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今日はミサさんの進路相談の日である。
この世界に来たばかりの「落とされモノ」は、約2週間にわたり担当職員と寝食を共にして、この世界の生活様式、常識を学ぶ……というのは建前でぇ、今後冒険者ギルドにとって有益かどうか、危険な思想を持ってはいないかどうかを、観察されるのである。
こういう裏側を知ったら大抵の人は嫌な気分になるだろうから、これは別館職員とお偉方だけの秘密だよ?
滅多にないことだとは思うけど、仮に有害であると判断されてしまった場合は……。はて、どうなるんじゃろ?
とにかく、ミサさんはアホの子ではあるけれども明らかに無害なので、本日無事、我が上司であるユリウスさんによる進路相談までこぎ着けたのだ。
進路相談は、別館責任者のユリウスさんが口頭試験を兼ねてミサさんに質問し、ミサさんがそれに答える、という形式で進む。
ミサさんの担当官の私はその間、お口を閉じて部屋の隅に控えていなくてはならない。
ミサさんがどんなとんちんかんな受け答えをしても突っ込むことさえ許されず、ただじっと堪え忍ぶのである。ねぇソレなんて拷問?
新人さんがどんなにアレな人であろうとも、よほどのことがなければ担当官が責任を負わされることはない。ないんだけど、やっぱり胃がキリキリするじゃん。冷や冷やするじゃん!
あぁ、授業参観に来た母親の気分……。
複雑な心境でみつめる私の前で、ユリウスさんとミサさんの進路相談(という名の面接)がはじまった。
「お久しぶりですミシャさん。どうぞおかけください」
「は、はひっ!」
おぉ! 年上だろうが目上だろうが、すぐに(一方的に)打ち解けてタメ口になってしまうミサさんが、いっちょ前に緊張しとる!
「どうですか、この世界には慣れましたか?」
「あ、えと、たぶん」
「ミシャさんは、戦闘訓練と初等魔法講座を受けていますね。どうですか、感触は?」
「魔法は、あんまり才能ないって言われちゃいました。あ、でもショートソードは結構スジがいいってほめられてます!」
「それはよかったですね」
ユリウスさんはちらりとこちらに視線を向けた。う、なんだよ?
「日本という国の方は、戦いとは無縁で武器の扱いも苦手だと聞いていたのですが。私が以前担当した女性は、何度教えても正しい構え方すら覚えられませんでしたよ」
やはりあれは国民性ではなく、個人差だったんですね、とわざとらしく頷くユリウスさん。
えー、その人が不器用すぎるんですよぉ、と笑うミサさん。
うんまぁなにを隠そう私のことですが?
弁明させてもらうとだな、人間離れした(実際人間じゃないし)美貌の男と朝から晩まで一緒に過ごすストレスと緊張で、うまく動けなかったんだよ! そうこうしているうちに我流で振り回すようになっちまってだな……。
そもそも私のメイン武器は刃物じゃないし。だからぜんっぜん悔しくなんかないし!
つーかもう、アレがあれば刃物なんて絶対使う機会ないし!
「もしかして、ミシャさんはいずれ冒険者になりたいとお考えなのですか?」
「最初はそうだったんですけど、今は迷ってます。何日もお風呂入れなかったり、結構生活苦しいって聞いて。やっぱり冒険者って、あんまり儲からないんですか?」
「そうですね、実力と運次第ですが、その日暮らしも覚悟しておいたほうがいいでしょう」
「そっかぁ」
お金さえあれば、どこででも快適な眠りを約束するテントとか、いくらでも水が出てくる水筒とか、常に体感温度を一定に保ってくれるインナーなんかが買えるんだけど、とにかく高い。べらぼうに高い。
レンタルするにしても、結局赤字になることがほとんどだって言うし。
戦闘系チートが発現していないミサさんには、絶対、ぜ~ったいおすすめしませんって、口を酸っぱくして言い聞かせた甲斐があった……。
そうでなくともまだ14歳のミサさんがそんな危険な職業に就くなんて、この世界が許しても私が許さないよ。担当官として、保護者代わりとして!
「まぁ、冒険者になりたいと本気で望むならいつでもなれますから。あぁ、あなたが『罪持ち』にならなければ、ですが。『罪持ち』については?」
「はい。別館の職員さんはみんなそうだって。あ、悪い事したヒトって意味じゃないのもしってます。えーと、ユリウスさんは確か、『神かた……』」
「げほっ、ごほん」
おおっとそいつぁ禁句だ! 私はあらかじめ決めてあった通り、2回咳をした。ミサさんがはっと口に手をやって、言葉をとめる。
あーもー、この子はぁ! このヒトはあの呼ばれ方が嫌いなんだってば。それも、恥ずかしいとか大げさだからとかいう共感を得やすい理由からではなく、「無理やりこじつけたようで正しくない」から。
……ある意味突き抜けててカッコイイとおもうんだけどなー。
逆に、「『暴食の鞄』というのはわかりやすくてとてもよい名前ですね」とか素で言ってくれちゃうんだぜ。わかんない、エルフの感性ってわっかんない!
「各呼称については省略して結構ですよ」
ユリウスさんがすかさず釘をさせば、ミサさんは口を押さえたままこくこくと頷いた。うぅむ、調教師の二つ名も与えたいな。
「とにかく、『罪持ち』でないかぎり、あなたには大まかに3つの選択肢があります」
彼がとんとん、と机をたたくと、ぽぅっ、と中央が光った。
そして、赤、青、緑の、本を模したアイコンが空中をくるくると飛び回り始める。スモークが焚いてあるわけでもないのに、不思議だよなぁ。
一体全体どうなってるんだ、この世界の技術。やっぱり、地球より進んでるのは確実だよなぁ……。
「1つ目は独立して就職する道。2つ目は冒険者になる道。そして3つ目、これが一番のお勧めなのですが……」
緑のアイコンがミサさんの手元まで飛んで行った。
アイコンは自動で表紙を開き、その中身をミサさんに見せ付けるように迫る。ぐいぐいせまる。ごり押しする気だろうか?
「新設されるギルド運営の学校に、モニター生徒として入学することです」
いやー、ミサさんはお勉強嫌いみたいだから、向いてないと思うんだけどな。
「えぇー、ベンキョーはもういいです……」
ほらね。




