超人同盟
エルフは狙われている。
聞いたことがある……主にそこらへんのファンタジー小説で……
「ひょっとして体が目当てですか?」
と言ってみたが、三人に大笑いされた。
「いやいや、まあ一部にはそういう需要も有るかもしれないけど、もっと事態は深刻でね――」
ここで話を受けたのは久須見というスーツ姿の男だった。
「――まず、自己紹介をしよう。私は日本政府の秘密組織、まあこういう表に出せない世界を管轄している神祇府というところに所属している。久須見陣吾だ。さて東雲……」
「葵です。東雲葵。年齢は16+30歳です。問題無ければまだ高校2年ですね」
「葵くんだね。君は日本にエルフが何人いると思う」
「え……俺が30年ぐらいの修行でなれるぐらいだから何百人とかいるのでは?」
たとえあの薬草園が無くても、山や森で頑張って修行したらなれそうな気がする。
「セルフィーナさん、どうですか?」
「この子を含めて4人じゃ」
「4人……ってセルフィーナ……って」
「わしは日本移住以前からのエルフじゃからな。翠木スミレというのはこっちに来てから付けた名じゃ。800年ぐらい前の事じゃな」
「800年ですか……それじゃ年齢は……」
「まあ、4桁ではあるな。それはともかく、エルフ……わしが言うのはAAA
での第二階梯、クォーターエルフということになるが、その域に達した者は葵を含めて4人しかおらん。世界を見ても200はおらんな」
「そんなに少ないんじゃ絶滅寸前ってことなのか……」
「もちろん、血はもっと広がっておる。じゃが、修行によって階位を上げんと、せいぜいが少々長生きの一般人じゃ」
「なるほど、そのAAAというのは何ですか?」
「All-realm Ascender's Alliance、略してAAA。日本語では全域超越者同盟、ということになりますが、通称の『超人同盟』の方が府内でも通りは良いです――」
神祇府の久須見が答えてくれた。
「――エルフ、仙人、西洋魔術師、即身仏、聖人、あるいは吸血鬼や現人神に至るまで、人間がそれ以上の存在になったものの組織です。この二人、そして葵くんもそちらの管轄ですね。一方私たちのような一般人はそうではありません」
「おぬしを一般人扱い出来る者はそういまい。じゃが、確かに『超越者』と『盟約者』の違いは存在するのう」
「『盟約者』?」
「自ら超常の存在になる、ではなく超常の存在の力を借り受けて『領域』に関わる者をそう呼ぶのです。霊能力者、密教僧、道術方士、エクソシスト、そして私のような陰陽師などですね」
そこで仙人が口を挟む。
「要は神仏への祈祷、神仏の力を召喚、喚起して超常の力を振るう者の事だ。かくいう俺も出自は陰陽師の家系だ」
「それじゃ、その盟約者で超越者を目指す人は多いんじゃないですか?」
超越者、の方が強い感じがするし、仙人やエルフが超越者に含まれるのなら寿命だって長いはずだ。寿命は、世俗で権力を持った者が必ず追い求めるもので、手に入れられるなら誰だって嫌とはいわないだろう。
俺は――事情がちょっと違う。仙人の修行をしている最中も寿命が、というよりまず脱出という事が頭にあった。
もちろん、何十年かかるか、あるいは100年以上か、と思える脱出までの時間が頭をよぎったときに、「いや、寿命も延びるから」と自分を慰めていなければ途中でくじけていたかもしれない。
「もちろん私も、エルフの血か霊根があればそちらの修行をやっていたでしょうね。ですが、それらを持つ者はそんなに多くない。それに、超越者の修行は危険で難しいと聞きます」
「そうだな……築基まで上がれるのは10人に1人。大半は寿命が先に来てしまう。金丹ともなれば、到達できるのは1万人に1人といったところだろう。突破を試みる者は10人いるかもしれないが、そのうち9人は突破時に失敗してその場で命を失う」
「エルフも階位を上げるときに間違って体が樹木になってしまったり、低級の悪霊に転じたりするのじゃ。厳しいのは変わらん」
「……というわけで、例え才能があってもそちらの道は厳しいのです。あえて選ばない者もいます、ですが――」
そこで久須見は急に声の調子を変えた。
目つきも鋭くなって、これから話すことが核心だと示すような雰囲気だ。
俺はちょっと背筋を伸ばして聞く体勢になる。
「――やはり、不老不死までは行かずとも寿命の延長を望む者はコヴェナント……つまり盟約者の側にも多い。そして世の中には邪法と呼ばれるものがあり、その中で超越者の血肉を取り込む、あるいは生け贄に捧げるというものがあります」
「一応、うちと盟約者の対立と思ってほしくないので言っておくが、こちらにも邪法はいくらでもある。むしろ吸血鬼など邪法こそが彼らの正道であるし、仙道にも人を生け贄に捧げる儀式がある」
「エルフにも人を親木の根元に埋めるという手法は伝わっておるのう」
「そして、彼らが狙う超越者としての条件ですが、なるだけ寿命延長の効果が高い者を狙います。すなわちエルフと仙人ですね」
AAAは多くの修行体系を統一して10段階に位置づけているらしい。
そのうち第二階梯、仙道では築基、エルフではクォーターエルフという段階で200年以上という寿命を得られる体系は他にないそうだ。
例として西洋魔術は、完全に寿命から解き放たれる第八階梯、すなわちマギステル・テンプリに至るまでは、せいぜい300年ぐらいだそうだ。
もちろんそれでは足りないため、各自が工夫してホムンクルスへの乗り換え、悪魔との契約、他者への憑依などそれぞれの方法で寿命を乗り越えるらしい。
ただ修行を進めるだけで低階梯から何百年も寿命が延長される仙人とエルフは、その意味で恵まれすぎていると言える。
「そのため、仙人は築基に至った場合仙界から移住の誘いが来る。霊草などの修行資源に乏しいこちらではそこから修行を進めるのが難しいのもある。だが主な目的はそのような生け贄にされるのを防ぐ為だな」
「問題はじゃな……エルフはそう軽々とこの世界から移住するわけにはいかんのじゃ。仮に新たな世界へと移住するとなると氏族単位になってしまう。お前の場合は氏族長が風詠となるから、シベリアにいるあいつが第八階梯に至らんとこの世界から移動することはかなわん」
自分の祖先? らしきエルフの長はシベリアにいるのか……
いずれ訪ねる事もあるんだろうか?




