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こちら冒険者ギルド別館、落とされモノ課でございます。  作者: 猫田 蘭
第一部-2章<守護者と魔物と巨大ロボ>
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 結局グラタン皿は見つからなかったので、るーきゅんにははじめの提案通りカルボナーラで妥協してもらい、夕食を終えた。

 くぅ、部屋中のものをほとんど持ってきたにも関わらずるーきゅんの期待に応えられないとは、不覚っ。なさけなや、くちおしや!(ぎいいいい!)


「ごめんねルーク君。考えてみたら私、オーブン料理は作ったことなかった。今度練習しとくからね」

「まぁ、ある意味期待通りだったよ」

 ……がくり。(敗北)

 い、今のは堪えたぜ。でもまって。お願い言い訳させて。


「私がランチによく行くカフェのグラタンがすごくおいしくてね。自分で作る気なくしちゃったんだよ」

「あっそ」

「だからけっして、聞くだけ聞いてオアズケとかいう悪質ないたずらを仕掛けたつもりでもなくて……」

「そこまで勘ぐってないよ。ってか、むしろその発想が怖いよ」

「ごめん」


 だってね、ユリウスさんがさぁ、たまにやったんだよ。何が食べたいのか私に聞いておいて、悩んだ末にやっと答えたら「栄養バランスが悪いので」なんて言って他のもの作り始めるの。

 1、2回ならともかく、繰り返されるとなんの嫌がらせかって思うよね?


「アンタ達の関係ってわけわかんないね」

「それは言ってくれるな……」

 共依存一歩手前の疑似父娘、なんて言われた日には立ち上がれない。

 歪んでいるのは本人達も自覚してるんで、も少し暖かい目で見守ってほしい。生ぬるい目ではなく。


「だいたいさぁ、この中に料理道具持ってくる方がオカシイから。言っとくけど、この部屋以外では許さないからね」

「わかってるよ」

 確かに冒険者という不便と危険だらけの生活にはこれっぽっちも魅力を感じない私だけれど、一応お勉強はしてるんだよ、ギルド職員として!

 

 遺跡内の魔物は熱を感知して寄ってくるから、必要以上の熱を出してはいけない。

 だから普通、食事は割高なレトルト(パッケージの真ん中を押すと一瞬であったかくなる)か、お金がなければ昔ながらの干し肉や乾パンになる。

 ただし、このルヴェンナの遺跡の、この部屋だけは特別だ。

 ここは魔物が寄りつかない、謎の聖域なのだ。


「見た目も他の部屋と違って柱とかあるし、なんか神殿ぽいよねってことで、ここの通称が『神殿』になったんだよね? でも、本当に例外はここだけだから、部屋の外に出たら間違ってもお料理なんてしてはいけません。でしょ?」

「ん。わかってんならいい」


 そういえば一応アンタもギルド職員だもんね、とるーきゅんは安心したように頷いた。

 え、なに、そんなに信用ないのか私。ただ単にるーきゅんが心配性なだけだよな?

「じゃ、そろそろ寝るよ。明日は一気に進むからね」

「はぁい」


 魔物が襲ってこないこの部屋できっちり睡眠をとってから、一気に四階層を駆け抜ける、というのがるーきゅんの計画である。るーきゅんは既に何度かやった事があるから、不可能ではないらしい。

 ただし、彼の腕あっての強行軍なので、良い子は真似してはいけません。


 そもそもこの遺跡の探索は、未だ一、二階層がメインである。普通の冒険者さん達は、ギルドが突貫した三階層(転移装置がある場所)から入って、そこから下に向けて攻略するのだ。余程腕に自信がなければ登る事はあり得ない。


 先行している「折れぬ牙」のみなさんだって、多分四階層の途中で1~2泊はしているはずだから、これはものすごく無茶な計画なのだ。はっきりいって正気を疑うレベルの。

 ……私、ついていけるかな? いざとなればアレを出すしかないか。多分、るーきゅんの計画はアレ込みだろうし。


 やっぱり元勇者様ってさぁ、「七罪」より色々ヤバくないか?

 なんで私たちみたいに、戦闘特化じゃない特殊系を隔離するクセに彼らは野放しなの?


 などなど疑問は尽きないが、とにかく今はるーきゅんを休ませてあげなくてはいけない。

 名残惜しいけど、おしゃべりはこのくらいにしておこうっと。どうせ明日も丸一日いっしょだし~。(るんるん)


「じゃ、おやすみ、ルーク君」

「ん。オヤスミ」

 ばいばい、と手を振って、私は「女子専用!」と乱暴に書かれたカーテンをおろした。


 ……いや、違うから。これ作ったの私じゃないから。元からあったものだから!


 誰が作ったのか知らないけど、いつの間にかこの部屋に出現したというこの「女性専用キャンプスペース」については、これまた非常に賛否両論あって扱いが難しいんだよね。

 男性差別だ、とかいいや区別だ、とか。むしろ男性の冤罪を防ぐために必要だ、とか。


 うむ、めんどくさい。


 個人的には、キャンプで雑魚寝とか、気にしないんだけどな。できれば寝ているるーきゅんのお耳の観察とかしたい勢いなんで。

 でもさ、無言であっちいけって指さされたら、無理に隣で寝るわけにはいかないじゃないか……。破廉恥な女だとおもわれてしまう……。


 しかしまぁ、あるならあるで便利なんだよね。着替えとか気を使わなくていいし。身体拭くのもコソコソしないですむし。

 あー、これだけスペースがあればベッド置けるよね。そうだ、ドレッサーも今のうちにだしておこっと。

 あ、そういえばクローゼットの中に……。


「家具出していいのも今日だけだからね!」

 開放的な気分になって巣作りを始めた私に、るーきゅんからの鋭いツッコミが入った。

 カーテン一枚だもんね。そりゃ、なにしてるかわかるよね。

 ……どうして、どうして私ってやつは!(ごろごろ)


     *****


 翌朝。

 るーきゅんから白い目で見られつつも、お昼用に二人分のお弁当を作って出発した健気な私を、悪夢が襲った。

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