シャールを知る人
剣術指導も無事に終わり、シャーロット姿で学校に通う日常が始まった。
今日はルディが学校を休んでるため、割と自由だ。
たまにはこんな静かな日もいいと思う。
あいつが修行に行かされても、ルディがいるから騒がしいし。(父上たちもなんだかんだとうるさい)
人気のない場所で休み時間はゆっくりとする。それだけで心が休まるからな。
エメリたちといるのもそれなりに楽しいけど、精神的に疲れるし。
のんびりと過ごしていると、話し声が聞こえて足音が一つだけ近づいてくる。
「――シャーロット様」
俺をみて小声でいった。
同学年の男子。黒に近い茶色の髪と同じような瞳の色をしている。
確か、貴族じゃないはず。
入学前に渡された資料(一週間で全校生徒を覚えろと無茶振りされた顔と名前が記されたもの)見たときから、なんとなく見覚えがある気がするんだよな。
緩んだ気を引き締めて令嬢モード。
慣れてきたとはいえ、微笑むのは辛い。(油断すると引きつる。)
「私になにかご用ですか」
俺の顔を見据えて、彼は片膝を地面につく。
それはまるで、王に忠誠を誓う騎士のようで――。
俺の目を真っ直ぐと捉え、決意したように声を出す。
人のいないこの場所で、俺にだけ聞こえるような声の大きさで。
「このような無礼お許し下さい。シャール様」
「……なにを」
間違いでも冗談でもない、真っ直ぐさがひしひしと伝わる。だからこそ、反応が遅れた。
「先日の剣術授業で確信をしました。貴方がシャール様だと。それで……」
確信してる。
どう対応すべきか、出方しだいだな。
「 本当はお声がけするべきではないと思ったのですが、こちらをずっとお返ししたくて……」
差し出されたのは、今より小さい子供の頃に使っていたハンカチ。
「これ、は……」
俺の疑問に丁寧に答えてくれる。
「僕はアルジェント領で暮らしていて、昔、貴方に助けて頂いたんです」
「むかし?あー、祭りの前日か」
「はい!」
記憶を手繰れば、同じくらいの子供を助けた記憶はある。
あの時は、おっさんたちのお使い途中で、こいつがゴロツキ(酔っ払い)に絡まれて怪我してたんだよな。手当てにハンカチ使ったんだ。
「そっか、あん時の」
「はい、ずっと貴方にお会いしたくてこの学校に」
「すごい努力だな」
たぶんだけど、天才じゃない。そもそも、この学校に庶民が通おうとすると、それだけでかなりの努力が必要となる。
貴族と違って学べる場所も少なく、上流階級でもなければこの学校に通えるほどの知識を身につけることは想像以上に難しい。
特に大人たちは子供を働き手として育てるから。
「夢を叶えるための苦労は苦労じゃありません。あの時から、僕はシャール様にお仕えしたいと思っていますから」
「それはどうも」
「あっ、名乗らず大変申し上げございません。僕はルイ・ルルーシュと申します」
最初に名乗ればよかったとつぶやいて、恥ずかしさに顔を真っ赤するルイは、丁寧に頭を下げる。
「シャール様の貴重なお時間、お邪魔してすみませんでした。失礼します」
急ぎ足で去っていくルイに声をかける。
「わからないことがあればいつでも聞きに来いよ、ルイ」
今は男爵家の令嬢だ。なんの問題もない。
それに見捨てたくはないよな、あんなまっすぐなやつを。
まあ、真っ直ぐなルイをクレヴァン家で雇うのはさすがにな。
父上は面白がって雇いそうだけど、あの魔窟に入れるのは――どうかと思う。
「はい、ありがとうございます!」
もう一度、頭を下げたルイが去っていく。
その後ろ姿はなんか、喜びに打ち震えている――ような気がした。
後日、ルイとルディが会う機会があった。
その際、目が合った瞬間になにか共感があったらしく、固い握手を交わしていた。
初対面の相手だというのにルディがルルーシュ殿呼びなのはどうしてだろうか。
ルディにより、ルイは貴族の作法等シャールを支えるための勉強をしている模様。
シャールは全く知りません。