美化
「ねぇ、紬のお父さんってさ、カッコいいよね」
紫苑が唐突に言い出す。
「は?」
紬は思わず聞き返す。
「この前助けてもらったんだけどさ。なんかこう――“頼れる大人”って感じがすごくて」
少しだけ目を細める。
「私のパパなんて、ママの犬だし」
(……は?)
(パパが?カッコいい?)
(あの、ママに甘えてるパパが?)
「……あ、うん。まぁ、そうだね」
無理やり頷く。
「いいでしょ」
「へぇー。そんなにカッコいいんだ」
燐が興味深そうに言う。
「僕のお父さんなんて、あれだし」
「神話クラスのゲヒュールでしょ?」
紫苑が即座に返す。
「それの何が問題なの?」
「いや……」
燐は少し言いづらそうにする。
「毎週、お母さんに虐められてる……」
「……」
「……」
空気が止まる。
「紬のお父さん、やっぱり良いよね」
「それな」
燐と紫苑が一斉に頷く。
(え、なんでそうなる?)
(何をどう解釈したらそうなるの?)
(いや待て……)
二人の目が、やけにキラキラしている。
(……言えねぇ)
(その目はズルいだろ)
「ま、まぁね……」
曖昧に笑う。
「家だとどうなの?」
紫苑が身を乗り出す。
「あ、それ僕も気になる」
燐も乗ってくる。
(やめろ)
(その質問はダメだ)
(ママに足で踏まれてますとか言えるかボケ)
一瞬の沈黙。
「……多分、二人が想像してる通りだと思うよ」
紬は濁す。
「えー、いいなぁ」
「羨ましいよね」
(うわ、最悪だ)
(めっちゃ美化されてる)
(どうすんのこれ……)




