6 開始直前
誕生日会の開始がいよいよ迫ってくる中、会場では多くの人々で賑わい始めていた。
それぞれ正装に身を固める者、ラフな格好ながらも髪型はバッチリ決めている者、派手なドレスや鮮やかな色のドレス、布の少ない大人のドレスまで十人十色といった様子だ。子供から年配の方まで会場には詰め寄せていた。
クラーゲン王国には貴族というものがないため、多少の貧富の差はあれど全ての国民が自由に参加出来る。その寛大な統治は一見危ないようにも見えるが、国民は王に恩義を感じ、自ら進んで国のために働いている。
これは城と街がほぼ融合した造りをしているため、国民達は城に住んでいるようなもので、ある程度の区画が決められてはいるが、実際には自由奔放な統治が一番良いということでこの形となっていた。
会場の外ではいつも以上に警備が厳重で、必要最低限の警備を残して、ほぼ全ての騎士達が会場の外を守っていた。もちろんフル装備で身を固めており、どんな敵が現れたとしても撃退出来る戦力を有しているため、その安心感はこれ以上ないといった布陣である。
西側を担当しているラリィ・トゥテラは警備配置の最終確認を終え、部下に指示を出して会場の傍へと向かっていた。普段身に着けている軽装備よりもフルプレートに近い装備な上、帯剣している剣も見事な装飾が施されていた。三人の副団長にのみ許されたその直剣は、魔を退ける不思議な力が付与されており、聖剣に近い武器であった。
鬼に金棒といったはずのラリィであるが、どことなくその表情は重い。
「よぉ、第三副団長さんよ」
「ジオラル様……」
「よせよせ、堅苦しいのは柄じゃないんだよ。様なんて付けんなよな。それよりもどしたぃ、浮かねぇ顔してよぉ」
ラリィに声を掛けたのは第一騎士団副団長のジオラル・メイスであった。
彼はラリィよりも一回り身体が大きく、ブラウンの瞳と髪をした無精髭のちょっぴりワイルドな男で、手入れしてないであろうボサボサの頭を掻きながら、その特徴的なやる気のないタレ目でラリィの顔を覗き込んでくる。
剣の実力は確かで、その型に囚われない自由な剣術で、ライバルのハイド・ブランとはいつも張り合って白黒つけあっているが、いまだに決着はついていないようだ。
「……い、いえ。特に何があったって訳ではないのですが」
「ふーん、やけに歯切れが悪ぃじゃねぇか。気になることでもあるのか?」
「……なんていうか、胸騒ぎがするというか……」
「胸騒ぎ、ねぇ……」
ラリィの言葉に、無精髭を弄りながら考えるジオラルであったが、元々楽観的な性格である彼には考えることこそがあまり意味をなしていなかった。その証拠に。
「何考えているフリをしているんですか? あなたは」
「げぇ! ハイド、てめぇ何ぬかしやがる! 俺が何も考えていないだと!?」
「考えていないなど言っていません。私は考えているフリをしていると言ったのですよ? どうせ頭の中では会場にどう忍び込むか考えていたのでしょう?」
「ぐぅ、てめぇどうしてそれを……」
後ろから声を掛けてきたのは第二騎士団副団長のハイド・ブランであった。
彼は長身細身であり、肩よりも伸ばした亜麻色のサラサラな長髪と、栗色の瞳、切れ長の目にメガネを掛けた知的な男性で、ジオラルとは真逆なタイプである。
その研ぎ澄まされたような顔立ちは、剣の実力に反映されており、ザ・正統派といった感じだ。剣の実力は互角なようだが、いつも口喧嘩では勝てないようで、ジオラルはハイドが苦手なようだ。
「はぁ、どうやら図星のようですね。いい加減真面目に働いたらどうですか?」
「う、うるせぇ! てめぇこそ東側の守備はいいのかよ!」
「あなたと違い、私達は常に王城の警備にあたっているのですよ? 死角や隠れられるような場所は既に把握済みです。それよりも、せっかく死角も隠れる場所もない広場を譲ったのですから、もう少し感謝をしてくれてもいいのですよ?」
「ぐぅ……言わせておけばぁ……」
犬猿の仲というのはこの二人の事で間違いない。そう思いながらラリィは再び思案する。
胸騒ぎ……にしてはやけにはっきりとしており、嫌な感じが胸の辺りで渦巻いている。まるで首から下が沼に浸かっているような感覚だ。
ジオラルとハイドの口喧嘩が一層ヒートアップする中、ラリィは静かに空を見上げる。
今日もバリアの外では激しく雪が舞っていた。
「だぁくっそ! 今こそ決着をつけてやるぜ! 表に出ろぉお!」
「ここはすでに表ですよ? 全く野蛮な人っていうのは」
「…………いつまでやってるんですか」
口では勝てないと判断したのか、ジオラルが剣を抜き始めるが、ハイドも「やれやれ」と言いつつも剣を抜く。そんな二人に呆れつつも止めに入るラリィであった。
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別の場所ではラリィと同じように重い表情で外を見つめる人物がいた。
その人物はクラーゲン国現国王バルド王その人であった。真っ赤なマントが背中を覆っているが、その背中からはいつもの威厳さは感じられず、どことなく寂しい感じがした。
外を見つめる目は細められ、遠くの景色を見ているようでもあり、愁いを帯びた目でもあった。白く立派な髭を手で触りながら誰もいない王の間で一人呟く。
「……もうすぐ……か」
当然それは誕生日会が開始されることを意味しているのだが、それ以上の想いが言葉には詰まっていた。
外を見る視線を外し、中央に鎮座する玉座へと振り返る。しばらく玉座を見つめた後、誰もいない部屋を見渡している。
その眼は遠い過去を振り返って慈しむような眼差しであった。映っていたのは遠い過去、小さかったレヴィア姫を抱いたり、「父上~~」と愛くるしい笑顔でリいかけてくる娘を受け止めたりと実に微笑ましい情景であったが、大きくなるにつれエスカレートするリヴィア姫の奇行や悪戯が、せっかくの美しい情景を塗り潰していく。
思い出したくない過去が脳内を汚染し始め、呼吸困難に陥る。バルド王はたまらず近くの壁に手をついて息を整える。
「--ーーっぷはっ、はぁ、はぁ、、い、いかん、娘に殺される」
滝のように流れる汗と真っ青になった顔が壮絶な過去であったことを物語っており、胸に手を当て、心臓が動いてることを確認する王の姿は……哀れであった。
すると王の間の扉から「コンコン」とノックが聞こえ、フェア神官が入ってきた。
「バルド王よ、そろそろですのでご準備を」
王の前まで来て、頭を下げた状態でフェア神官が発言する。
「うむ、行くとするか」
先程までの惨めな姿から、一瞬で王の風格を取り戻し、マントをバサッとワザと音を立てるようにして振り返る。
「はい、ではこちらどうぞへ」
「フェアよ……」
「? はい、いかがなさいましたか王よ」
「…………いや、なんでもない」
長年仕えてきた臣下であるフェア神官に何か言おうとするバルド王であったが、結局言うのをやめた。
それは労いの言葉だったのか、感謝の言葉であったのか、知る術はもうない。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
力尽きるまでは早く投稿していきますのでよろしくお願いいたします。
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