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こちら冒険者ギルド別館、落とされモノ課でございます。  作者: 猫田 蘭
第一部-1章<迷子と王子と籠の鳥>
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「とりあえず一次面接終了お疲れさまでした」

「おつかれで~すっ!」


 かんぱぁい! とミサさんが言うので軽くグラスを掲げると、それでは不満だったのか、彼女は身を乗り出してジョッキをかちぃん、とぶつけてきた。

 割れたら危ないし、本来はぶつけないものらしいですよ、と注意すると、ノリが悪いとすねてしまった。だってワイングラスって華奢なんだよ?


 ユリウスさんとの面接が終わった後、緊張と空腹でへろへろになったミサさんを連れてきたのは、なんちゃって和風居酒屋である。

 あ、ミサさんのジョッキの中身はただのジュースです。オレンジっぽい果物の。


 ここは地球とは違う世界だからして、本当は植物、動物の名前も違うはずなのに、汎用性を高めるためにある程度アバウトな調整をされている翻訳魔法によれば、これはオレンジなのである。

 ……こういうことはあまりふかくかんがえてはいけない!


「おにぎり! シャケのおにぎり食べたい! あと、ぬか漬けとお豆腐のお味噌汁!」

「いきなり〆みたいな注文しますね」

「おなかすいたんだもん!」

 あとで手羽先とバターコーンとヤキソバとラーメンも食べるから大丈夫って、なにが大丈夫なのか。私のお財布こそ大丈夫か?


「ほんと、こっちにお米とお味噌と醤油があってよかったぁ!」

「90年くらい前にやってきた山本さんという方が、植物系チート持ちだったそうです。その方が現地のイネ科の植物を改良してお米を作ってくださったんですよ」

「山本さんマジ神!」


「お味噌とお醤油は、100年前にいらした伊藤さんががんばってくださったそうです。こういう和風居酒屋も、伊藤さんが世に広めたんですよ。あ、ほら。伊藤さんの写真がそこに。拝んでおきましょう」

「伊藤さんらぶ!」


 うんうん。やっぱり見知らぬ土地で、ホームシックに掛かる一番のきっかけって食べ物の違いだよね。先人達に感謝だよ。

「あれ、でもこのお店って、結構今風だよね? そんな昔の人がこーゆーお店つくれたの?」

「どうしたんですかミサさん! 珍しく冴えた質問ですよそれ!」

「えへへ」

「ほめられたと思ったんだ?」

 まぁ、いいんだけど。


「おまたせしました~。シャケとおかか、お味噌汁で~す」

「わぁい!」

 ウェイトレスさんがお皿をテーブルに置くのとほぼ同時に、ミサさんは右手でシャケ、左手でおかかのおにぎりを掴んだ。

そんな焦らんでも、取ったりしないのに。


「いっただっきまぁす!」

 はぐはぐと、交互にかぶりつくミサさんは、せっかく湧いた疑問のことなどすっかり忘れてしまった模様。

 うぅむ、この食べ物への尽きることのない執着からして、この子はもしかするとお料理系のチート持ちなのかなぁ……? あとで報告しとこ。


「ミサさん、食べながらでいいので聞いてくださいね?」

「ふぉえ?」

「さっきの。伊藤さんのお話です」

「うん」

 ミサさんはこくん、と頷いて、少し姿勢を正してお味噌汁を飲んだ。そうそう、感謝の気持ちは忘れずに!


「前にもちらっと教えたはずですけど、『落とされモノ』が落とされるとき、時間が歪むんです。もしかしたらミサさんだって、ず~っと前の時代に落とされたかもしれないんですよ?」

「あ、そっか。伊藤さんは私達の時代の人だけど、ずっと前におちちゃったんだ」

「そゆことです」


 というか、ギルドが必死で集めている統計資料によれば、地球から来た「落とされモノ」達はみな、西暦2000年以降から来ているらしい。

 これはいったい何を指すのか。……とゆー難しいことを考えるのは、頭のいい研究職にお任せする。


 とりあえず私に言えるのは、自分が落とされたのが平和で便利な時代でよかったな、ということくらいだよなぁ。

「でもさ、もうちょっと前だったら、色々できたよね?」

 注文の品を片っ端からお腹に入れて落ち着いたミサさんは、私のお刺身をちょろまかしながら口をとがらせた。


 この魚は遠く離れた漁「船」から、今朝転送されたばかりの新鮮なマグロ(っぽい何か)である。今が旬ということで、脂がのっていてとってもおいしい。

 惜しむらくは、この世界にはワサビがないんだよなぁ。うぅ、山本さぁん……!


「たとえばさー、マヨネーズ作って感動されたりとかぁ。新聞作って話題になったりさぁ。あー、学校作ってどこかの王様に注目されて、『君はこの国に必要だ』とか言われてむりやり王子様のお嫁さんにされちゃったりとかぁ」

 きゃー、まだ14歳なのにどうしよー、と、それはもう嬉しそうにミサさんが顔を覆ってくねくねと悶えだした。

 ……イラっ。


「どこかの国家に、政治的な理由で求婚されるのをお望みなら、『罪持ち』になるのが手っとり早いですよ」

 もっとも、なろうと思ってなれるもんじゃないがな。

「たとえば私、もう随分長いこと求婚されてますよ。王子様に。能力が便利そうだからって理由で」

「ええ! ほんとに? そのひとカッコイイ?」

「うーん」


 彼がカッコイイかどうか。判断しにくい質問が来たな。

 私的にはまぁ、ふつー? でも、彼の国ではもてはやされているらしい。(従者さん情報)

 でもその理由が「他人から覚えられにくい顔で暗殺向き! すてき!」ってんだから、異次元すぎて……。


「んー、まぁ、正装してほほえんでれば、王子様なんだろうなぁって感じの人です」

「なにそれ」

「普段は深緑色のマントを頭からかぶって、同じ色のマスクで口元覆ってます」

「なにそれこわい」

「怖い人なんです」


「でも、王子様からプロポーズなんて憧れちゃうなぁ」

 ミサさんはほぅっとため息をついた。

 ふ、これでもまだ言うか。よかろう。ならば現実を教えてやる!


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