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ミサのメモ①
「異世界人特別保護区」は0区
0区は東西南北の「域」に分かれてる
「域」はまんなかに近い方から1、2、3、4「街」
東は日本の街みたいで、西が一番ファンタジーっぽい
ミツキさんちの住所は0-E-3「アキノ」方
「昨日、西域4街の市場で大変な騒ぎを起こしたそうですね?」
受付の椅子の背もたれの方から降って来た、いかにも「怒りを押し殺してます」風なユリウスさんの声に、私は震えあがった。
き、昨日今日でもう報告上がってんのかよ!
……あ、まてよ、考えてみたらあの市場ってユリウスさんちのご近所だった。あああああ、ミサさんがいくらゴネたからって、あんなところに連れて行くんじゃなかった!
「いやあの……はい! 申し訳ありませんでした!」
とっさに口から飛び出しかけた自己弁護を必死でねじ伏せて、とりあえず謝罪する。彼は素直に謝られることを好むので。
長年叱られ慣れたお蔭で、とうとう一番効率の良い叱られ方を会得したよ! えっへん!(虚しい)
「おうおぅ。オレも聞いたぜぇ? なんでもぶつかって来たチビどもにキレて、『キサマら全員喰ってやる』とかなんとか脅しながらあたりの店舗飲み込んだんだって?」
「なんでたった一日でそこまで酷い話にっ?」
ユリウスさんのすさまじい怒りオーラなどどこ吹く風、ジーさんが心底楽しそうにがっがっが、と笑う。くっ、これがシバさんなら、一緒に毛を逆立てて怯えてくれるのに!
それにしても酷い……。濡れ衣にしたってあんまりだ。いったいどうしたらそこまで脚色できるんだ?
「言い訳を聞きましょう」
「あのですね、そもそもの発端は『暴食の魔女』の都市伝説なんです」
「都市伝説?」
「私もよく知らないんですけど、『暴食の魔女』は子供を食べるとか、悪いことをすると夜中にさらいに行くとか、そんな感じです。保護者たちが、子供をしつけるのに便利に使ってるらしいです」
まったくもう、一体誰が、何を根拠にそんなこと言い出したのか……! くそぅ、見つけ出して名誉棄損で訴えてやりたい。もしくは、せめてライセンス料を取りたい!
「その噂を真に受けた子供たちが、昨日私に絡んできまして……。退治してやるとかなんとか言って、周りを取り囲まれたんです」
その筆頭が、この前の新入生代表のエルなんとか君ね!
彼らはどういうわけだか、ミサさんが私に捕らわれていじめられてこき使われているのだ、と思い込んでいるらしい。
とんでもない誤解である。
「もちろん私、穏やかに丁寧に誤解を解こうとしたんですよ? そりゃ、むっとしたので少々顔が怖かったかもしれない……けど……」
う~ん、どうだったかなぁ。笑顔、を心掛けてはいたつもりだけどひきつってた可能性はある。だってちびっこって苦手なんだよぉ!
「んで、まどろっこしくなってやっちまったんかい?」
ジーさんがぷふー、と噴き出しながらいらん茶々を入れる。んがー! そんな度胸無いのしってるくせにいいいい!
「違いますっ! 中の一人が『言い訳無用!』とか言いながら突撃して来たんです! で、避けようとしたらミサさんにぶつかって、ミサさんがコケてそこにあった露店の支柱にしがみついちゃって」
そんでもって、支柱が傾いて、露店の屋根の布がばさぁっと……。あれってさぁ、結構重いじゃん? 誰かが下敷きになったらまずいと思って、とっさに取り込んじゃったわけですよ。あくまでも人助けのつもりでな!
そしたら一瞬の静寂の後、子供たちが「うわー」「くわれるー」って叫んでさ。
大人たちも「『暴食の魔女』だあああ!」とかパニック起こして蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始めてさ……。
露店の持ち主は腰抜かして「ひぃぃ~、命だけは」とか懇願しだすし、もう、泣きたいよね! あ、やば、なんかほんとに涙にじんできた。
屋根もすぐ取り出して、設置しなおすの手伝いますごめんなさいって何度も言ったんだけど、首をぶんぶんふっておしり地面につけたまま後ずさりするんだよ、酷くない?
結局、どこからともなくわらわらと湧いてきた黒いギルド制服のおにーさんたちが、あっという間に私とミサさん(とジェレミーナⅩⅩⅩⅠ世さん)を回収して、さくっとおうちに送り届けてくれたんだけどさ……。
さすがに落ち込んで、昨日はベッドの上で一日蓑虫になってたよ……。ミサさんたちに滅茶苦茶心配されちゃったよ……。
そういえば寮に帰る時、駅まで送ってあげなかったな。かわいそうなことをしたかな。
「……なるほど。警護課からの報告の通りですね」
「ほぅほぅ、そんなわけだったんかい」
嘘をつかなかったことは褒めてあげます、と片眼鏡をついっと持ち上げるユリウスさん。そりゃー災難だったなと、笑いをかみ殺すジーさん。
こっ、こいつら全然同情してくれてない!
うぅっ、やっぱりこのよにかみさまなんていないんだ!




