫌なほど後悔している。
だが、彼ら二人は勇敢に挑んだのだ。そんな彼らを尊敬しない訳がなかったのだ。
ポツポツ……ポツポツ……
雨は強くもならず、ただただ涙を流すように降り注ぐのであった。
どれだけの時間そうしていたであろうか、リヴィアはふと顔を上げて決意する。
「みんなに……聞いて欲しいことがあるの……」
みんな空気が重くなり、沈み切っていた中、静寂を切り裂くようにリヴィアが声を発する。
ジハードはその雰囲気に、気を使ってキアラを起こす。キアラは起きるとジハードにまた泣きながら抱きつくが、ジハードが顎でリヴィアへと注目するように促す。
「ありがとう……ジハードちゃん……」
そんなジハードの姿に感謝するリヴィア。そして語る夢の中でのお話。ルゥに聞かされたガーゴ夫妻の秘密と、封印との関係。ハーペットに生贄、適合者など、聞いた事を全て話す。
「信じられないと思うけど……私はこの話を信じようと思うのっ!」
ギュッと首元の珠を握りしめてリヴィアは訴える。するとキアラがジハードの話をする。
「その話、私も信じるよっ! だって、ジハードちゃんは前に悪いヤツをここで倒したって言ってるもん! それはきっとガーゴ夫妻の事なんだよ!」
ジハードもそうだと言うように頷いていた。
壁際に寄りかかっていたヴァルが壁に拳をぶつける。「そういうことかよォ……」と小声で呟いていた。
「とりあえず、ダールを止めなきゃ! それにミロも助けに行きましょう!」
「リヴィア……だけど、ここをどうやって登るの?」
「えっ?」
意気込むリヴィアであったが、ニコレットの言う通り、今は火口の底。頼みのジハードは翼を失っており、飛ぶ事が出来ない。
「確かに……これじゃあ助けに行く事も出来ない……」
現実の残酷さに肩を落とすリヴィア。もちろんどうにか脱出出来る方法を考えるニコレットとヴァル。しかし、思い浮かばない。
そこへ、緑の生体兵器がある疑問に行き当たる。
「アノ、ジハードちゃんの身体はどうやって治ったのですか?」
「えっ!?」
言われてみればその通りだった。ジハードの傷は既に塞がっている。本来であれば、欠損した場所から血が噴き出していてもおかしくないのである。
「そ、そういえば……ど、どうしてなの!?」
リヴィアもハッとなってジハードを見つめる。すると意外な所から声が聞こえる。
「……俺が治した」
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
ジハードちゃんに感謝。
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