プログラム11
突然に起こった出来事に私は歓喜した。魔王としてこの世界に存在するなかで、今日が最高の日かもしれん。ああ、憎いぞこの体よ。プログラムよ、どうかこの瞬間だけ、ほんの一瞬でも良いのだ。私を自由にしてくれないか。この目の前に立っている勇者と戦う時間だけは……。
私がいつものように退屈な日々を送っていた、そんな時にフッとある考えが過った。それは、今まで私はプレイヤーという奴らとしか戦っていないな。という事だ。
そもそも、私がこの意識を持った時にはプレイヤー達を勇者だと思っていたのだ。魔王である私に勇者が戦いを挑んで来るなんていうのは、運命のようなもの。だからプレイヤー達を勇者と思っていたのだが……。戦ってみると勇者ではなく、プレイヤーという奴らだったのだ。私を魔王としては見ずに素材として見る奴らや、側近のマールができてからは私をオマケ扱いにする者。その他にも色々と私が思う勇者という存在はいなかった。私のプログラムのように、勇者は居ないのだろうか?プレイヤーが勇者として活躍している世界なのはうっすらとは感じてはいる。しかし、魔王としての本能なのか?私はどうしても勇者に会いたい。そして、戦いたい。プレイヤー達はどうしても勇者に思えないのだ。毎回のあの奇行や、私に対するぞんざいな扱いのせいで。
最弱と言われようとも、素材と言われようとも魔王なのだ。魔王としての仕事がしたい。見た目だけではなく、この意識をも熱くするような魔王としてのプライドを!
ギィ。
はぁ。次のプレイヤーが来たのか。今日はやる気が起きないな。
「遂にたどり着いたぞ! 覚悟しろ魔王カース!」
え?なんだこいつは?今までのプレイヤーと何か雰囲気が……。強いとは思うのだが、というよりも私の名前をちゃんと言ったよな、今。
「くっ、先に側近のマールか。だが、俺は負けない! 記憶の勇者の名にかけてお前達を倒す」
ゆ、勇者!はぁーー!勇者だと!ほ、本当に来たのかぁ!私は驚きと喜びで、少しパニックになってしまったのだった……。
そんな出来事が今起きているのに、私は自由に動けない!クソ!願っていた勇者が目の前に居るんだぞ、動けよ!私の体、動け!相手は今までのプレイヤーじゃないんだ、勇者なんだ!
「オラァ! これでお前の手下達は全員倒した。残ったのはお前だけだ、カース。ここで決着をつけてやる、いくぞ」
ああ、もちろんだ!私も全力で勇者、お前を滅ぼしてやる。
ちくしょう!やっぱりいつもと同じ動きしかできないのか私は。これでは本当の私の戦いではない!こんなのせっかく勇者が来たというのに、意味がないではないか!クソォ、動け戦わせろ、この私こそが魔王カースだぁぁぁ!
「カース! これで決めてやる。必殺! セカンドメモリー、チューンライトセイバー! ドリャァ!」
悔しい……。こんなにも強い勇者とちゃんと戦う事ができないなんて、私はなんで魔王をやっているのか。こんなに惨めな思いをするのなら、もう魔王なんて……。
「よし、楽しかった。いやぁ、まさか激レア勇者装備が当たるなんて思わなかったからな。勇者プレイしたくなっちゃうよ。でも、できれば属性の勇者装備が良かったけど……。まぁ、当たるだけ贅沢か」
は?嘘だろ?おいおい、まさか勇者じゃないの?ま、まさかお前はプレイヤーなのか?
「試し運転でカスに来たけど、結構強めなのかな? 次のBOSSにも使ってみよ。それにしても、勇者装備が当たるんだったらプレイヤー名もっと考えて決めれば良かったなぁ」
目を開けると、椅子に座っている自分。リセットされたのがわかる。
もうね、わかったよ。この世界に勇者なんて居ないな。魔王としてね、もう頑張ろう。そしてプログラムから早く解放されてプレイヤー達を惨殺してやる!今までの悲しみとかなんやらをくらわすからな。




