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<EXTRA>1

「ううううう~~ん」

 ミサはベッドの上に広げたトランクを見つめて唸った。

 入学式を一週間後に控え、いまいち気が進まないながらも荷造りをしていたのだが。

 ミツキが買ってくれたトランクのサイズと荷物の量が、あまりにも釣り合わないのである。


 ミサはもう一度、学校案内の「自分で用意する物」欄を上から下まで眺めて、トランクの中身と照らし合わせはじめた。ちゃんと声に出して指さし確認をするのだ。そうすれば忘れ物がなくなるよ、と小学校の時の担任の先生が教えてくれた。


 確かあれは、ランドセルを忘れて登校した日のことだった。

 自分でもさすがにこれはダメだと思って、その日からミサはちょっと面倒でも、サボらずにこうして点検する事にしている。


「タオル数枚って、5枚もあれば足りるよねぇ、洗濯できるんだし。替えの下着……もやっぱり5でいいや。パジャマでしょ、歯ブラシ、歯磨き粉、石鹸、シャンプー、リンスっと。私服は部屋の中だけ、ってきびしーなぁ」


 寮は一人一部屋の個室だと聞いているので、それならばとミサはスウェットっぽい生地のパンツとTシャツを2組だけ持っていくことにした。花の女子中学生だというのに、色気とは無縁の寮生活になりそうだ。


 いいんだ、どうせ週末ごとにこっちに帰ってくるつもりだし。あの制服結構お洒落だし。


 というわけで、ミサの荷造りはあっけなく終了してしまった。

 トランクはまだ1/3しか埋まっていない。スッカスカである。あまりにスカスカすぎて、自分が何か大事なものを見落としているのではないかと心配になってくる。

 せめてこれで、教材が入っていたらだいぶ違うのだろうが。


 ミサ的には、こう。

 異世界で、なおかつ魔法の授業もある学校に通うのだからもっとそれっぽいものを詰め込みたい。例えばローブだとか、魔法の杖だとか、薬草を詰める瓶だとか、怪しげな呪文書だとか、そんな感じのものを。

 それでもって、ついでに使い魔なんかも連れ歩けちゃったら最高!


 しかし、ユリウスから直々に渡されたパンフレットによると、教材は全て学校側が用意するし、教科書の類は机に設置されているタブレット端末で事足りてしまうらしい。

 「生徒の生体データを認証システムに登録し、セキュリティーと連動。鍵を持ち歩く必要はありません。校内での買い物も静脈認識で楽々。」というくだりで、とうとうミサは撃沈した。


 あたしのしってるまほうがっこうとちがう!

 ……実際の魔法学校など、行った事もないというのに。


 そもそもこれからミサが通うのは魔法専門の学校ではない。「落とされモノ」、特に地球出身者達が、こちらで結婚して生まれた我が子に地球レベルの教育をと望んで、そのために設立された学校なのである。

 ミサはモニターであると同時に、「地球出身の元中学生も違和感なく通っていますよ」という広告塔の役割も担うのだと聞かされている。

 実は、お給料も出る。


 だから本当はすごくスタンダードなカリキュラムを勧められたのだが、ミサは頑として首を縦に振らなかった。

 選択科目の上限ぎりぎりまで、魔法と戦闘の枠をねじ込んだ。一般科目? なにそれおいしいの、と言わんばかりに。

 ミツキからは、魔法の才がないのだからと窘められたがこれだけは譲れない。ロマンだ、そこにはロマンがあるのだ。


 確かにあたしは魔法に向いてないかもしれないけど、もしかしたら魔法理論とか、応用とか、戦術とかですっごい才能を発揮しちゃうかもしれないじゃない!

 一見落ちこぼれなんだけど実はすごいのよとか、キモチイイじゃない!

 それで、最初はちょっとあたしを馬鹿にしてたライバルグループの子達が、いつの間にか喧嘩友達みたいになっちゃったりして。それがカッコイイ男の子だったりしたらおいしいよねぇ、うへへ。


「えへへ……」

「……どうしたんですかミサさん、女の子がそんな顔しちゃまずいですよ?」

「ふへっ?」

「ただいま帰りました……」

 驚いて振り返ると、疲れ果てた顔のミツキが部屋のドアのところに立っていた。

 おかしいな、まだお仕事の時間なのに。


「すみません、返事がなかったので、また寝てるのかと思って」

「あ、ううん。いいのいいの。でも早かったよね。もしかして早退?」

 具合悪いの? と心配するミサに、ミツキは居心地悪そうに目を逸らす。


「いや、それがですね。ちょっと問題が発生しまして」

「またいつものクレーマーさん? もう退治しちゃえばいいのに」

「きいてくれます?」

「聞かないと今日の夕食がすごいことになりそう。ほうれん草だけにされそう」

「だいぶわかってきましたね」


 ミツキはうふふ、と陰鬱に笑うと、ひょいっとミサに何かを押し付けた。赤くて、丸くて、ひんやりして、ぷにっとしたものを。

「今日からしばらく我が家で暮らす、ジェレミーナXXXI世さんです」

 思わず受け取ったミサは、手の中のソレをまじまじと見下ろす。

「ぷにぃ~」

 なんとなく、よろしく、と言われたような気がした。


 ミツキは今朝、これの飼い主を決めてくると気合を入れて出ていったはずなのだが。

「……駄目だったんだ」

「ええ、もうちょっとというか、先方は乗り気だったのに! モンスターペアレントがしゃしゃり出てきたせいでっ!」

 しかもあちらのパーティーを変な風に焚きつけちゃうし! 何かあったら誰が責任とるんだ! と、嘆くミツキ。

 なんかまた大変だったらしい。よくわかんないけど。


「まぁまぁミツキさん。でもほら、この子結構可愛いって言ってたじゃないですか。あたしがいなくなった後も寂しくないですね、これなら」

「何言ってるんですかミサさん。ジェレミーナXXXI世さんは、あなたのクラスメイトになるんですよ」

「え」


「学校が始まる前に色々教えてほしいというから預かって来たんです。というわけでミサさん、親交を深めておいてくださいね」

「ぷに~」

「……え」

「じゃ、夕食できたら呼ぶので」

 ぱたん、とドアが閉まった。

 手の中のスライムはぷにぷにと楽しげにゆれている。


 ……あたし、生まれて二週間のスライムとクラスメイトになるんだ?


 ミサは久々に途方に暮れて、天を仰いだ。


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