21 いま! ここで!
第一章最終話
「行くわ、世界を……救いに!」
何度目の決意だろうか、姫を辞めたら今度は世界を救いに行く事になるなんて誰が想像しただろう。これが勧誘業者だったらまさに最高のタイミング、最強の殺し文句だっただろう。
「ひ、姫様! こんな訳の分からない人間に、世界を救えなんて言われて信じるのですか!?」
ラリィが常識的な対応を取る。犯罪に引っ掛からないコツは、まず相手の言う事を全て鵜呑みにしない事である。
確かに圧倒的な実力を持っているレッドであるが、やはりそれ以上に謎が多過ぎるのだ。何が嘘で本当なのかの判断をするには、現状あまりにも情報が少ない。
「ラリィ! 私はリヴィアだって言ったでしょう?」
「っう! ……り、リヴィア、騙されていたらどうするのですか!?」
「大丈夫よ!」
「で、ですが……」
「信じられないなら、私を信じなさい。」
いや、そうじゃねぇよとツッコミたいラリィ。リヴィアがこうなってしまったら無理なのは分かっているが、それでもこのレッドという人物が怪しい事には変わりない為、非常に行かせたくないというのが本音だ。
「私ね、考えたの。どうしたら罪を償えるか」
「姫……」
「リ、ヴィ、アっ!」
「っう! す、すみません」
「もうっ! ……それでね、困っている人を救いたいと思ったの」
「そ、それは……とても立派な事だと思います」
えへへ、っと笑うリヴィア。まるで子供染みたヒーローヒロインの話のようだからだろう。それでもラリィはあのわんぱくじゃじゃ馬お転婆娘が成長した姿が見れて微笑ましく思っている。心の中でならなんとでも言えるのだから。
「国を滅ぼしたんだから、世界を救うくらいじゃないと私の罪は消えないわ!」
「しかし! 魔王相手に何が出来るのですか!?」
「分からない! でも、きっと何か私にも出来るはずよ! レッドだって私なら出来るってーー」
「ヤツの話は嘘かもしれないっ! 騙されていたらどうするんですかっ!」
熱くなるリヴィアにラリィは焦りを感じる。こういう時ほど、人間は冷静な判断が出来ないからだ。
「ラリィ……?」
「一度落ち着いて考えましょう! 冷静になっーー」
「………………」
ラリィの言葉で落ち着くリヴィア、ラリィはそれを見て安心し今後の話をしようとするが、その途中でレッドがラリィの目の前に突然現れる。その真紅の瞳がラリィを見据える。
「! ーーっな、なんだ!?」
「………………」
「っく、何か言いたい事があるなら言えっ!」
「………………」
突然目の前に現れ、無言で見詰めるレッド。その真紅の瞳と瞳孔が急に細くなったような気がする。ラリィはその瞳に我慢ならず先程から抑えていた感情をぶつける。それは電子レンジで温めた時のサランラップが膨らみ、限界を超えた時のように。
「大体、貴様のような怪しい者が世界を救うなんて聞いたことがない! リヴィアを誑かして何か良からぬ事を考えてるのだろう!?」
「………………」
「ちょっと、ラリィ! 一体どうしたのよ! 言い過ぎよ!」
ラリィがこんなにも心を乱して、人に当たる姿を見た事がないリヴィアは、どうしていいか分からず落ち着かせようとする。
しかし、それはラリィ自身も感じていた。感情がコントロール出来ない。頭の中は冷静なのにこのレッドという人物を目の前にすると、何故か心に黒い墨を垂らし、かき混ぜられるような感覚に陥る。
「何故黙っている! 図星で何も言えないって事か!? どうなんだ!」
(違う……こんなことを言いたいんじゃない……)
「まさか貴様があの化け物を引き寄せた、張本人なんじゃないか! フェア神官を誑かしてーー」
(こんな……こんなの俺じゃない!)
頭の中と心の中が分離したような感覚がラリィを襲う。心はどんどん黒く濁っていく感覚。頭で必死に否定し続けるが身体が言う事を効かない。
そして、遂に長い沈黙からレッドが口を開く。
「……お前、死ぬぞ」
「!!」
その言葉を聞いて分かった。いや、逆だ。ラリィはこの言葉を言われたくないからこんなにも感情が乱され、口から捲し立てるようにレッドに当たっていたのだった。
そして続けてレッドは言う。
「……分かっているはずだ。お前はもーーーー」
「や……やめろーーーーっ!」
最後までその言葉を言わせたくないラリィは、乱暴に剣を抜いて斬り掛かる。さすがのリヴィアでも予想外の行動に言葉が出ない。
しかし、レッドは冷静に躱す。
横斬りーーーー躱す
斜斬りーーーー躱す
斬上げーーーー躱す
「うぉおおおっ! せいやぁぁぁああ!」
「………………」
全て躱され、息が上がるラリィ。呼吸を少し整えてまた斬り掛かろうと踏み出すが、リヴィアが割って入る。
「止めなさいっ!」
「! ーーっく!」
両手を開き、身体全体でレッドを庇うリヴィア。寸前で剣の刃を止めるラリィ。その剣はリヴィアの後ろにいるレッドを斬りたいと言わんばかりにカタカタ震えている。
血走るラリィの目を真っ直ぐ見つめるリヴィア。小さく強い口調で、もう一度「止めて、ラリィお願い」と言う。そのリヴィアの瞳と言葉にラリィは剣を落とし、膝から崩れ落ちる。
「っハァハァ、……お、俺は一体何を……。」
「ラリィ……一体どうしたっていうの?」
息が乱れ、びっしょりと身体中汗が流れるラリィ。そんなラリィの背中を労るようにリヴィアが手でさすっている。
「わ、分かりません、急に心を乱されたような、恐怖に似た何かを感じて、身体が言う事を……」
今もガタガタと身体が震えるラリィ。尋常ではない震えにリヴィアも戸惑う。するとレッドが言う。
「そいつはダメだ。連れては行けない。」
「「!!」」
確かにいきなり斬り付けてくるような奴とは旅には出れないだろうと思ったリヴィアだったが、次の言葉に固まる。
「ついてくれば、そいつは必ず死ぬ。」
「ど、どういう事?」
「……言葉の通りだ」
リヴィアはどうしてもレッドの言っている事が嘘ではないと思うが、言っている意味までは理解できない。だが、ラリィの異変も軽視出来ない。何故急にレッドを襲ったのか……。
「お、俺はそれでもリヴィアについて行く。最後まで守ると……約束したんだっ」
震える身体を抑え、ラリィが叫ぶ。
「………………」
「フゥー、フゥー……」
全神経を集中させているラリィ。一瞬でも気を抜けばまた身体が飛んで行ってしまう、そんな様子だ。それを無言で見つめるレッド。
そしてーーーー。
「勝手にしろ」
パチンッ
「! ーーーー? か、身体の震えが……止まった。」
レッドが後ろを振り向き、指を鳴らすと同時に、ラリィの身体が自由になる。さっきまで別の誰かに動かされていた様な感覚が残っていて気持ちが悪い。心にも不純物が混ざっていたような、スッキリしない感じだ。しかし、自由に動ける事が今は一番良かった。
「……一体、ラリィに何をしたの!?」
「試しただけだ。生半可な気持ちでは困るからな」
それだけ言うとレッドは歩き出した。
リヴィアはその回答に少しスッキリしないが、ラリィを起こして一緒にレッドの後を追うことにした。
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しばらく肩を貸していたリヴィアだったが、ラリィが自分の足で歩き始める。
「すみません、肩をお借りしてしまって。もう大丈夫ですから」
「そぉ……さっきはどうしたの? いつものラリィじゃなかったわよ?」
少し前をレッドが歩いている。そんなレッドにラリィは視線を向けながら、
「多分、精神系の魔法か何かを使ったのだと思います。あの瞳を見て、急に俺自身コントロールが全く出来ませんでした……。」
「そうよね、あんなのラリィじゃなかったもの」
意外な答えにラリィが少し「えっ」っとなる。まさかこんなにも俺の事を……と感動し始める。軍曹も気合を入れて新兵を叩き上げる。
「良かったわ、これならまた我儘もちゃんと聞いてくれそうね!」
「……」
笑顔が可愛らしく、サラサラな髪が風に流されて美しい……うん、今日も美しい。ラリィはそう思う事にした。
「それでね、どうなのよ? 世界! 救っちゃう?」
じゃれる子供のように突然ラリィの前にぴょこんっと跳ねて道を塞ぐ。後ろに手を組み、上半身を傾けた状態が愛らしい。新兵が銃弾の雨を駆け抜けていく。
鼓動が早くなるのを感じてラリィはすぐにそっぽを向く。そして、慌て気味に言う。
「り、り、リヴィアの……行く所なら何処でもついて行きますよ」
言った後に後悔するラリィ。顔の内側が溶岩が流れ込んでいるように熱いのだから。
「ふふ……良かった! ちゃんと着いて来てよね。そして私が世界救う所を見ててよね」
横目で見るとリヴィアが満面の笑顔でこちらを見ている。地面が大爆発して吹っ飛んでいく新兵達。
まさに女神様が降臨されたとラリィは一人幸せを感じて見蕩れてしまう。
「あ、レッドが行っちゃうよ! ほら急ぎなさい」
「は、はい!」
爆発で抉れた大地を越え、しばらく歩いていると雪が降り始める。空を見るとここはぽっかり空いた穴の端っこだった。
進めば進むほど、雪は激しく舞、風は激しくなりやがて吹雪になる。
ビュオオオオオオオッ
「ちょ、ちょちょちょちょちょっとぉぉ!」
「はぃぃぃぃい!」
「無理無理無理無理! 寒すぎるわよぉぉぉお!」
「はぃぃぃぃい!」
常にバリアに守られていたクラーゲン国は雪は積もらない。さらには光球により、一定に保たれた気温、室温が温室育ちの人間を育てたようだ。
ゴォォオオオオオオッ
「ぎゃぁぁぁぁぁあ!」
「ちょ、ちょっと、俺を盾にしないでぐだざぃぃ!」
「あんた! 私を守るって言ってたじゃないっ! いま! ここで! 私を守れぇぇぇえ!」
「むぢゃでずよぉぉぉぉぉ!」
もうすぐそこも見えないほどに雪が舞踊り、方向感覚を狂わす。レッドの後を追えているかすら怪しい。膝下まで積もった雪が道を阻み、皮膚を叩き付ける雪と風が二人の体力を削る。さらにこの寒さで既に身体中の感覚がない。
「も、もう無理っ……」
「っく、り、リヴィ……ア」
どれくらい歩いただろうか、ホワイトアウト状態で動く事も出来なくなり、後戻りも出来ない。レッドはとっくの昔に見失ってしまった。身体の体温も、体力も限界を迎える。
リヴィアはその場でしゃがみ込み、蹲る。ラリィは少しでも寒さからリヴィアを守るために覆い被さる。
「ご、ごめんね、、、みんな」
リヴィアは目の前が真っ暗になった。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
次回は第一章のまとめか、第二章がスタートです。
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