11 我らは迅速アライグマっ!
マスコット化希望!
次の日、リヴィア達はそれぞれ小さなカマクラを利用させてもらい、一夜を過ごした。自然の小さな滝を利用した水浴びもとても新鮮で、身体と心の疲れを共に癒したのであった。
リヴィア達は水浴びを終えて、村を散策している途中で奇妙な生き物達と出会った。中くらいの茶色い毛で覆われたその生き物達はせっせと洗い物をしている。
「あれは、何かしら?」
「……アライグマ?」
リヴィアは見たことのない生き物を指さして質問すると、ニコレットが何となく口にする。確かにアライグマのようだが、何となく雰囲気がニコレットの知っているアライグマと違っていた。
するとそこに、ミロがやってくる。
「おはよう。昨日はゆっくり休めたかしら?」
「うんっ! とてもゆっくり休めたわ! ありがとうミロさん!」
「ううん、いいのよ! 久々のお客さまなんだから、おもてなししちゃうんだからっ!」
そう言ってミロが大きな耳をピコピコさせて喜んでいる。それだけ、新しい人に出会えたことが嬉しいのだろう。
「ところで、あれはなぁに?」
「んんー? あぁ、あれは迅速アライグマさん達よ?」
「「迅速……アライグマ?」」
リヴィアとニコレットは名前まで奇妙なんだなぁと思いつつも、アライグマさん達を見つめる。
「そそ。あっ、ホラ始まるよ!」
「「始まる?」」
そう言ってミロが指さしながら見て見てっと合図する。何が始まるのかリヴィア達は興味津々に見つめる。
すると、急にアライグマさん達が川に一列に並び、陣形を整える。そして一番端のアライグマさんが短い小さな手をフリフリしながらみんなへ合図すると一斉に歌い始める。
迅速〜 アーライーグマー♪
迅速、アライグマ〜♪
迅速! (アライグマ)
迅速! (アライグマ)
じ・ん・そ・く アライグマッ♪
コミカルな動きに合わせて華麗な歌を披露するアライグマ達。合いの手をその小さな短い腕を精一杯伸ばす姿はとても愛らしい。
しかし、それだけではない。しっかりと手をせっせと動かして素早く、正確に洗い上げていく。
「わぁ〜とっても可愛いっ!」
「でしょ? 彼らのおかげで、この村の雑務なんかは大抵こなしちゃうのよ?」
リヴィアはその愛らしい歌声と姿に心をくすぐられる。ニコレットにおいては、……きゅん死、していた。
「何でも、この森の守り神と呼ばれていて、こうして私達と寄り添うように暮らしているのよ?」
「守り神なんだぁ~」
いつまで見ていても飽きないその愛くるしさに加えて、ストレスを感じさせない見事なまでの仕事っぷりがリヴィア達を蕩けさせる。
「あっ、そうそう。朝のご飯出来てるから、一緒に食べましょうよ!」
「うん! ありがとう! 行こう、ニコレット。……ん? ニコレット?」
「はきゅん……」
どうやらニコレットは迅速アライグマさん達に骨抜きにされてしまったようだった。
大きなカマクラへ向かうと、既にヴァル、ヤンナ、ムンガジが席に着いていた。
「ごめんごめーん、お待たせっ!」
「お、来たなぁ? さぁメシといこうやっ!」
ヤンナが待ってましたとばかりに手を合わせてスリスリしている。
「ったく、いつまで待たせんだァ? たかが水浴びだろぉ?」
「ヴァルには分からない事情があるのよっ! 大人しく待ってなさいよ」
「へいへい」
こっちは相変わらず憎まれ口の減らないヴァルを相手に、リヴィアがプンプンしている。
「あれ? ダールは?」
「あぁ、アイツならもうすぐ来るぜ? まぁいつものやつさ」
「いつものやつって?」
リヴィアが気になってヤンナに聞いてみる。
「毎朝朝食前に花を届けてるのさ。両親の墓にな」
「そっか……。ダールは両親が大好きだったのね……」
「ダールの両親は本当の親ではないの……」
「えっ?」
ミロの言葉にリヴィア達は固まる。
「本当の親は病気でダールが生まれて直ぐに亡くなったの。そんなダールを引き取ったのが、この村の長、ガーゴ夫妻だったの」
「ガーゴ……村の名前はもしかして……」
「そっ、あのバカが勝手に付けた名前よ? 笑っちゃうでしょ? 別に村に名前なんて必要ないのにさっ」
そう言ってミロは少し寂しげに地面を見つめる。ヤンナもムンガジも暗い表情だ。リヴィアもニコレットも心に雲が陰ったように暗くなる。そんな中、ヴァルは思い詰めた表情で言う。
「だったら、仇を取ればいい……」
「! ちょ、無茶言わないでよ! あんな化け物どうやって倒すのよ?」
「うるせェ!」
急に大声を上げるヴァル。その鬼気迫るヴァルの言葉にリヴィア含め、全員がビクッと固まる。
「男にャあ、引けねェ戦いってのがある。奴にとってのそれが、あのドラゴンだったってだけだ。周りが気ィ使った所で、奴はァ惨めなだけだぜェ?」
「「「………………」」」
ミロ達三人がヴァルの言葉に考えさせられる。ヴァルの瞳が今まで見た中で鋭く、そして強い意志を感じ、リヴィアもニコレットも怖気付いていた。
そこへダールがやってくる。
「すまん、待たせたな! なんだ? まだ食べてなかったのかい? 俺なんて気にしてないで食べてて良かったんだぜ?」
ダールの明るい言葉に、ミロ達は申し訳なさそうな表情で返す。
「ダール……」
「な、なんだよミロ? 昨日の事なら別に気にしてないぞ! アレは俺の問題だからなっ! さぁ食べよう食べよう! 腹が減って仕方ないんだよなぁ」
そう言って笑い飛ばすように席に着くダール。ミロ達三人も顔を見合わせてから、席に着いた。ヴァルは終始不機嫌そうであったが、何とか重い空気にならずにリヴィア達は食事を済ませたのだった。
朝食後、リヴィアは食事したカマクラを出るヴァルを捕まえて聞いてみた。
「ねぇ、ヴァル。なんであんな事言ったの?」
「あァん? 別にたまたま気に食わねェからそう言っただけだぜェ」
ポッケに手を突っ込みながら、不貞腐れるように答えるヴァル。
「私も……私にだって引けない戦いがある!」
「?」
リヴィアが手をギュッと握りしめ、ネックレスにした透明な珠を握る。
「魔王を倒す。それが私の戦い。ニコレットもそうっ。魔王を倒すためにここにいる」
「そうかい、そりゃァ大変だ……」
「貴方はどうなのっ!?」
適当にあしらおうとするヴァルに食ってかかるリヴィア。
「貴方の戦いはどこにあるのっ!?」
「……」
肩越しにリヴィアを見つめるヴァル。リヴィアの真剣な眼差しに、ヴァルも鋭く光る眼光を浴びせる。
「さァな、俺ァトラブルはごめんなんだよ……」
「ヴァル!」
そう言ってヴァルは手をヒラヒラさせながら立ち止まることなく歩いて行ってしまった。
リヴィアは透き通る珠を握りしめ、その背中を見送ったのだった。何故あんな事を言ったのか、きっとヴァルにも引けない戦いがあるのだとリヴィアは感じていたが、今はまだその時ではないのだと思ったのだった。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
作者はこの歌を歌いながら皿洗いしてます(ガチで)
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