なんなのよ、この家は!
今回はちょっと現在に戻りましてハリエットの話です。
「ちょっと、何するのよ⁉︎ 」
盛大に水を被ったハリエットは大声でわめいた。
クレヴァン家で働き始めて10日、ハリエットは先輩使用人たちにからかわれる日々が続いている。
もともと一般人であるハリエットは使用人たちの動きについていけるはずもなく、先輩使用人たちの洗礼とも言える悪戯にことごとく引っかかりこうして被害を受けている。
ついで言っておくとルイをうちで働かせるのに躊躇ったのはこれが原因だ。
もっとも、相手は普通の人間だということでやり過ぎればアルバンからお仕置きがあるため一応大したことはされていないが。
最初こそその被害に怯えていたハリエットだったが、元の性格なのか開き直りなのか分からないが次第に先輩使用人に容赦なく食ってかかるようになった。
ま、ハリエットがどれだけ暴れようとうちに被害が出ることはないから問題はないし、それくらいじゃないとうちでやってくのは難しいだろうからちょうどいいだろ。
「あー、大丈夫か」
「あんたが大丈夫に見えるならね」
被ったのは綺麗な水だから大丈夫だな。
さすがに変なものが混ぜられてたら問題はあるが、あいつらも一般人相手にはそんなことはしないし。
「さいっあく。これで今日二回目よ」
「まだ朝だぞ」
「そうよ。まだ朝なのに、よ」
時間はまだ午前中で、朝食を食べてからわずかに経ったくらいだ。
それなのにもう二回目だっていうのは、よっぽどからかいがいがあると思われてんだろうな。
「シャール、あんたは主人なわけでしょ。こんな子供みたいなこと止めさせてよ」
束ねた髪の毛を絞ったハリエットがそう言った。
「言って止めるような奴らじゃねぇからな。効果は薄いと思うぞ」
忠誠心はあれど、言うことをあまり聞かないのがうちの使用人だ。
あいつらの性格を考えると、これでもかなり手加減しているので止めようもない。
出来るのはせいぜいアルバンに余計な仕事が増えていると伝えるくらいか。
「狂ってるわね、この家は」
「そうか?」
「そうよ。こんな貴族は見たことないわよ」
意外と自分じゃ自分の家のことはわからないってことか。
ま、フレッドたちもこの家に初めて来た時は驚いてたしな。ジョルジュは愉快な家だとか言って笑ってたけど。
「やめさせたいなら手っ取り早いのはお前があいつらに勝つことなんだよなぁ。認めさせればいい話だ」
「こんなか弱い乙女に出来るわけないでしょ」
ま、確かに力では勝てないかも知れないが口では勝てるんじゃないかと思うんだが。リックあたりならおそらく。
あいつらにあそこまで吠えられれば十分その才能はあるはずだ。
アリアとはまた違った方向になるとは思うが、上手く噛み合えば厄介なことになりそうな気もする。
「ピンキーあたりに相談してみたらどうだ?純粋な力だけで渡り合ってる女性陣はさすがにここでも少ないしな」
どう頑張っても性別による純粋な力の差は埋めるのが難しい。
それを補うのは技術と経験。あとは力以外の別の何かだ。ピンキーなら戦いの技術ではなく盗みの技術を持っている。
「丸投げ?」
「専門外。断られたら先輩とかピンキーしか頼れないとか言っときゃ手は貸してくれると思うぞ」
俺は少しだけ投げやりに答えてから、城に向かうための準備に取り掛かった。
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