30 守護する者
「れ、レッドォォォ!」
巨大な隕石はそのまま谷底へと落ちていった。すると地面にぶち当たったのか、轟音と共に谷底全体が巨大な炎に包まれる。リヴィアは、大声でレッドの名を呼ぶが返事はない。さらに谷底からの巨大な炎が、部屋全体を熱していた。
「っく、この暑さは!」
「不味いわ! このままではみんな死んでしまうっ!」
ラリィが汗だくになって部屋を見渡す。あまりの熱波に周囲がユラユラと歪んで見えるほどだ。蒸し風呂状態の部屋が、人体に悪影響を及ぼす前にニコレットが魔法で暑さを和らげる。
「清風領」
中央の足場を中心に風が巻き起こり、熱風を防いでくれている。風は優しく、涼しい。まるで見えない風に抱かれているような心地になる。
騎士達やヴァルも急いで中央へ避難する。
「こりャ、たまらねーわ」
「くぅ、これでは前に出れん!」
「ハァハァ……」
しかし、熱にも強いのか、グリーンメイルは獣達を淡々と掃討していく。さすがにこの熱波がキツいのか、獣達の動きもフラフラである。
「ハーハッハッハッ! どうした悪党共よ! 私を倒したくば全力でかかって来いって!」
調子に乗るダサいポーズを決める鎧。するとそこに天敵が現れる。
ガシャンガシャン
通路の奥から出てきたのは例の黒い生体兵器だった。
「ハーハッハッ、ハッ? ……ゲェっ!?」
ガシャンガシャン
その黒い生体兵器は、両腕が細い筒状の物を束ね合わせたような形であり、調子に乗っていたグリンメンは、それが何かを知っていたのでダッシュで逃げる。するとその筒達が回転し始めて、物凄い炸裂音と共に高速で何かを飛ばす。
ウィィィィイン
チュドドドドドド……!
「アアアっ! ガトリング砲なんて聞いてませんよっ!」
エッジの効いた高速機動によって何とか回避する哀れな鎧。
キンキンキンキン、と子気味良い音を鳴らしながら排莢された薬莢の落ちる音がする。
「なんだァありゃ? おいっ! 俺よりもあっちの奴の方がヤバいんじゃねぇのか?」
「「……!」」
ヴァルがガトリング砲を見て、騎士達に訴えるが、そんな物を見た事のない騎士達からすると勘弁してくれっ! という気持ちで目をひん剥いている。
何とかガトリング砲の射程外に脱出した調子に乗り過ぎた鎧が帰ってくる。
「ハァハァ、こ、これは不味いですね。今私が使える武器はほとんどバッテリー切れで使い物になりません」
「ったく、どーすんだよアレ? あんなん勝ち目ねェぞ!」
ガシャンガシャン
動きは遅いが、固定砲台になったらその火力は相当なものであるガトリング砲を二門も腕に取り付けている。獣達はそのほとんどが片付けてあったが、黒い生体兵器のせいで形勢が逆転してしまう。
さらに魔王が谷底に叩きつけた炎を眺めながら、巨大な魔力の塊を左手に集め始める。リヴィアはそれがブランガを屠った強力な魔法であると見抜く。
「あ、アレは! お願いっ! 誰かアレを止めてっ!」
恐らくレッドにトドメを刺すために放つ一撃。どうにかして止めなければと思うリヴィア。しかし、自分には奴を止められるような魔法は扱えないので、誰かに縋ったのだった。
すると魔王の身体を黒い球体が包み、強力な重力によって圧殺していく。
(こ、この魔法はっ!)
「崩重」
ラリィであった。忍者の軍団をある程度片付けていたので、ニコレットご魔法を使ってた後、すぐに呪文を詠唱していたのだった。それによって魔王の左手に集まっていた魔力も霧散し、重力場によって閉じ込められた魔力が暴走。爆発したのだった。
「や、やったわ! ナイスよラリィっ!」
「っく、やはり上級魔法を一人で唱えるのはキツイですね」
そう言いながら、二人は顔を合わせてサムズアップする。
しかし、次の瞬間。
ラリィの身体をいくつもの細い紫の光が貫通する。それはワンゴを貫いた魔法だった。
リヴィアは急に世界がスローモーションとなった。口から血を吐き出すラリィ。少しずつその身体が崩れていく。目はリヴィアを見つめたままで、サムズアップアップしていた手はリヴィアを掴もうとしているように空を掴んでいる。
ドチャリ
そして世界は動き出す。残酷な光景のまま。
「ら、ラリィィィィイっ!」
リヴィアは倒れたラリィの元へと走り出す。しかし、今度はリヴィアの身体を強い衝撃が襲い吹き飛ばされる。
「うっ! な、何が!」
見るとそこにはワンゴが血まみれで横たわっていた。
キ……キキ……
リヴィアにもラリィのように魔法が迫っていたのを、ワンゴに救われたのだった。
「ワンゴさんっ!」
手を伸ばすリヴィアだが、グイッと肩を掴まれる。
「リヴィアっ! しっかりしなさいっ!」
ニコレットがリヴィアを引っ張って、その場から動かす。そうしなければ、また紫の光がリヴィアを貫いていたからだった。目の前の床に、焦げたような後がいくつも出来上がる。
見ると爆煙の中から魔王が薄らと現れてくる。その手の指には小さな紫の光が輝いている。
(アイツが……アイツがこれをっ)
怒りで頭が真っ白になるリヴィア。フゥーフゥー、息が荒くなり、動かない身体を無理にでも進もうとする。その瞳には殺意が芽生え、今までにない憎悪に満ちた色をしていた。
「お姉ちゃん! お姉ちゃんお願い! お願いだからしっかりしてぇぇぇ」
リヴィアの正面からお腹に顔を埋めるように、泣きながらキアラが興奮するリヴィアを止めていた。同じように、ニコレットも必死に後ろからリヴィアの肩と腕を掴んで引っ張る。
しかし戦乙女の戦衣により、増幅された力は止まらない。
リヴィアは魔王を真っ直ぐ見つめたまま突き進む。
(絶対……絶対に許さないっ!)
母国を失い、唯一の同郷のラリィを失い、国の為に戦うザガンや最後まで守ってくれたブランガやワンゴ達、ケイ氏にギャバン。全てを奪った魔王が憎いとリヴィアは突き進む。
「だ……だめ……ですよ? リヴィア」
確かに聞こえた言葉。怒りで何もかも分からない中、その声だけはハッキリと聞こえた。
「いき……る……んです」
「ら、ラリィ?」
その言葉で瞳に光が戻るリヴィア。振り返ると、横たわりながらも首だけ持ち上げてリヴィアに手を伸ばすラリィがいた。
「ラリィィィィイ!」
キアラとニコレットを振りほどいてラリィの元へ走るリヴィア。
魔王がリヴィアに向かって魔弾を放とうとした時、谷底から真っ赤な稲妻が魔王に直撃する。
「……ハァハァ」
ボロボロだが、何とか生きていたレッドが、魔王目掛けて突進。直撃を受けた魔王は硬直しており、この一撃を受けて壁に激突する。
リヴィアは無事にラリィの元へと辿り着いた。
「ラリィ! ラリィっ!」
滑り込むようにラリィに近付くリヴィア。遅れてニコレットとキアラもやってくるが、ラリィの無残な姿に涙を抑えることが出来ない。
ヴァル達は何とか騎士達の盾の隙間から攻撃をしているが、黒の生体兵器にまるでダメージがないようで、突破されるのも時間の問題だった。
レッドも額から血を流し、かなりダメージを受けているため、不意打ちをしたとはいえ、魔王を倒すのは現状厳しいと言える。
そんな絶望の中、ラリィはブルブル震える手を何とか持ち上げる。リヴィアはすぐにその手を掴む。強く、強く掴んで頬に当てる。
「大丈夫……。リヴィアは……俺が……守る」
「バカっ! アンタ……傷だらけじゃないっ! そんなんじゃ守れないわよっ! は、早く……早くなお、治して、またいつもみたいに……」
涙で最後まで言葉が出ないリヴィア。ラリィの手を額に当てて、お祈りするように目を瞑る。ラリィを叱るように言うが、その表情は懇願する可愛くて綺麗な少女。いやラリィには女神に見えていた。
「思い……出したんですよ……」
「……え?」
ラリィの突然の言葉に、リヴィアが目を開けてラリィを見つめる。ラリィの目には既に光が失われつつあり、リヴィアを見ているようで、見ていなかった。
「俺達は……リヴィア様を……守るため、ゴフッゴフッ」
「ら、ラリィ! それ以上喋ってはダメよっ!」
血を吐き出すラリィ。リヴィアが叫ぶようにラリィを止めるが、ラリィは構わず話し続ける。
「ハァ……ハァ……いいですか……リヴィア。忘れないで……。俺達は……ずっと……リヴィアを、見守っている」
「ラリィ……いや! 嫌よっ! 世界を救う所を見てって約束したじゃないっ!」
ドカァン
壁に埋もれていた魔王が瓦礫を跳ね除けて飛び上がる。すると身体を魔力で包み込む。レッドはその攻撃を受けたことがあるので素早く後退する。
すると紫と黒の魔力磁場が周囲を巻き込みながら広がっていく。さらに全方位に死の魔弾が放出される。
ハーズェンドのようなフィールドに合わせて、魔弾まで飛ばして来る最悪な状態だ。魔弾は無差別に放出され、リヴィア達を襲う。リヴィアは守るようにラリィに覆いかぶさる。たまたま逸れるように魔弾が傍を通り抜ける。キアラもニコレットもリヴィアとラリィを守るように前に立ち塞がるが、不思議と魔弾が逸れて行く。
ボゴォォォン
「ぐわぁぉぁあ……」
「うわぁぁぁっ!」
しかし、無慈悲に騎士達へ直撃し、橋が壊れて前線が崩壊する。
「くっそ、おい! そこのヤツ! 逃げるぞ!」
「ヒエェ! なんてパワーなんですかアレはっ!」
すれすれで避けることが出来たヴァルが直ぐに立ち上がり、ポンコツと共に魔弾が飛び交う中を、エレノアの元へと逃げる。
エレノアに魔弾が迫ってくるが、ジーク王が身を呈して守る。
「エレノア様っ!」
ボフゥン
身体中を紫と黒の炎に包まれながら、ジーク王は吹き飛んでいく。
「ジーク……」
エレノアは悲しい瞳を向ける。一瞬目を瞑ってすぐに呪文を唱え始める。
古代呪文なのか詠唱内容が分からない。子声で高速に詠唱するエレノアは、トランス状態に入り、身体中が淡い光に包まれる。
「リヴィア……」
「! ラリィ?」
リヴィアの頭を弱々しく撫でるラリィ。それに反応して顔を上げるリヴィア。
「いいかい? 必ず生きるんだ。……そして魔王を倒して……くれ」
優しい表情でリヴィアを見つめるラリィ。小さく首を横に振り、アナタも一緒に! っとリヴィアが目で訴えるが……
「俺が……道を切り拓く。……行ってくれ」
「ダメよっ! アナタも一緒にっーー!」
ドガァァン
すぐ近くに魔弾が当たり、爆風が来る。いつ、当たってもおかしくない状態。ニコレットもキアラも、爆風で飛んでくる小さな瓦礫に身体が小さなかすり傷だらけになる。
ヴァルもポンコツもエレノアの傍で何とか魔弾が当たらないように避けている。
そんな中、ラリィはある呪文を唱える。
「我が名は……トゥテラリィ。守護する……者なり」
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
次回で第二章完結します。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
最後もよろしくお願いいたします。
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