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小さなお茶会

  夏休みも近づき、二年生主催のお茶会が終わった午後――。


 夏休み明けの授業についての打ち合わせがあった俺は静かな校内を1人歩いて玄関に向かう。


 時間は夕方近く、予報より早く降り始めた雨は思ったよりもひどく、傘はあまり役に立ちそうもない。


「イザベラ、様」


 玄関に置かれたベンチに赤い髪の縦ロールが座っていた。他の生徒と違う白い制服を着ているから見間違うことはない。


 つぶやきに気づいたというより、人の気配に気づいたようでイザベラがこっちを見る。


「あら、あの時の……」

「はい、あの時は本当にありがとうございました」


 イザベラはわずかに目を伏せて、俺に尋ねる。


「馬車が来るまで時間があるの。それまで付き合ってくれないかしら」

「えっと、はい」


 俺が了承すると、(決して安くない金額を払うと使える)個室のサロンに連れて行かれる。


 部屋に入るとイザベラが頭を下げてきた。


「ごめんなさい。ずっとあなたに謝りたいと思っていたの」


 なんのことかわからないと装って俺はいう。


「頭を上げてください。そんなことされることは――」

「あなたと会ったあの日から誰が犯人かを調べました」


 イザベラは深呼吸をして、言葉を続ける。


「犯人は私を慕ってくれる方々で、長い時間気づかず彼らをすぐに止めることが出来なかったのは、私の責任ですわ」

「……………」


 ――責任か。


「彼らには相応の罰を与えましたが、もしも、また何かあるようでしたら教えてください。公爵家に生まれたものとしての、私のやるべきことです」


 まっすぐな目でイザベラはいう。


「そのときは、お願いします」

「ええ、もちろんですわ」


 イザベラにそう返せば、彼女は柔らかく笑った。


  「それで、お詫びではないですが――」


 つかの間の、ひどい雨が止むまでの二人だけのお茶会が始まった。


  紅茶と、一口サイズのケーキとクッキーが机に並べられる。


  どれも庶民には手が届かないような高級品ばかりだ。


「遠慮せず食べてちょうだい」

「あ、ありがとうございます」


 ぎこちなく笑えば緊張しなくてもいいと言われる。ここでは同じ生徒ですわと――。


 緊張というか、うん、バレやしないか内心ヒヤヒヤはしていて、恐怖はしてる。


  意外と関わることも多いからな。


 強制参加の社交の場には必ずいるイザベラは、割と挨拶しなければならない対象だった。


 王子と遊ぶために城に行けば、彼女は前王妃(イザベラからすると祖母にあたる)に溺愛されているため城によくいた。だから、一緒いることも多かった。いわゆる幼馴染だ。


 そう考えると気づかれそうで怖い。気づいたやつもいるからな。


 そんなわけで、ボロを出さないよう細心の注意に払い、いつも以上に女性らしい動作を心がける。


「あなたはクレヴァン家の遠縁とか」

「ええ、はい。身分が違いすぎてお会いすることはありませんが」

「それにしては、ルディ君が随分懐いているのね」


 本当にね。あれは懐きすぎだ。適当に誤魔化すとしよう。


「シャール様から慣れないだろうから力を貸してやってくれと頼まれたとか、それにルディ様にはお姉様がいらっしゃるそうなので、慕ってくれるのでしょう」

「そうでしたわね。それにしてもよく似ていますわね」


 イザベラに真っ直ぐに見られて、俺は慌てて話題を振るが、方向性を間違えた。


「そんなに似ているのですか」

「えぇ、とても」


 こんな感じの冷や汗の止まらない小さなお茶会も、雨が小降りになってイザベラに迎えがきてお開きになった。


 バレてないみたいだし、一安心かな?


内心ヒヤヒヤしてるわりに、しっかりとお菓子は食べきるシャール。

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