<EXTRA>2
「ぷにぃ~、ぷにぃ~」
「ジェレちゃん、楽しそうだねぇ」
「ぷに~」
「う~ん、あたしはちょっと緊張してる、かなぁ……」
「ぷに!」
「そうだよね! 一緒だからあたしも心強いよ!」
明日はとうとう中央大陸学院の入学式だ。
ミサはジェレミーナXXXI世がうきうきしながら荷物をトランクに詰める様子を、ベッドの上にころんと転がったまま、感心しながら眺めていた。
なにせ、ミサの荷物だけではスッカスカだったトランクが、ジェレミーナXXXI世の荷物が加わると不思議なことにいっぱいになってしまったのである。
ジェレミーナ一族は着道楽なんです、というミツキの言葉通り。ほぼ全てが、制服と同じ生地で作られたリボン、ネクタイ、スカーフ、帽子、ショール、その他諸々のアクセサリー類で占められている。
よくもまぁこんな短期間にこれだけ揃えたものだ。
お金の出どころは……どうやらXXX世らしい。
子煩悩なのはいいことだが、ますますモンスターペアレントになる確率が上がったような気がする、とミツキが頭を抱えていた。
「ぷにぷに!」
「ほんと? うれしーなぁ」
どうやらジェレミーナは、ミサにも貸してくれると言っているようだ。ミサは素直に喜んだ。
実を言うとミサはジェレミーナの言葉がわかるわけではない。ただ何となく、雰囲気とその場のノリで返事をしているだけなのである。
すれ違っていることも多々あるのだが、お互い細かいことを気にしない性格なので今のところ問題は起こっていない。
あまりに適当なやり取りに、たまりかねたミツキが思わず突っ込むことはあるが。
「ねぇねぇ、ジェレちゃん。昨日教えてもらったんだけど、この学校、3つの寮があるんだって! どこ入りたい?」
ミサはモニター生ということで特別に、希望の寮に配属してもらえるらしい。
ジェレミーナに関しては、本人はともかくアレがアレなのでアレです、とミツキがごにょごにょ言っていたのでこちらもきっと希望が通ると思われる。アレなので。
ミツキによれば、寄宿学校というのはとにかく「どの寮に属するか」でその後の生活も人生も変わってくるらしいので、ここは慎重に決めたいところだ。
だって、もしうっかり、犯罪者になる確率が高い寮なんかに入っちゃったら大変ではないか。どうせなら校長先生に理不尽なくらい贔屓されてる寮の方がいいに決まっている。寮対抗杯なんかがあるならなおさら。
……贔屓も何も、新しく開設されたばかりなのでどこも真っ新なはずなのだが。
荷造りに余念がないジェレミーナのために、ミサはパンフレットの「寮について」の部分を音読することにした。
あまり文字を読みたくないミサは、持ち物欄と選択科目以外をスルーしていたのだが、お蔭で吟味する時間が少ししか残っていない。
ミツキさんも、もっと早く教えてくれたらよかったのに。自分で選べるって知ってたら、もっとちゃんと読んでたのに。
「まず、『双剣の塔』ね。えーと、『二つの剣が並び立つ様子をイメージしたタワー型の建物です。敷地内で一番高い建築物であり、二つのタワーを繋ぐ空中回廊は全てが強化魔法のかかったガラスでできています。そこからの眺望は、学業、訓練に疲れた心を癒してくれることでしょう。戦闘訓練所や道場のあるエリアに近く、武術系クラスを多めにとる生徒に向いています。』ふむふむ」
つまり、のーきんさん向けかな、とミサはとんでもなく失礼なことを考えた。自分がミツキからそのように認識されているとも知らずに。
「それから、『図書館』! え、図書館って図書館?」
「ぷに~?」
「わぁ、ほんとに図書館なんだって!『学院の裏手に広がる森の中にある荘厳な図書館。知識と静寂を重んじるこの白亜の建物は、常に書物と共に在りたい学生の為に、寮を兼ねて設計されました。読書スペース上の特徴的なドーム型の屋根には透過魔法が掛かっており、室内にいながら空を見上げることができます。』」
なんだかファンタジーだなあ、とミサは今更ながらに実感した。
さっきの「双剣の塔」の説明文にも魔法がどうのこうのと書いてあった気はするが、天井があるのに見えない、というのは、うん。また特別な気がする。
なんかそういうの、アニメで見たような気がする。
だけど「静寂」って、あたしはダメだなぁ、とミサは思った。
なにせ彼女はどちらかというと、一日中だっておしゃべりしていられる性質である。日本にいた頃はよく、「頼むから、5分でいいから静かにして!」と母に叱られたものだ。
そういえば、おかあさん元気かなぁ。
いつか、元の時間、元の場所に、元の姿で戻してくれるって、ギルドはそのための研究をしてるんだよって教えられたけど。本当にそんなことできるのかな?
……っと、いけないいけない! そんな事考えて落ち込んじゃだめだ。あたしは絶対、いつか帰るんだから。
マイナス方向に傾きかけた思考を無理やり振り払って、ミサはもう一つの寮のページを開いた。
「えっ?」
めくった途端出てきた写真にビックリして、がばりと起き上がる。
こしこし、と目をこすって、もう一度見直した。……間違いない。
「これ……お寺?」
そう。
日本庭園に囲まれたお寺のような建物が、そこには映っていた。けっして、ホームシックが見せた幻覚などではなくて。
「えっと……し、『忍庵』?『副学院長お気に入りの日本庭園に囲まれた宿坊風建物』? 宿坊……ってなんだっけ、あとでミツキさんに聞いてみよう。『建物内部は遊び心いっぱい。抜け穴、どんでん返し、隠し扉、吊り天井など、日本の伝統的な建築様式を楽しむことができます。安全面には十分な配慮がされているので安心です。』へえええええ~~」
幸か不幸か、ミサは「日本の伝統的な建築様式」というものをよく知らなかったので、そう書いてあるならばそうなのだろう、と受け入れてしまった。なんか楽しそうだし。
異世界に日本風の建物があるなんて! とただ素直に感動したのである。
しかもそれが、副学院長のお気に入りの場所にあるということは、つまりその寮も副学院長のお気に入りってことではないだろうか?
「決めた! ジェレちゃん、あたしこの寮に入る! ジェレちゃんもここに入ろうよ」
「ぷに~」
「隣の部屋になれるといーねぇ」
「ぷに~」
*****
「ミツキさんミツキさん! あたし達、この寮に決めたから!」
「あぁ、やっと資料読んでくれたんですね。『双剣の塔』はかっこよかったですよ。転移魔法陣だけで十分だろうに、わざわざ高速エレベーターまで作ってありました。ガラス張りのが」
「違うってば、ここここ! 『忍庵』ってとこ! ねぇねぇ、宿坊ってな~に?」
「こ、ここですかっ? ここはちょっと、う~ん……。あー、宿坊っていうのは、お寺が参拝客を泊めるために経営しているお宿みたいなものです。でも、ここ……」
「じゃぁ旅館みたいなとこだね! わぁい!」
「ぷにぃ~」
「いやあの……。うん、まぁ、いいんじゃないですか」
微妙な顔で視線を逸らすミツキが少々気ならないでもないが。
「楽しみだね~」
「ぷに~」
明日が楽しみ、な二人であった。




