その17.誘拐犯
ルーナパパはお茶の席でご機嫌だった。
「可愛い娘たちに囲まれてお茶ができるなんて
私は幸せ者だ!」
わたしの身なりを整えたルーナもご機嫌。
お嬢様だから、着替えから髪を整えるまで全部召使にさせてるんだと思ってた。
そう言ったら「昔はそうでしたが、王宮に勤めるようになったら
日々のことは自分でできるように教育を受けますわ」と、返され
わたしの髪を素早くとかし、難しい編み込みでおさげを美しく作った。
ルーナの圧倒的女子力に敗北だ。
おさげの編み込みの中にドレスと同じ色のリボンも編み込んであり
ルーナのセンスが光ってる。
クーガは気づいてくれるかな?
ケーキを食べながらソワソワしてしまう。
しばらくするとノックをしてクーガが入ってきた。
ルーナパパに改めてお礼をする旨を話してる。
こちらをちらりと見たのに反応がなかった。
いいけどさ。
思ったよりがっかりしている自分がいて驚いた。
居心地が悪くなりルーナにこっそり今すぐ学園の寮に帰ると告げる。
「では家の者に送らせますわ」
ルーナが給仕をしている人に耳打ちをする。
「服は明日の朝までに整えて届けさせますわ」
「ありがとう」
小声で言って部屋を出る。
なんでこんなに、居心地が悪いんだろう?
さっきまでのウキウキした気持ちは、なんでしぼんでしまったんだろう。
廊下を大股で歩き出す。
「これは君が?」
目の前に突然スーツ姿の男性が現れた。
手にはわたしの花びらが一枚乗っている。
時間と共に消えると言われていたがまだ残っていたんだ。
「はい」
答えて顔をあげる。
おや?
獣人にしか見えないんじゃなかったっけ。
もしくは『祝福』を受けた人?
微笑んで立っている整った顔の金髪の男性。
ルーナが送らせると言った人かな?
でも早すぎないか?
あれ、この人
目が笑ってない。
わたしはくるりと回って走り出す。
怖い危険。
直感がそう告げた。
しかし腕を掴まれ逃亡失敗。
「貴族の子にしては行動が早くていいね」
顎を掴まれ無理矢理顔を観察される。
「ここの子じゃないね」
男性の髪がわたしの頬にかかるくらい近い。
目が悪いのかと思ったら匂いを嗅いでいる。
「アニカ私が送って…」
クーガの声が廊下の先から聞こえる。
「その手を離せ!」
グルルと獣が唸るように声を発する。
「おっと、近づいたら…わかるよね」
わたしを胸に押し付け口を塞ぐ。
魔法を使えないようにされた。
「そこの君もだよ」
きっとイグルーに言ってるんだろう。
なに、コイツ?怖さが倍増だよ。
抜け出そうと暴れてみる。
「指を折るよ?」
本当に折そうな声音。
静かにチャンスを待とう。
「きゃああああああああ!
誰ですの⁈
アニカ、大丈夫?アニカ〜」
ルーナの大絶叫。
チッと舌打ちした男性は窓を開ける。
そしてわたしを抱えたままそこから飛び降りた。
世界がぐるりと回った。
少ない衝撃で地面に降り立つと
わたしを抱えて走り出す。
え、なにこの状況…
揺り動かされた頭で必死に状況を判断する。
わたし誘拐されたの⁈
「連絡はする。追ってきたらこの娘の足を折る」
目の端にクーガが見えた。
彼も窓から飛び降りたらしい。
危ないなあ…でもありがとう。
わたしは追ってきてくれたクーガに勇気をもらい。
押さえつけながらも歌った。
正確にはハミングだけど。
アニメ映画の中の単純なメロディ。
小さく、小さく口を開けずに歌う。
ハミングする。
クーガから逃げたかったのに、
追ってきてくれたクーガがうれしくてたまらない。
歌は小さいながらも魔法の粒を作っていく。
視界は塞がれているがピンク色の小さい粒の魔法ができているのがわかる。
小さいせいか誘拐犯は気づかない。
よし。反撃開始だ。




