お節介なやつ
逃げきれず母上に引きずられるようにして渋々向かったのは王家主催のカジュアルなお茶会だった。
お茶会なんてつまらないと早々に人の輪から外れた俺は、並んだ食事をマナーがないと叱られてしまいそうなほどトレーに積んで、退屈な時間が早く過ぎるのを待つことにした。
貴族なら余計に人との繋がりは大切なのだと母上は言うが、俺にとっては強さこそが大切だった。
父上のように強くなければ、誰も守ることは出来ないから。それが騎士となればなおさら強くなきゃやっていけない。
だと言うのに、なんでこんなことに付き合わなきゃならないんだ。
まぁでも、悪いことばかりじゃない。
家にいれば争奪戦になる菓子もここじゃそうなることもないし、 こういう場は会話に集中する人が多いから割と食べ放題だし。
俺は大量に運び出した菓子を誰にも邪魔されることなく食べながらお茶会を眺めていた。
しかし、こうして遠くから見てると結構知り合いがいるもんだな。
王家主催だからフレッドとイザベラはもちろんだが、騎士なんかも呼ばれてる。
今日は割と多種多様な人たちで、参加者は貴族だけじゃないんだな。
騎士は緊張してる人も多くてガチガチだったりしてるけど、反対におそらく商売人だろう人なんかはここで顔を売ろうと張り切っている。
それにしても、フレッドもイザベラも頑張るな。
笑みを絶やすことなく、ひっきりなしにくる人たちと会話をしていて大変そうだとは思う。
そんな風に周囲を観察していると、少し穏やかには見えない集団があった。
俺と同じくらい令嬢たちの集団。
不快だとでも言うように1人の令息に対して鋭い目つきをしている。まるで不快だとでも言っているようだ。
あの後ろ姿、見覚えがあるな。
ああ、ジョルジュか。
いや、何やってんだあいつ。
気障っぽいのは知ってるけど、あんな風にされるようなやつじゃないはず……。
俺は成り行きを黙ってみていると、ジョルジュの隣にいた令嬢が集団の令嬢に引っ張られてその輪の中に入れられる。
彼女たちはその子に大丈夫かと心配そうに声をかけている様子で、ジョルジュはそれに対して満足そうな顔して去っていく。
お節介なやつ。
わざわざ悪役にならなくたっていいのにな。
俺がいることに気がついたジョルジュは、ぶすくれて菓子を食べる俺を可笑しそうに笑って隣に座ってくる。
「おや、シャールも来ていたのかい。恥ずかしいところを見られてしまったな」
「どこが。ま、お節介だとは思うけどな」
「あの子は極度の恥ずかしがり屋でね。あの方がいいと思っただけだよ」
確かにそうみたいだな。
遠くからでも顔を真っ赤にして緊張してるのがありありとみて取れる。
「そうか。お前の得意分野だもんな」
人の感情を読み取るがうまいジョルジュだからこそさっきみたいなことができるんだろう。
俺には無理な芸当だ。
「もっとスマートにできればいいんだけどね。剣術のように上手くはいかないらしい」
「ジョルジュにも悩みがあるんだな」
そういや俺がジョルジュに手を貸すってことはなかったか。
ジョルジュが困ってるとこって見たことないかもしれないな。
「もちろん。目下、今の悩みはボレス騎士のように強くなる方法かな」
「大層な目標なこって」
「横に並びたい続けたい人がいるからね」
ジョルジュはそれが誰かを俺に言うことはなかったが一瞬だけ俺に向かって不敵に笑って、俺が持って来ていた皿からひょいと菓子を摘んだ。




