3 無理なものは無理
リヴィアは真っ暗闇な中、意識が段々と浮上してくる。
(こ、ここは……現実?)
身体の皮膚がひりつくように暑い。喉がカラカラで痛いし、汗もびっしょりだ。
「っく……暑すぎるっ!」
目を開けるとそこは密林の中だった。ちょうどリヴィアの横たわっている場所だけ、陽の光が差し込んでいただけのようだ。
(密林……まるで帰らぬの森のようね……)
周囲を見回すと、あの時の配置位置のままキアラ、ニコレット、ヴァル、非自然生命体が横たわっていた。
(レッド……?)
一番傍に居たはずのレッドがそこにはいなかった。念の為立ち上がって周囲を見渡すが、深い密林により陽の光が遮られてあまり奥までは見えない。
(いない……どこに?)
「ん、んん」
「! ニコレット! 起きてニコレットっ!」
「こ、こは? うっ……」
ニコレットが目を覚ますが、時間跳躍による跳躍酔いというのがニコレットを襲い、吐き気がやってくる。
「だ、大丈夫!?」
「……あ、ありがとう、リヴィア」
背中を擦り、ニコレットの様子を窺うリヴィア。何とか持ち直すニコレットは、そのまま口を押さえたまま、周囲に視線を向ける。
「ここは……なんて古い森なの? まるで見たことのない植物ばかり……」
「そ、そうなの? 帰らぬの森を通った時はこんな感じだったのだけど……」
目を丸くして周囲の植物に目を向けるニコレットであったが、リヴィアの言葉に驚いて別の意味で目を丸くする。
「! あ、あなたあそこを通ってきたの!?」
「あ、そ、そのぉ……はい……」
(ギャバンさん達も最初こういう反応だったわね……)
そういえばと思いながらリヴィアがニコレットに手を差し出して、立ち上がらせる。
そして次にキアラを起こしてあげる。
「キアラ? キアラっ?」
「んんーむにゃむにゃ……」
華麗なほど気持ちよく寝ていらっしゃる。こういう時は昔の癖が抜けないリヴィア。
キアラの可愛らしい猫耳を指で摘み、息をフッと吹き掛ける。
「ひゃうあっ」
「あ〜可愛い反応っ!」
「んん、今度は私にやらせてちょうだい?」
飛び上がるようにキアラが起き上がるが、息を吹きかけられた耳が気になるのか、手でせっせかせっせかとクシクシしている。その愛らしい姿にリヴィアはうっとりとし、ニコレットも何かに目覚めたのか、顎に手を置いて想像に耽る。
「ひ、酷いよぉ〜」
「ゴメンゴメン、許してねキアラちゃん」
「……きゅん」
目尻に涙を溜めつつ、耳を手で押さえつけ、怖がっている小動物がおり、リヴィアは大満足しながら謝るが、ニコレットは頭から湯気が立つほど顔を赤くし、完全に心を持っていかれる。
そんな事をしていたら、男共が起きてきた。
「いちちちち……んだァここは?」
「フゥ、やっと測定値が一定に戻り……オヤオヤ?」
うつ伏せになっていたヴァルがハットを押さえながら起き上がる。周囲を見て、ヴァルも見た事のない風景と植物達に声を上げる。
緑の変態兵器は左腕に仕込まれたパネルをポピポピ弄りながら、興味深そうにデータを調べている。
「おい、嬢ちゃん! こりャどういうこった?」
「何よ? 過去に戻ったんじゃないの?」
ヴァルが面倒くさそうにして、リヴィアに話しかけてくる。リヴィアも不満げに返事を返すが、ヴァルの態度は苛立ちを隠せないように当たる。
「それだよそれっ、何で過去なんかに来なきゃならねェんだよ?」
「……魔王を倒すためでしょ!」
ヴァルが服に付いた汚れや葉っぱを手で落としながら、俺には関係ないといった態度でリヴィアに話しかけてくる。しかし、リヴィアは魔王を倒す覚悟でここに居るので、ヴァルの態度や言動が正直許せないでいた。
「アンタだってここにいなかったら死んでたかもしれないのよ!」
「ハッ! こんな訳の分からねェとこに連れてこられてもなァ。正直迷惑ってやつだろ?」
リヴィアが睨むように言い返すと、やれやれといった態度で煽ってくるヴァル。これには流石のリヴィアもカチンとくる。
「アンタねぇ! ラリィが守ってくれてなかったら、アンタなんかーーーー!」
「シッ! 待ってリヴ姉!」
「! き、キアラ? どうしーーーー」
怒りが頂点に達しそうな勢いだったリヴィアを、キアラが止める。それにキアラが真剣な表情をしていて、リヴィアも驚いて声をかけようとするが、それさえも人差し指でキアラがリヴィアの口元を押さえる。
ピクッ、ピクッとキアラの猫耳があっちこっち探っている。
その真剣な様子に口喧嘩していたリヴィアもヴァルも大人しくなり、周りを警戒する。相変わらずミドリ合金はフムフム言いながら、パネルをイジイジしていた。
密林の気候的に高温多湿でじっとしていても汗が出る。ゴクリと誰かの生唾を呑む音がする。
バサバサバサッ
「「!!」」
ギャーッ ギャーッ
やたら大きな鳥が空へと飛び立つ音だった。すぐ音に反応したリヴィアとニコレットは身構えていたが、ふぃーっと息を吐いた。
しかし、次の瞬間ーーーー。
バオオオウッ
「「!!」」
リヴィアとニコレットが鳥に気を取られた瞬間を狙われ、側面の茂みから真緑の生き物が飛びかかってくる。
(だ、ダメッ!)
咄嗟に身を守ろうと腕を顔の前でクロスするが間違いなく怪我をする。そう思った時ーーーー。
「獣拳 疾狼!」
蒼い輝きを纏った両手で飛びかかってきた生き物の腹部目掛けて、掌底を繰り出す。
バルウッ!
激しく横へと吹き飛ばされる生き物は地面に倒れるがグリュングリュンと悶えてすぐに起き上がる。あのドスエナでさえ、この一撃は致命傷であったはずだが、見た感じそれほどのダメージも受けていないように感じる。
そしてそれだけではないーーーー。
「なんだァありゃ……」
ヴァルの言葉が全員の気持ちを代弁していた。
そこにいたのは緑色の外殻に覆われ、頭部は鮮やかなマゼンタで巨大なクワガタのような顎と口、小さな黒い目が六つに、芋虫のような体つき、背甲下面の歩脚はおびただしい数がわしゃわしゃと動いている。持ち上げている上半身の胸部に位置する辺りには三対の長く鋭い脚があり、前から襲われたら一溜りもないであろう事が予想された。
さらにはその大きさが異常で、ドスエナなんかよりも二回りは大きい。
見た目を想像して頂ければ分かるだろうが、大型バイク並の大きさの芋虫型クワガタといえばわかりやすいだろうか。
リヴィアとニコレットは襲われたという恐怖よりも、その見た目に恐怖を抱き、超巨大な脚がわしゃわしゃしているので背筋から物凄い勢いで身震いが生じる。そりゃ鳥肌が立って戦闘所ではない。
「「いやぁぁぁぁァァァ」」
超ガンダッシュをキメる二人。小さなキアラの背に、いい年頃の美女が震えなから縮こまっている。キアラは特に気にならないようだが、ヴァルでさえこの身の毛もよ立つ姿に戦慄している。
ギチギチと顎を鳴らす謎の巨大な昆虫モドキ。キアラは攻撃を仕掛けようと動こうとするがーーーー。
「ちょ、リヴ姉、ニコ姉。服に引っ付かないでよぉ、動けな〜い!」
「「ムリムリムリムリ、絶っっっ対ムリッ」」
二人の強力な妨害にあって、キアラは身動きが取れないでいる。
すると巨大な昆虫は三対の長い脚を地面に着くように上半身を曲げ、一気に飛びかかってくる。
バオオオウッ!
「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」」
「あわあわあわ!」
ダァン
巨大な昆虫の身体の一部から黄色い液体が飛び散り、堪らず動きを止める巨大な昆虫。
「クソがッ、これだからトラブルってやつァ嫌なんだよっ!」
ダァン
ヴァルが二発目を虫の横っ腹にぶち込む。反対側までは貫通しないようだが、真っ黄色の液体が水漏れのように吹き出している。
流石にダメージはある様でのたうち回る昆虫。しかし、起き上がって今度はヴァルに向かって飛びかかってくる。
「先にあの世へ行ってこいッ!」
ダァン
三発目は頭部のど真ん中に命中させる。
すると黄色い液体が飛び散り、ヴァルの横を通り過ぎてそのまま力なく倒れる。
「チッ……」
リボルバーの空薬莢を捨てて、新しい弾を込めるヴァル。キアラは未だに泣きじゃくる二人の美女の相手をしていた。同じ緑の仲間である鎧が、冷静に虫の体液などを回収、分析していいた。
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「そ、それで? 何だったのよアイツはっ、」
まだ鳥肌が抜けないリヴィアは、ポンコツが有能になれるかチャンスをやる。
「ソウデスネ、ここまで分かった事をまとめさせて頂きますね。まず1つ、空気中の成分や太陽光の強さ、オゾン層の量から現在は魔の空白の時代と呼ばれた最初期であると判断しました」
「魔の空白?」
ポンコツの言うことの約九割が分からないリヴィア。辛うじて、空気の成分と言われ、確かにいつも吸ってる空気と感じが違うと分かった。
「魔の空白の時代とは私達があた時代から大体一万年〜八千年前辺りの事よ?」
さすが博識なニコレット姉様。リヴィアの目がニコレットの有能さを格段に上げ、尊敬の眼差しが注がれる。
「でも、何故そんな昔の事なのに魔の空白という名なの?」
不思議そうにリヴィアが聞くが、キアラは難しい話は分からないとばかりにふんふふーんと周りの散策に出かける。
「何でもその間の歴史だけすっぽりと抜けているというのがその名の由来なのだけど、空白の歴史の前後は紐解けても、そこだけはどうしても文献も化石も見つからないそうよ?」
ニコレットが眉間の辺りを指で押し付けながら教えてくれる。
「でも、一万年も前の話なんて誰も分からないんじゃ……?」
リヴィアからすると、一万年前と言われても全然ピンと来ない。仮に一万年よりも前の話でさえも、確証のある話なんてないと思っていたからだ。
「現在ノ技術では精霊との交信によって、当時の歴史を再現する事も可能ナノですよ。しかし、八千年よりも前の精霊というのが存在しないので、それ以降が謎とされているのです。また、一万年以上前の化石に関しても、かなり深い地層でなければ発見出来ない為、この二千年間の間に何か起きたと考えられているのデス」
目が点になるリヴィア。精霊? ……交信? 緑のツギハギロボットを信じられないとばかりにジトっとした目付きで睨む。緑の哀れなロボットが出ない汗を無理に流しながら、ホントなんです……っと小声で訴える。
「私の使う魔法は精霊との契約を結ばないといけない精霊魔術なのよ? だから精霊は存在するわ」
ニコレットの言葉に間違いはないと、リヴィアは秒で精霊の存在を信じる。緑の……アレがもうそんな……という顔でリヴィアを見ていた。
「そうね、ものは試しだからまず精霊を呼んでみましょうか?」
「えっ! いいの? お願いお姉様!」
まるで友達に電話するような気軽さで精霊を呼ぼうとするニコレットであったが、杖を振って気付く。
「……あれ?」
「? どうしたの? お姉様」
杖をさらに二、三回振るニコレット。
「まさかっ!」
「ど、どうしたの?」
ニコレットが慌てたように目を瞑っている。その顔には汗が流れ、目の周りは力が入っているのか難しい表情をしている。
「……ダメ、呼べない」
「? そうなの? 残念ね」
落ち込むリヴィアだったが、ニコレットはかなり重い表情で告げる。
「精霊が居ないということは、魔法が使えないって事よ?」
「えっ?」
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
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