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【Y地区下水管に異変? 募る近隣住民の不安】
最近、中央大陸の一部の住民の間に不安が広がっている。
「夜中に、変な物音で目が覚めたんです。ずるる~、するる~と何かを引きずるような音で。気味が悪くて、一晩中灯りをつけて起きていました。」
Y区画に住む204歳の女性(自営業)は、おびえた様子でこう語った。 この女性のほかにも不審な物音を聞いたという証言が複数あり、音の原因は下水管ではないかという声もあった。
自治体に問い合わせたところ、既に冒険者ギルドに依頼を出しているとの回答が得られたが、冒険者が派遣された様子はない。
なお、冒険者ギルドはお決まりの「ノーコメント」を貫いている。
「では、今朝はフレンチトーストを作ってもらいます。いいですか?」
「わぁい、あたしフレンチトースト大好き!」
「ぷに~」
ミサさんとジェレミーナXXXI世さんは、一晩で打ち解けた。
まぁ、あの二人似てるもんね。あんまり物事を深く考えなそうなところとか、マイペースなところが。
いっそのこと、このまま本当の飼い主になってくれてもいいんだけどなぁ。
「まず、食パンを四つ切りにしてください」
「ぷに!」
「え、ジェレミーナさんがやるんですか? できますか?」
「ぴぃ」
……はい、と言ったつもりだと思う。
「じゃぁ、お願いします。ミサさんは牛乳と卵と砂糖を混ぜてください」
「はい!」
「ミサさんが作った卵液にパンを浸して、液が無くなったらフライパンにバターを落として両面焼いてくださいね」
ミサさんは、お料理に関してはやればできる子だった。包丁の使い方はまだちょっと危なっかしいけど、基本的なことはだいたい覚えてくれたし。
だから最近は、下準備だけ見届けてあとはお任せすることにしているのだ。ふぅ、楽ちん楽ちん。
お蔭で新聞を読みながらコーヒーを飲んでごろごろする時間ができた。やっぱりね、ニュースのチェックって大事だと思うんだよね。
ただでさえギルド別館だけのせま~いお付き合いしかないんだからさ。外で何が起こってるのか、チェックしておかないとますます世間から取り残されてしまう。
さて、今日は何かあっただろうか。
そういえばこの前、魚屋さんの看板ばっかり連続して盗まれるっていう変な事件があったけど、あれはその後どうなったんだろう。
タブレットに指を走らせて、ぺらぺら、と見出しをめくっていく。設定すれば、視線とか声だけで操作できるんだけど、なんか落ち付かないんだ。
ほんとは紙の新聞で読みたいんだけど、割高だし溜まっちゃうからなぁ。
ぺらり、ぺらり。
オプションで付けている「ページをめくる音」が耳に心地いい。あー、やっぱり紙にするかぁ。今ならXXXI世さんもいるしなぁ。
ぺらり。
【大陸間転移魔方陣使用料引き下げ決定】
ぺらり。
【飛行船エンジントラブル発生? やはり魔法転移が安全なのか?】
ぺらり。
【急増する「解禁詐欺」の巧妙な手口】
ん~、あんまり目新しいのは無いなぁ。
ぺらり。
【Y地区下水管に異変? 募る近隣住民の不安】
「ぶふぁっ」
油断していたところに、ちょっと心当たりのある記事を見つけて、私は思わずコーヒーを噴き出した。ひぃぃ、パジャマのままでよかった!
あーこれはうん。例の件だよね。ジェレミーナXXX世さんが産気づいて、そのあとのアレコレですっかり忘れかけてたけど。
下水管から変な音がする、か。それね、アレなんですわ。大量発生した、ヘドロ系のモンスターなんですわ。
お掃除に行ったはずのジェレミーナXXX世さんが、すっかり連中に同情っつーか肩入れしちまって、保護を求めて転がり込んできたんだけどさ。保護ったって……。
人を襲ってるわけじゃないんだし、退治するなんて! って気持はわからなくもないんだけど、実際下水管が詰まったり、こうして騒ぎになりかけてるんだし、このままってわけにも。
現在上の判断待ち中なんだけど、強硬手段とったらまたXXX世さんが怒り狂うんだろうなぁ。いやだなぁ。
ぺらり。
憂鬱な気持でページをめくると、そこは訃報欄だった。うぅ、なんかますます落ち込むわぁ。
……え、あのヒト亡くなったんだ。直接お話ししたことはないんだけど、何回か本館の入り口ですれ違った覚えがある。結構有名な聖女様だったヒトだよね?
冒険中に突然倒れた、かぁ。それは……お気の毒に。
「あなたの魂が元の世界に戻れますように」
この世界に来てから覚えたお祈りの言葉を小さく呟いて、私はキッチンへ戻った。
*****
ジェレミーナXXX世さんさえ来なければ、午前中の別館受付はとっても平和で、そして暇である。
冒険者さんって、「冒険者たるもの、街にいる間は明け方まで酒を飲み続けなくてはならない」という不文律でもあるんじゃなかろうか、ってくらいに飲むんだよね。で、昼まで寝る。活動的になるのは、午後。
だから午前中のうちに報告書をまとめて、内部資料に目を通して、日誌の下書き(本当は終業直前に書くべきなのはわかってるけど~)を作っちゃうわけですよ。
そしてシバさんとおしゃべりするのだ。
「そうですかぁ。ジュニアちゃん、ミシャさんに馴染んでよかったですぅ」
「ええ、助かりました。それよりも私は『ルビーの靴』の皆さんが心配で心配で!」
「あ~……」
せっかくXXXI世さんとのマッチングがうまく行きかけていたところで邪魔をしたXXX世さんは、なんと「ルビーの靴」のみなさんにお説教をかましたのである。
いわく、向上心がないとか。努力もしないで届かないと諦める姿勢が気に食わないとか。
そんな、昭和を匂わせる熱血な説教を、藁人形とブリキに、延々と。
もちろん止めようとしたよ? だけど、ほら、わかるでしょ……。止まらなくて。結構けちょんけちょんにけなしてた気がする。
私もシバさんも、もうダメだ破談だと思ったんだけど、なんとそれが、「ルビーの靴」パーティーの眠っていた何かに火をつけたみたいで。
「必ず世界に名を馳せるパーティーに成り上がってみせる。それまでここで待っていてほしい。迎えにくるから」(意訳)
という、なんかのフラグみたいなセリフを残して、どこかに行ってしまったのであった。多分冒険に旅立ったんじゃないかと思うんだけど、あのパーティーはなぁ……。
履歴見たところ畑の見回りとか、薪拾いとか、そういう任務ばっかりこなしてたヒト達だからなぁ。
「無茶しないで、帰ってきてほしいですねぇ」
「ですねぇ」
やっぱり、知っている誰かが命を落とすのは、嫌なもんだからさ。
私とシバさんは同時に溜息をついて、お茶をすすった。




