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こちら冒険者ギルド別館、落とされモノ課でございます。  作者: 猫田 蘭
第一部-2章<守護者と魔物と巨大ロボ>
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   おおおおおおおおおおおおおおおおおおん!


 それは狼の遠吠えのような声だった。

 魔物の声は二度響いて、ぴたりと止んだ。

 

 どうやら結構離れたところにいるらしい。

 あぁよかった、と胸をなで下ろす私の左右で、イジェットさんとワンさんが目配せをしあう。

「……出たか」

「頃合いですね」


 遺跡の魔物は親から生まれるのではなくて、個々に自然発生する。その様子ときたら、ゲームにおけるモンスターポップそのものだ。

 だから地球出身の冒険者さんは「ポップする」と表現している。

 平坦で、全部同じ大きさの大陸といい、ほんとに、こう……ねぇ?


 まぁそれはさておき。

 ポップ時間は個体ごとに一定なので、一度倒した魔物のリポップ管理は比較的容易なのである。

 なるほど、そういうことですか。


「わざと残したんですね?」

 確信を持って問いただせば、彼らは悪びれもせずに「そうだ」と頷いた。

「ルークレストはケンカを買わねえって話だったから保険にな。『暴食』殿よぉ、男の沽券に関わる勝負だ。野暮は言わねえよな?」

 巨大ビーバーが、ただでさえ凶悪な顔をさらに恐ろしげに歪めて私を威嚇した。

 こわいから。すごくこわいから。はなれて。


「それに、我々も見たいのですよ。2年前突然現れた若造が、はたしてどれほどの腕を持つのか」

 若造って、見た目はどう見てもワンさんの方がちびたんじゃないっすか。(とはさすがに言えない……。高圧電流で分解される……)


「ははは! 勝負だ、ルークレスト殿! この勝負で貴殿に勝ち、私は『最速』を取り戻す!」

 勝ち誇ったように笑って、リオウさんが走り出した。

 おいこら、もしもの時のために私の後ろを守ってたんじゃないのか?


「ふはは、一番槍ぃ!」

 るーきゅんを追い越して走り去ってゆくリオウさん。なんだろう、なんかすごく、見ちゃいけないものを見てる気がする。

 うぅむ、「無刀(むじん)」と「(ミラージュ)」かぁ。どっちも速そうだからなぁ。比べられるんだろうなぁ。それで追いつめられてあんな事に……。


 しばらくすると、鬼のような形相でリオウさんが戻って来た。

「ルークレスト殿、なぜ来んのだ!」

 そう、るーきゅんは相変わらずヴィトちゃんをおんぶしたまま、今まで通りてくてく歩いていたのである。

 一人だけやる気満々で走ってっちゃって、リオウさんカッコワルー。ファンにはみせられない。


「『最速』を賭けての勝負だと言っているだろう!」

「そうですわ、ルークレスト。男なら勝負を受けるべきですわ!」

 こういうことに男女関係ないと思うんだ、キリルさん。


 っつーか、あんたらさぁ……。

「オレの仕事はミズキの護衛だし。ふつうに進んでれば避けられる敵のために、護衛対象放り出して行くわけないじゃん」

 そうそう、それだよ。任務忘れてんじゃないのってるーきゅん!


「私の名前知ってたんだ!」

「なにいってんの」

「だって今まで一回も呼ばれたことなかったし!」

 知り合って2年間、「ねぇ」「アンタ」「あのさ」だけでやりくりしてたじゃないか!


「ちょ、もう一回、もう一回呼んでみて!」

「呼ばないよ」

「あ、でもまって、せっかくだから録音したい!」

「呼ばないよ」

「レコーダーどこかにあったと思うんだ、えっと、確か……」

「呼ばないよ。ここで家具出したらはったおすよ」

「くっ」

 るーきゅんつれない! でもそこがすき。


 リオウさんは、しばらく私とるーきゅんの攻防を眺めながらぷるぷる震えていたが、やがて、カッと目を見開いて叫んだ。

「ええい、こうなったら仕方がない。リーダー、あれを!」


「なにぃっ、アレを使うつもりかっ?」

「本気ですの? リオウ!」

「リオウ、無茶です!」

 どうやらリオウさんは最終兵器を出すことにしたようだ。それを止めようと、他のメンバーが必死で説得している。 


 私はそっとるーきゅんの方へ近づいて、その背中のヴィトちゃんのお耳をつついた。はぅ、ぴぴぴって! ぴぴぴってした!

「な、なんですか?」

「ヴィトちゃん、彼らが言ってる『アレ』って何?」

 あんまりヤバいものだとしたら、私も覚悟を決めねばならない。


 ヴィトちゃんはきゅっと目を閉じて、それからあきらめたようにるーきゅんの背中から飛び降りた。

「ぼくみならいだからよくしりません。でもきっと、あれのことだとおもいます。あれをつかうなら、たたかいはさけられないとおもいます……」


 そう言いながら何故か、背中のリュックから何かを取り出し始めるヴィトちゃん。ん? ワイヤー? ってことはさっきのあの、ちょっとエグいトラップはまさか君が……?

「ヴィトちゃん、罠士なんだ?」

 てっきり、回復系だと思っていたのに。だって癒し系だから!

 ヴィトちゃんは照れたように笑いながら、道具を確認している。


「おかあさんが、『わなはれでぃのたしなみだから』って、おしえてくれたんです。そしたらぼく、さいのうがあったみたいで」

 ほ、ほほぅ、嗜みとな。

 てゆーか、ヴィトちゃん女の子? いや、どっちでもいいんだけど可愛いし。でもレディが一人称「ぼく」は、どうかな~。


「『ぼうしょく』さまはどんなわながすきですか?」

「え、あ、ああ、私? そ、そうだなぁ、落とし穴かな」

 作ったことあるのは。

「わぁ! ぼくもぶーびーとらっぷけいだいすきです!」

 いっしょですね。にこっ。

 無邪気に子狐が見上げてくる。

 ひきつらないよう細心の注意を払いつつ、私も微笑み返した。


 ……今度こそっ! 正しい癒し系もふもふだと思ったのにっ!


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