勉強嫌いの覚醒2
イザベラと会って釈然としない思いを抱えたまま俺は騎士の訓練所に向かう。
体を動かせば嫌なことなんて忘れられるし、発散できる。
「おやシャールも来たのかい?」
訓練所にたどり着くと騎士に混じってジョルジュがいた。
一歳年上のジョルジュも俺と同じように騎士の家系の生まれで、それなりに家同士の付き合いがある。俺にとって数少ない友達の一人だ。
「やることがないからな」
「そうか。なら手合わせ願おう」
おそらくフレッドが忙しくてこっちに来たと察しているジョルジュは何も言わず俺に木剣を投げて構えた。
「受けて立つ」
難なく受け取った木剣をジョルジュに向けて構えて、俺とジョルジュは剣を打ち込む。
しばらく打ち込んでいると周りを囲んで騎士たちが俺とジョルジュの試合の観戦を始める。
どちらを応援するわけでもなく、剣筋がいいとかそんなことを話している。
お互い息が切れ始め、俺の手にしていた木剣が飛ばされる。
「勝負ありだね」
「くそっ」
俺は飛んでいった木剣を拾いにいかず、その場で仰向けになって倒れる。
あと一歩、実力にほとんど差はない。
そろそろ一勝と思うのだが、未だにジョルジュに勝てずにいる。それだけジョルジュも研鑽を積んでいるのだろう。
隊長に走り込みをするように言われた騎士たちは、俺たちに声をかけるのもそこそこに怒られる前にと走り始める。
笑う声が遠のいて、ジョルジュが俺の隣に座り込んだ。
「今日はいやに不機嫌のようだけど?」
ジョルジュが言う。
初めから分かっていてこいつはいきなり試合をしたんだろう。
理由は初めから尋ねても怒ってないと一蹴されてしまうと踏んで先に剣を握らせた。
「朝から勉強勉強って、イザベラにも言われてうるせぇっての」
母上に勉強しろと言われ、さっきイザベラに言われたことをジョルジュにそのまま伝えれば、ジョルジュはおかしそうに笑った。
「彼女の言うことも一理あるね」
「そうかよ」
むくれる俺にジョルジュは僕も勉強は苦手で逃げ出したくなると言ったが、逃げずに勉強をしているという。
「我が家ではやらなくては練習に参加させてもらえないからね。その代わり予定より早く覚えてしまえば多くの時間を練習に当てられる」
「ふーん」
「今は兄上の勉強に追いついているから割と自由にさせてもらえているよ」
そう言ったジョルジュはそのぶん剣の練習が出来ていると付け足した。
走り込みから騎士たちが戻ってくると俺とジョルジュは訓練に少しずつ参加させてもらい、夕暮れになる頃に父上が俺を迎えに来た。
父上とここに来た非番の騎士は俺に頭に手を置いて屈んで目線を俺と合わせるとからかうような笑みを向けてるくる。
「シャールお前、勉強から逃げだしてるんだって?」
すると、他の騎士たちもすぐに意味を理解したようで大笑いをして、しみじみと言う。
「クレヴァンっていやあ、文武両道の強い騎士なんだがなぁ」
「王子にお前がつけば鬼に金棒だと思ってたけど、どうにも違うみたいだな」
「じゃあ、オレがシャールの椅子でも狙って見るか」
「お前じゃ近衛は無理だっての」
散々な言われようなの俺は今に見てろと、騎士たちをキッと睨んで父上を引っ張ると家に帰った。
敵前逃亡と言われた悔しさとジョルジュの言葉で俺は、父上が雇った教師から逃げずに戦い抜くことを決意した。
それから、フレッドやイザベラの勉強に付き合わされることが時折あったのだが、初めこそ教わっていた俺は次第に教える側に回ることが多くなった。




