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こちら冒険者ギルド別館、落とされモノ課でございます。  作者: 猫田 蘭
第一部-3章<エルフとギルドと魔女の檻>
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 能力が発現したばかりの頃は、随分と色々な実験につき合わされたものだ。何を取り込めるのか、どのくらい取り込めるのか、どういうシチュエーションで取り込めるのか。

 正直、バカじゃねーのこいつら、と思うくらいしつこく、ギルドは私の能力を危険視して、徹底的に調べた。


 まぁ、あの頃は素直になんでも取り込んだねぇ。

 解体寸前のお城に始まって、山とか、湖とか、畑とか、色々。ちょ~っと目測を誤って、指定範囲より広めに取り込んじゃったり、逆に一部だけ切り取る形にしちゃったりと、失敗もあったけどな!


 とりあえず私は、ギルドお抱えの研究者さん達の言うなりに、飽きもせず何回も何回も繰り返される実験につき合った。

 私のために、ユリウスさんが何か面倒な取り引きしたのわかってたし。あんまりわがまま言ったら悪いなーって。


 だけど。


「ミズキ殿、お願いします」

 何でもないことのように言われて、くらり。よろめく。

「このフラスコごと持ち帰るように、との指示です。周りに仕掛けなどありませんでした。どうぞ」

 淡々と促すワンさんに、私は首を振った。

「いや、これは、その……」

 さて、どうしたものか。


 私の能力は、対外的には「なんでも取り込む鞄」ということになっている。

 確かにその気になれば何でも収納することは可能なんだけど、その気になれないものもあるわけですよ、かよわいおとめだもの!

「これ……、『ヒト』に見えるんですけど……」


 かつて私は、一度だけ「ヒト」を取り込んだことがある。

 探査機による内部調査の結果、大気成分にも温度にも問題がなさそうだと判断したギルドが、現訓練所の女教官を取り込むように、と命令を下したのだ。拒否権はなかった。

 彼女は三日間の期限付きで、私の「鞄」の中を探索する予定だった。


 今でも覚えている。彼女を取り込んだ瞬間こみ上げて来た猛烈な吐き気。例えるなら、そうだなぁ。あ~。私、レバーが食べられないんだよね。

 一回焼き肉屋さんで、普通のお肉と間違えてお箸をつけちゃって、戻すのもアレだし、なんとか食べてみようとしたんだけど、口に入れた途端吐き気がしちゃって、でも人前で出すわけにもいかないし。

 涙ぐみながら飲み込んで、お茶で流し込んだっけ。

 あの感覚と一緒だ。


 うまく言えないけれど、自分がとんでもない事をしてしまったと思った。人として、越えてはいけない領域に踏み込んだような強烈な罪悪感に襲われた。

 ユリウスさんいわく「それは七罪に『なった』という自覚でしょう」ってことらしいけど、よくわからん。


 とにかく、その吐き気と眩暈と、ついでに発熱に耐えながら、それでも一日は踏ん張った。

 でも頑張れたのはそこまでで、結局私は過呼吸に陥って、これ以上は危険と判断したユリウスさんの独断で、実験は中断されたんだよね……。

 以来私は「ヒト」を取り込もうとするたびに軽いパニックを起こすという、厄介な体質になってしまったのである。


 もちろん、ギルドから派遣されたカウンセラーさんとか、そっち系の能力者さんと一緒に治療もしてみたんだけどさぁ。なんか、うん。ダメったらダメ。

 というか、ダメだという先入観が邪魔して取り込めないんだよねぇ。ギルドも、そのへんよぉくわかっているはずなんだけど。


 「折れぬ牙」が発見したのは、巨大なフラスコの中に浮かんで眠る、これまた巨大な女性だった。

 う~ん、このヒトもオシリスと同じくらいありそうだなぁ。身体丸めてるからよくわかんないけど。

「このヒト、ずっと眠ってるんですか?」

 起こして連れてくわけには……いかないですよねー、そうですよねー。

 いや、わかってるからそんな目で見ないで。なにいってんのばかじゃないのあたまおかしいのって顔しないで。


「一応確認しますけど、私が『ヒト』を取り込めない体質だって、聞いてます?」

 もしくは、取り込む対象が「ヒト」だって、ギルドに通知してます? と問えば、イジェットさんは「あたりめぇよ」と頷いた。

「だがなぁ、ミズキ殿よぉ。やってもらわにゃなんねぇんだよ。でなきゃ、いつまでたっても俺達は帰れねぇ」


 回収するまで帰る事まかりならん、というギルドのお達しを聞いて、私は悟った。そうか、そういうことか。

 現地に送り込んでしまって、それで、無理やりにでも回収させようと。そういうことか。

 この場にいるのはイジェットさん、ワンさん、そしてるーきゅんと私の4人だけ。なんだかんだ言いながら私を庇って甘やかしてくれるユリウスさんはいない。

 そういう状況に追い込んで、ギルドは。


「……ルーク君も、知ってたんだね?」

 彼が護衛として選ばれたのもきっと、私に言うことを聞かせるためなんだろう。私が彼に弱いと知っていたから、彼を選んだに違いないんだ。


 るーきゅんは「まぁね」と頷いた。

「あのさ。昨日も言ったけど、アンタの世界って平和だよね。それにきっと、恵まれてたんでしょ」

「……そうかもね」

「特にさ、アンタって『やりたくない事はしなくていい』って環境で育ってそうだよね」


 るーきゅんが珍しく言葉を選びながら、私にゆっくり言い聞かせるように話す。

「でもさ、ここは、アンタの世界じゃないんだよ」

 望んで手に入れた力じゃなくても、背負わなきゃならない義務って、あるだろ。


 ……3歳で勇者様の宿命を背負い、12歳で旅立ち、14歳で魔王を倒した彼の言葉は、とてつもなく重かった。


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