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Rd end (アールドエンド)  作者: 十画
第三章 魔の歴史
74/216

20 嗤う悪魔

「それは本当かっ!」


 ヤンナが叫ぶ。ムンガジも目を丸くして驚いているようだ。


「ええ、本当よっ! レッド……いぇジハードちゃんは村を救ってくれた。それに村の皆も無事よっ!」


 信じられないというような表情のヤンナとムンガジに、ミロが答える。緑の解体新書が説明しても、なんだコイツは? という感じだったので仕方ない。見たことも無い物が喋っているのだから。


「じ、じゃあコイツの言っている事は……」

「デスから本当デスよ?」


 ヤレヤレといった感じでグリーンメイルは答える。まぁ仕方ない。リヴィアでさえ、この人物の出で立ちに困惑したのだから。


 やっと信じることが出来たのか、ヤンナとムンガジが安心したように息を吐いた。


「良かった……こんな事ってあるのかよ……」

「嬉しい……」


 二人とも涙を溜めて喜んでいた。


「しぃかしよォ、一体あの火事は何だったんだよォ? コイツのせいじゃないんだろ?」


 ヴァルが疑問に思い問う。答えたのはニコレットだった。


「あれは地震よ。そしてそれによって亀裂が生じて地下のマグマから出る超高熱のガスが周りの木に火を着けたのよ」

「地震!? まぁ確かに揺れていたなァ……だが、そんなピンポイントで村を襲うか普通?」

「元々あの村の作りは、地盤沈下の跡を利用したもののようだわ。だから地震が起きてあの場所だけが燃えたようね。マグマが吹きでなかった事が不幸中の幸い。そうでなければ、今頃あそこら一帯はマグマで全滅していたわ」


 そんな説明を受け、ヴァルが舌打ちをする。


「俺ァコイツが火を吹いたのかと思ってたぜ」

「コイツじゃないよっ! ジハードちゃんだもん! それにジハードちゃんは火なんて吐かないもん!」


 キアラがプンプンしてヴァルを叱る。


「あ、アハハ、ジハードちゃんね、すまねェな嬢ちゃん」


 ヴァルがバツの悪そうにハットを深く被る。しかし、その表情は重い。何か思い詰めたような眼をしていた。


 それに気付いたニコレットがヴァルに声を掛ける。


「珍しいわね、アナタがそんな顔をするなんて」

「……気にするなァ。ちぃーとばかし、ダールの事を考えてただけだ」

「そっ。それならいいのだけど?」

「……なんだァ? 疑ってんのかァ?」

「いいえ。ダールの心配をしているのは本当だと思ってるわ。でも、それだけじゃないんでしょ?」

「……」


 ニコレットに図星を突かれたのか、ヴァルが黙る。「これだから女って奴ァ嫌なんだよ」と小声で言いながら、ハットをさらに深く被り直す。


「まぁいいわ。ちゃんと手を貸しなさいよ?」

「わーってるよ」


 女の勘にヴァルが心底嫌になりながらも答える。ヴァルもヴァルで責任を感じていたのだ。しかし、それはダールを焚き付けた事では無い。『視えていた』のに止められなかった事だった。


(チッ……俺としたことが……とんだ大バカ野郎だぜ……)


 自分に嫌になりながらも、ヴァルはダールを止める覚悟を決めるのだった。


 火口まで来たジハードはゆっくりと降下していく。初めて火口入るリヴィア達はかなり緊張していた。段々と底が近付くにつれて温度が上昇する。


 ミロも心拍数が上がる。


(ダール……どこっ!)


 一生懸命に壁や底を覗き込むミロ。するとキアラがあっ! と何かを指さす。


「ダール!?」


 ミロがすぐさま駆け寄る。しかし、そこには洞窟があるだけで、中から紫色の光が漏れているだけであった。


「アソコが封印された場所のようデス」

「あそこが……」


 ゴクリと誰かの生唾を呑み込む音がする。リヴィアはその漏れる光に見覚えがあった。


(やはり、魔王の一部……)


 内心焦るリヴィア。ミロも今にも飛び出しそうな勢いで構えているが、こんな場所で封印が解けたら不味い。


 しかし、漏れていた光が急にピタリと止む。


 さらに心配になるリヴィア。


 ジハードが地面に着陸すると、一気に駆け出すミロ。


「ダーールゥゥ!」

「ま、待って! ミロっ!」


 リヴィア達も急いで飛び降りるが、今のミロは物凄い速さで洞窟へと向かう。


 するとーーーー


「よぉ、ミロ」

「だ、ダールっ!」


 洞窟からダールの声がした。ミロは立ち止まり、叫ぶ。ゆっくりと洞窟から足音が聞こえてくる。


 ドシッ……ドシッ……


 やけに重い足音。ミロは急に不安になる。


(こ、この足音は……だ、誰っ?)


 声は確かにダールだった。幼い時から一緒に育ってきたのだから、間違えるはずがない。しかし、この足音はミロの知らない足音だった。

 リヴィア達が立ち止まっているミロに追いつき、身構える。これは……この雰囲気は間違いない。空気がやたらと身体中を舐め回すような感覚。まるでねっとりと獲物を確かめるように見回されている感覚。


「よく来てくれたな……」


 ガッ


 巨大な爪が洞窟から現れ、壁を掴む。


「!!」


 その場にいた全員が息を呑む。その鋭い爪と太い腕はミロ達でさえ知らない姿だったからだ。

 そして、暗がりの洞窟から紫色に煌めく眼光が見えてくる。


「俺は……手に入れたぞ、ミロ。最強の力を」


 洞窟から長くのび太鼻と口、大きな牙、そしてダールの白と黒の毛は、まるで漆黒のように黒く光っている身体を見せた。身体は元の原型がない程に筋肉が盛り上がっている。身長もただの青年ではなく、三メートルに達するかのような姿であった。

 まさにオオカミ男という風貌に、ミロ達三人の獣人達は声を失う。


 リヴィア達は既に戦闘する体勢を取っていた。


「ダール! 目を覚ましなさいっ! その力は悪魔の力よっ! このままではアナタは……」

「悪魔? ハッ! 上等じゃねぇか。地獄のような現実に悪魔が居たって不思議じゃねぇよ」


 リヴィアの言葉に愉快そうに笑い飛ばすダール。眼の光が紫色に強く輝き、冷静な状態ではないのが分かる。


「育ての親も村も皆奴に奪われたんだ。今度は……俺が奪ってやる」


 そう言ってダールの姿が一瞬で消える。すると次の瞬間、もの凄い音と共に後方で壁にぶつかる音が聞こえる。


 後ろを振り返ると、あの巨体のジハードが壁にめり込んでいた。


 グオオオオオッ


 苦しそうに咆哮を上げるジハード。ジハードが先程まで居た場所には、代わりにダールがいる。拳を握っている所を見ると、ジハードを殴って吹っ飛ばしたのであろう。


「ハッハハーッ! こりゃ最高だぜ。あのレッドを一発ぶん殴ってやった……ハーっハッハッハッ!」


 愉快、爽快、痛快といった様子で天を仰ぐように笑うダール。


 その圧倒的なスピードとパワーにミロ達は顔を青ざめさせ、身体が恐怖で震える。絶望が彼女達を支配していく。しかし、リヴィア達はすぐに行動に移る。


「やめなさーいっ!」

「ああん?」


 リヴィアはミロ達の前に立ち、声を上げる。ニコレットと緑の生体兵器はミロ達を避難させるように動き始める。


「ジハードちゃんは村を救った恩人よっ!? 村の人たちだって無事だわっ!」

「ジハードちゃんだぁ?」

「そうよっ! レッドじゃない! ジハードちゃんよっ!」


 リヴィアが強く訴えるように叫ぶ。するとキアラも前に出て叫ぶ。


「ジハードちゃんが何をしたのっ? 悪いことなんてしてないじゃないっ!」

「なんだァ? このちびっ子は」

「ちびっ子じゃないっ! キアラだよっ! ジハードちゃんを虐めないでっ!」

「虐める……? ハハ……ハハハ、アーハッハッハッ!」


 涙ながらに訴えるキアラだったが、呆れるように大笑いするダール。


「何がおかしいのよっ!」

「ヒィ、ヒィ、は、腹が痛てぇ! 虐めないでって冗談だろぉ?」

「キアラは冗談なんて言わないもんっ!」


 呼吸が困難になるほど腹を押さえながら、大笑いするダール。キアラは真剣な表情でそんなダールを叱る。


「いいか、アイツはなぁ、俺の育ての親を殺したんだよっ……俺の目の前でなぁ!」


 そう言ってダールがキアラに迫る。びっくりして動けないキアラだったが、身体をヴァルに掴まれ、抱きしめられるように地面を転がる。


「……」


 攻撃を外したダールが不快そうにヴァルを見る。ヴァルはパンパンと身体の汚れを叩きながら、立ち上がり静かに語りかける。


「なァ、ダールよォ。それが本当にお前の望む事なのか……?」

「急に何だよヴァル。お前だって言ってたじゃねぇか! 俺に必要なのは切っ掛けだってよっ! 今がそうじゃねぇかっ! こんなスゲー力をくれたんだぜ? 復讐するのが道理じゃねぇかっ!」


 ダールが怒りを露わにする。ヴァルが背中を押したんじゃねぇかと叫ぶ。


「……あァ、確かに言ったな。だが、お前に必要なのは前を向くことだ。過去にケリを付けるのもいいが、お前のやっていることはただ復讐する事だけに固執したガキと一緒だっ!」

「なに!?」

「アイツらを見ろよ。怯えてるじゃねぇか。アイツらだってお前のそんな姿を望んでたんじゃねぇってことが分からねぇのかっ!」

「……」


 ミロ達が怯えた目でダールを見つめていた。リヴィアもヴァルの言葉に頷いてダールに目で訴える。しかし……。


「ダール……戻ってこいよ……。お前だって……ーーーーガフッ!」

「!! ヴァルっ!」


 突然ヴァルが吹き飛んでいく。ダールが強烈な拳を叩き込んだからだ。


「うるせぇ……うるせぇよォォおおお!」

「だ…………ダァ……ル」


 その言葉を最後にヴァルは気を失った。リヴィアが急いでヴァルを助けに行く。


「俺わぁぁぁぁあ! 俺わぁぁぁぁぁあ!」


 ダールは怒りをぶつけるように身体に力を集める。その禍々しいオーラが溢れて、肉眼で確認出来るほどにに膨らんでいく。そのオーラはやがて悪魔のような形へと変わる。まるでダールを包み込むように、嗤う悪魔の姿がそこにはあった。




「ダール……」



 ミロの目から涙が零れ落ちる。ダールが闇に墜ちていく、そんな気がしたからだった。



最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

覚悟を決めて動き出した奴に、止まれというのは残酷なのかもしれない。


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