77・【勇者】シャルカール
ギリス教カソリーク派の切り札である、【勇者】シャルカールが突然姿を現した。カソリーク派が勇者を二人共投入してくるとは、正直予想外だ。
「クネクモ! カール王子を拘束しなさい! 早く!」
クネクモが糸を伸ばしてカール王子を狙った。私の命令に返事をする間も惜しんだ、素早い行動だったのだが。
スパンッ
「それは困ります。私の受けた命令には、カール王子の救出も含まれてるのです」
シャルカールのレイピアがクネクモの糸を切断した。
シャルカールは私の目の前にいたのだ。それが、今は窓際にいるカール王子の隣にいる。その移動に気づいた者は誰もいなかった。
噂に聞く、シャルカールの固有スキルの一つによるものだと思う。
スキル《瞬間移動》。
移動系スキルの最高峰とも言われるスキルだが、情報がない。何せ、今初めてお目にかかったばかりのスキルなので無理もないが。
どのくらいの距離を跳べるのか?
どのくらいの頻度で使えるのか?
身体への負担はどの程度なのか?
それにより、この《瞬間移動》の有用性は決まってくるだろう。
ただ一つだけわかった事がある。それは圧倒的な速度の速さだ。
《亜空間移動》ましてや《影移動》などでは到底追いつける事など出来ない。
私では、スキルを使った事すら気付けない圧倒的な速さ。
正に《瞬間移動》の名に相応しいスキルだ。
場の空気が重い。
ジホムの【勇者】シカですら表情が硬くなっている。おそらく、シカもあの《瞬間移動》へ対処する手段がないのだと思う。
『申し訳ありませんマリ様、シャルカールの動向は俺が監視していたのですが、見失ってしまっていました』
『アレティー? 貴方、今、何処にいるの?』
『ギリス教イルド教会に潜伏しています』
『今直ぐに脱出しなさい! いないとは思うけど、もしシャルカール以外にも《瞬間移動》が使える者がいたら、貴方でも逃げ切れないわ』
『そうさせて貰います。ご武運を』
『貴方も気をつけてね』
敵の本丸にアレティーを潜伏させるなんて、ナビは無茶な事をさせるわね。
あの《瞬間移動》を使われたら見失うのは当然の事だ。寧ろこの化け物相手に見つからなかった、アレティーの優秀さの方が賞賛に値するわね。
『私も見失っていました。謝罪します、マリ』
『あんまりアレティーに無茶させないでよ。ところで、あれへの対処法はあるの? ナビ』
『現在、アンナとも検討中です。出来るだけ戦いを引き延ばせて下さい』
『簡単に言うわね、まあ、やるしかなさそうだけど』
ナビですら見失うのか、本物の化け物だな、あの【勇者】は。
「私の任務はカール王子とゴドロワ先輩を確保して、この場を脱出する事ですが、可能なら敵となる強者の数を削れとも命じられてます」
「その二人は見逃してあげるから、直ぐに出て行って欲しいんだけどね」
「う〜ん、命令ですから一応やるだけやってみないとです」
まあ、そうくるよね、参ったなあ。
『マリ! シカの左!』
「シカ! 右へ!」
ピヒュウン
「くっ!」
シカの左に現れたシャルカールのレイピアが、右へ跳んだシカの左肩を掠める。
「アイスエイジ!」
フッ
シャルカールのいた場所を空間毎凍らせたが、シャルカールは既にそこにはいない。
『マリ! 上!』
ピヒャッ、ブゥンッ、フッ
私の頭上に現れたシャルカールの攻撃を身をよじって躱す、シャルカールの右手のレイピアは私の左胸の上側を薄く切った。直後にシャルカールが左手に握るレイピアが私に迫る。
ガラジャが尻尾を飛ばしてシャルカールを狙った為、私の眼前のレイピアと共にシャルカールはカール王子の脇へと戻った。
「ありがとガラジャ、助かったわ」
「お姉様はわたくしがお守りします」
駄目だ、速すぎて反応出来ない。このままじゃジリ貧ね。
『マリ、代わりなさい』
『アクラさん、あれが捉えられるの?』
『無理ね。でもマリよりは早く反応出来るわ』
アクラさんでも無理なのか。悔しいけど私よりはアクラさんの方が戦えるわね。
『お願いするわ、アクラさん』
『やれるだけはやるわよ、死んだらごめんね、マリ』
「俺を忘れるんじゃねえ! ウリャアアァ!」
「テメエの出番はねぇんだよ!」
ブオウガキイィィ、フッ、ズシュン
「ぐああぁぁ!」
ゴドロワが雄叫びを上げシカに向かって厚鋼刃剣を振り下ろす。
シカの横合いからシヴァルが飛び出し、厚鋼刃剣を左爪で受け止めると、右爪をゴドロワの首目掛け伸ばした。
シヴァルの爪がゴドロワの首に突き刺さると思われた瞬間、シャルカールが《瞬間移動》で現れてシヴァルの右腕を切り落とした。
「余計な真似するな、クソ女!」
「助けたのに酷いなあ、ゴドロワ先輩」
「いやああぁぁ!」
シュン、フッ、シュパァ
「うぐふっ」
隙をついてシカが抜き打ちにシャルカールを狙った。シカの刀が斬ったかに見えたが、シャルカールの体がブレる。
極短距離の《瞬間移動》。シカの刀の間合いギリギリに移動したシャルカールが左手のレイピアでシカの胴を薙いだ。
体制を崩していたシカだったが、反応良く体を捩り致命傷だけは回避したが、深く斬り裂かれた胴から血を吹き、片膝をついた。
「ブラッディニードル!」
フッ
シカにトドメを刺そうと、右手のレイピアを振り上げたシャルカールへ、シヴァルが手首から先が無くなった右腕を向け、血の棘を発射する。
またしてもシャルカールの姿は消え、血の棘はシャルカールのいた空間を通過した。
「アイスランス!」
ピフッ
アクラさんが自分の左側の地面から氷の槍を突き上げる。おそらくアクラさんの勘で放った氷の槍だったと思うが、そこに現れたシャルカールの姿が一瞬でまた消える。
「危ないなあ」
右側から現れた声の主の左足は氷の槍でもって僅かに傷つき血が流れている。
その声の主の右手に握られているレイピアはもう眼前に迫っていた。駄目だ、避けられない!
フシュッ、ズドオォォン
死を覚悟したその瞬間に、突然現れた一つの影が声の主へと体ごとぶつかった。
6本のフワフワな尻尾を持った、人とも狐ともとれる真っ白い影が。
「マリちゃんに何すんのよ!」
「メソちゃん気をつけて! ソイツは・・・」
フッ
メソちゃんに吹っ飛ばされた筈の白銀の勇者の姿が既に消えている。
消えた筈の勇者の姿は、メソちゃんの頭上に有り、2本のレイピアでメソちゃんを刈り取ろうとしていた。
シュバッ、ドガアアァァン
白銀の勇者の更に頭上に現れたもう一つの影が、白銀の勇者を蹴り飛ばした。その脚は人の物ではない。鋭い爪を生やした4本の長い指を持った足だ。
白銀の勇者を蹴り飛ばした影は、今も悠然と空を飛んでいる。誇り高い竜の翼を広げた、人と竜との特徴を合わせ持った真っ赤な竜人の影。
「貴様、我の家族に何をしようとしたのだ。許さんぞ、人間!」
タツキは別格だ。シャルカールの身体能力を考慮して、タツキなら《瞬間移動》が見えなくても、反応だけで圧倒出来る。
これで形成逆転だ!
まさかのマリ視点終わらずです。ずっと長めの話数が続いているので、今回もここで切る事にしました。
書きたい事を全部書いて、丁度良い長さで終わるのって難しいですね。
5話連続のマリ視点って、最早マリ主役って感じですが、次回もマリ視点から始まります。途中で視点代わると思いますけどね。
もう少しだけ、マリ主役にお付き合いください。
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お手数だとは思いますが、何卒宜しくお願いします。
連載中[能力はチートだけど・・・]
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互いに独立した自己完結する作品に仕上げる予定です。
こちらもよろしくお願いします。




