7 はっじまるよ~!
「そういや、お前さん、姫さんの警護はいいのかよ」
「あ、はい、今リヴィア姫はドレス試着中とのことで追い出されまして」
ハイドとの喧嘩に一段落つけたジオラルが、不意にラリィへと尋ねる。
「おぉ! こりゃあ、ますます楽しみだなぁ」
「何を言ってるんですかあなたは。会場に我々のような者が居るのは野暮というものですよ」
無精髭に人差し指と親指を添えながら、ニヤニヤしているジオラルにハイドが呆れたように即答する。
「……ですよね」
何故かハイドの言葉に落ち込んだのはラリィであった。「ハァ……」とため息つきながらうなだれるラリィを見て、ますますニヤつくジオラルと予想外の反応に慌てるハイド達の傍にある人物が近付いてくる。
「お前たち、ちょっといいか?」
その人物は王国騎士団団長ロス・ウォーガンであった。鋭く輝く鋼のフルプレートに身を包み、顔以外をすっぽり覆うように立派な兜をしていた。兜の天辺からは赤い鳥の羽のような飾りが後ろに放物を描くように垂れている。バイザーを上げた状態でなければ、誰か判りにくいためこの赤い装飾が団長である目印ともなっている。
「お、ミノタウロスの旦那!」
「これはこれは、ケンタウロス総長殿」
「ケルベ……ゲフンゲフン、ロス団長!」
三者三様に反応をしてるが、ラリィは途中で気付き言い直す。
「ほぉ、自殺願望があるなんて思わなかったぞお前たち。そんなに早く死にたいなら今楽にしてやろう」
背中に背負っている大剣に手を添えながら笑顔で向かってくる騎士団長。「冗談ですよ、冗談……アハハハ」といった感じで、三人は両手を顔の辺りで小さく万歳した状態で後ずさっていく。
「なぁーに、心配ならいらないさ、俺に任せておけ。これでも料理は得意なんだ。なます切りにして今夜のパーティ料理に添えてやるさ」
兜のバイザーの角度が悪いのだろう、暗くて表情がわからないが一つ言えることは、兜の奥でギラギラと眼光だけが光り輝いていた。背後にはうっすらと黒い霧のようなものが、角と翼の生えた生き物のような形をゆっくりと形成し始める。
今にも収束された光が高熱となって、睨みつける相手を溶かしてしまいそうな勢いに三人は震えあがる。
周りにいた他の騎士達も「あ、仕事仕事はぁ~っと……」「あ、あれは、ウロボロスでは……!?」など呟きながら、この場を離れることに必死になっていた。
すると会場の方で歓声が上がり始めた。ハッとした様子で、「俺は何を……?」と言いながら、正気を取り戻したロス騎士団長は、大剣から手を放す。「た、たすかった~……」という思いで全身の力が抜ける三人であった。
状況を把握したロス騎士団長が改めて口を開く。
「ふむ、バルド王が会場にお見えになられたか。お前達、現場の指揮は他の者に任せて私に着いてこい」
「総長殿、どちらへ向かわれるのですか?」
「無論、会場の中だ」
「うお!? いいのかよ旦那!」
「うむ」
予想外の答えにガッツポーズをするジオラル。それに対してハイドは顎に手を当てたまま思案している。こちらは会場内での警備プランでも考えているのだろう。しかし、あまりに突然の事で疑問に思ったラリィが問いかける。
「あ、あの一体なぜ我々なのでしょうか?」
「ああ、はっきりとは言えんのだが、そうしなければならない気がしてな」
「え……?」
「なぁーに、念のためだ。何も起きなければそれで良い。それに姫様がどんな悪だくみをしているか想像もつかんのだから気を抜くんじゃないぞ、お前達」
「……わかりました」
ラリィは団長も何かを感じ取っているのだと思い、自分の中に渦巻く黒くドロドロした感覚は気のせいではないと確信する。しかし、一体何にこれ程怯えているのか、いくら考えても答えが出ることはなかった。ラリィはモヤモヤとした気持ちのまま、他の副団長と共に騎士団長の後を追った。
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会場にバルド王が姿を現すと、入り口付近から小さな声が上がり、それに気付いた者がさらに声を広げていくので、瞬く間に会場中が歓声でいっぱいになった。
バルド王は中央のレッドカーペットを優雅に歩きながら、片手を上げつつ笑顔で歓声を受け止める。その後ろをフェア神官が、身体の前で両手を両袖に入れたまま追従する。さらに後ろには数人の侍女が、頭をやや下げながら、控えめに追従する。
やがて舞台の前までバルド王が来ると、追従していた侍女達は舞台を囲むように両側にすばやく分かれる。それを見てバルド王とフェア神官は舞台へと上がり、舞台中央に設けられた仮設の壇上にバルド王が立ち、フェア神官が横で姿勢を正して並び立った。
ちょうど歓声が落ち着き始めた所で、王国騎士団の四人も会場へと辿り着いた。
「お! ナイスタイミングじゃねぇか!」
余程入れたことが嬉しかったのかジオラルが顔に手を当て、遠くを見るような素振りで辺りを見渡す。
「はしたないからお止めなさい!」
お約束と言わんばかりにはしゃぐジオラルをハイドが止める。「ヘィヘィ」と言いながら不貞腐れるジオラルに、ハイドはため息をつき、ロスとラリィは苦笑いをした。
そうこうしていると会場が静まり返り、バルド王が咳払いを一つした後、会場中に響き渡るように大きな声でスピーチし始めた。
「愛する我がクラーゲン王国の民よ! 本日は我が娘、リヴィア・セラ・ルジュ・レーベン姫の20回目の誕生日パーティーへお越しいただき、誠にありがとう。
今宵は堅苦しいことは抜きにして飲んで笑って、おおいに楽しんでいってほしい。
我が娘、リヴィアにおいては、今だ中身が若く、手の焼ける未熟者ではあるが、こうして人生の大きな節目を無事迎えることが出来たのも、国民一人一人の努力のお陰であるとワシは思っておる。
これからも迷惑を掛けるが、どうかこの国の未来のため、供に歩んでほしい。」
「ワァアアアアーーー……」(パチパチ)
バルド王の力強いスピーチに会場の誰もが感動し、拍手を惜しみなく送る。
両手を高く上げ、喜びを身体いっぱいに表現する者や、苦労してきたのであろう者は報われた想いから号泣していた。それほど今日というめでたい日を迎えることが国民にとっては嬉しかったのだろう。
「ハハ……すごいですね、これは。まるで雷が落ちたような轟音ですね。」
「……ああ、ほ、ほん、、ほんとうびばぁ」
会場の盛り上がり具合に感心して目を丸くしていたラリィであったが、騎士団長の様子がおかしいことに気付き、振り向くとそこには見事な男泣きをするロスの姿があった。滝のような涙を流す姿をみてラリィは「? え?」っと二度見する。
この男もまた姫様の相手を散々させられ苦労した日々を思い出し、泣かずにはいられなかったのだろう。
ラリィも側近として振り回されることは誰よりも多かったのだが、ロスにいたっては王を気遣ったり、責任を感じて何度も切腹を覚悟したり、時々神官にバカにされたりと、気苦労が絶えず姫様が関わる内容が重すぎたのだ。
気のせいだとは思うが、スピーチをしていた王の目元にもキラリと光るものがあるように見えた。
歓声が止まず、会場中が盛り上がっている中、突然会場を照らしていた全ての光球が完全に光を失う。
あまりの出来事に会場は大きくどよめき始めるが、一番焦っていたのはバルド王であった。
(-----ーっ、遂に来たかっ!)
すると会場の壁からいくつもの白い光の柱が現れ、不規則に動き始める。せわしなく動き回るその光はまるでスポットライトのようだった。
初めて見る光の動きに国民たちは、動揺しながらも息をのんでその光を目で追う。もちろん王や騎士達も見たことがない光景に身構えるが、すぐに危険はないと判断する。
しばらく動き回った光は、次第に会場入り口へと収束し始める。全ての光の柱が照らす先にはもちろんこの人、リヴィア姫が後ろ姿で仁王立ちしていた。
腰に片手をつけたまま、肩から上だけを捻って、もう片方の手を目元で横ピースポーズで固定。そしてそのピースしている逆の目をウインクすると、リヴィア姫は声高らかに宣言する。
「さぁみんな! はっじまるよ~」
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
誤字脱字などは出来る限りチェックしていますが、漏れていたらすみません。
また表現がおかしいと思う部分も、その都度修正していきますのでよろしくお願いいたします。
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