クレヴァンと王家
これからまた、よろしくお願いします。
時系列はバラバラになります。ほとんどは本編前の過去話になる予定です。
王家の守護者――。
王を見定める者――。
クレヴァンの家訓として掲げられたそれは、この国が建国された時から続くクレヴァンという家の役割らしい。
壁に貼られた家訓を見上げていた幼い俺に父上は歴史は学んでいない俺にわかりやすく教えてくれる。
「昔からクレヴァンは強かったってことだ」
「……昔から」
「ああ、そうだ。だから昔の王様はこの家を騎士にしたんだぞ」
それがクレヴァンの家の誇りだと父上は笑って俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
俺が父上を見上げると、父上は家訓の書かれた紙を真面目な顔して見つめていて、声をかけると父上は自分の頭をガシガシとかいた。
「父上?」
「うーん、そうなんだけどな。そうじゃねぇんだわ」
父上は家訓の書かれた紙を壁からベリベリと剥がすと、こともあろうかそれをビリビリと破り捨てる。
「父上、何を――」
「必要ないからな。いいか、シャール」
俺と同じ目線になった父上は、いつものおちゃらけた感じではなく、クソ真面目な顔をして俺に向き合った。
「王家を守る騎士なんかごまんといるし、見定めるやつだって王の近くにゃ大勢いる。わざわざクレヴァンがやるべきもんでもねぇんだよ」
むしろ、たった一人でやっていたところで一対多数じゃ勝てるわけもないと父上は付け足して豪快に笑った。
「だから、シャールがやりたいことがあれば好きにやりゃあいい。俺も昔は別のことがやりたかったんだよ」
「じゃあ、なんで」
なんでそっちにならなかったのかと聞けば、真面目な顔してふざけた答えが返ってきた。
「そりゃ、陛下とばかなことすんのが楽しいからだな」
「それだけ?」
「それだけって、他の理由がいるかよ」
馬鹿げた答えではあるが、自他共に認める陛下の悪友だけあるのかも知れない。
「ま、あいつとつるむのは楽しいからな。イタズラするにゃ最高の相棒ってな」
「ふーん」
愉快そうな笑みを浮かべた父上は、つい最近宰相に対して陛下とイタズラを仕掛けたと言っていて、宰相の反応を思い出しているのだろう。
いい大人が全くと説教されたらしいが、全然応えていない二人に宰相は半ば諦めているようだ。
「馬鹿げてようと、こいつのためなら命賭けてもいいと思わねぇとなんも動けなくなっちまうんだよ」
だからこそ、堅苦しい関係性をやらずに気軽な関係でいるのだと。
少なくとも俺はそうだと父上は言う。
お国のためと言えるほど国を愛しているわけではなく、悪友とばかなことを出来るような日常のために家を継いだのだと。
父上らしい答えに俺は呆れながらも笑った。
今思えば、俺がフレッドを王子じゃなく一人の友人としてみるようになったのはこの頃かもしれない。
まあ、それが優秀な王子からポンコツ王子と知るきっかけになるのだが――。




