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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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93/97

93 大尉

ルアブロン東方郊外

オーレンベアク辺境伯爵家 東兵営

戦闘団“シュラーガー” 本部中隊長 クレーライン中尉


 戦闘団本部は急速に動き出した。まだ本部員が使う机も出揃っていない状態だが、そこは抜かりなく順序を決めていたので、すでに補給係は業務を開始していた。

「大隊・・いや戦闘団の規定補給量の計算を最優先でやっておけ」

「基幹部隊はすぐに出せますので、それに増強分を追加していきます」

「それでいい。路面状況は不良と想定して、燃料は割り増しで計算しておけよ」

「了解しました。補給部に予備の車両と車両整備の準備も手配しておいて貰います」

「輸送手段は車両で統一するように。馬車は馬の世話と飼葉が面倒だ」

「了解しました」

「あと気になるのは渡河機材だな。大きな川はないらしいが・・・」

「問い合わせておきます」

 補給係は補給担当将校である中尉の他に、下士官と兵が1名ずつの3名から成っていて、忙しくはあるが業務過多という程でも無く、欲を言えばもう1人欲しい程度だった。

(補給を一元化したのは正解だったな)


 師団司令部指揮下の部隊を再編成した時に、各部隊が保有していた補給、輸送部隊は兵站本部の補給部に吸収されて集中運用されることになった。限られた車両と運転兵を集中管理によって効率よく運用するためだ。この為、前線部隊は補給部に必要な物資を要求すれば、護衛付の補給隊が部隊まで輸送する仕組みになっていた。


 この兵営に補給支処が開設され、正常化作戦と救出作戦の補給を担当する事になっていた。私が見る限り正常化作戦の補給は大した負担にはならないが、救出作戦はそれなりに補給に関する負担がかかりそうだった。

(救出部隊が東端に進出するまでは、弾薬の消費量は大したことはないだろうし、糧食も現地調達できる可能性は高いと思われるので、燃料の心配だけしていれば良い。だが、東端から先に進めば弾薬消費は跳ね上がるだろう、路面状況が悪化すれば燃料の消費も増える。加えて、孤立している辺境伯軍を発見した場合、全軍を撤退させるには当然トラックによるピストン輸送になるだろう。悪路を走れば燃料消費と機械故障が増加、それに対応するためには、回収のための牽引車に修理の為の整備班と予備部品、予備の車両も必要になる。この手配は補給部に任せるしかないが、その為に現地の路面状況などは詳しく調査して報告しておこう)

 兵営から東端までの補給路は1本しかない。これを健全に運行できるかどうかが、作戦に従事する部隊の生死を決すると言っても過言ではない。

(本来なら、前線以外の補給路の管理は軍政司令部なのだが、本格的な運用が始まるまではこちらでやるしかない)

 ここから東端までは地図で約80キロメートル、実際は90キロメートルあるとして、路面が良好で敵対勢力が存在しなければ3時間の距離だ。その90キロメートルの道路管理と治安維持がまた悩ましい。道路管理には現地住民を雇用してもいいが、治安維持に充てる兵力が無い。

 途中にあるケテリという街は、補給の観点から考えると安全に通過できればそれで済む程度だが、領域統治の観点から考えると行政の拠点として確実に確保しなくてはならない位置にある。本当なら現地の行政組織を残して、最小限の手間で維持したいところだが、どうも不穏な情勢であるらしい。

(中佐殿が我が軍の軍政領域内に反体制分子の存在を許す事は無い、確実に一掃して完全に掌握する。だが問題はその後だ、統治を維持するために使える兵力がほぼ無いのだ。戦闘団にその余裕は無い、補充は奴隷兵部隊だけ・・・。そう言う事か、これはいつもよりも厳しく臨む必要があるな。いずれは軍政司令部に移管する可能性、いや前提と言う事かもしれない)

 私は思案を巡らせて、大隊長シュラーガー中佐殿の意図するところを予測した。簡単な仕事ではないが自分を見込まれての仕事と思えば、期待に応える以外の結論は持ち合わせていなかった。



ルアブロン東方郊外

オーレンベアク辺境伯爵家 東兵営

戦闘団“シュラーガー” 指揮官 シュラーガー中佐


 昼食後、第1中隊長バルクマン大尉と先遣隊の編成について話し合っていると、小型、中型兵員車に続いてトラックの車列が兵営に入ってくるのが見えた。クレーライン中尉が配置したであろう兵士の誘導に従って、戦闘団本部を輸送してきたトラックが止まっていた場所に、入ってきた来たトラック達が整然と並んでいく。それとは異なる場所に駐車した兵員車から降車したのは、軍政司令官のヴァグナー中佐と偵察中隊長のエルドマン大尉だった。

 私は話合いを打ち切って出迎えに出た。


「ようこそ、ヴァグナー軍政司令官殿」カツン!

 私はヴァグナー中佐に対して笑顔で敬礼すると、中佐も笑いながら答礼した。

「私は倉庫番の方がよかったんだが、まぁ、やってみるさ。ただ人手が足りないのは困ったもんだ」

 ヴァグナー中佐の後ろには、兵站本部から引き抜いてきたと思われる将校と下士官が15人ほど続いていて、中には野戦警察の将校もいた。

「人手については若干ではありますが、伝手があります」

「本当か、・・・例の奴隷か?」

「はい。夕食の後、時間を設けるのはいかがでしょう?」

「分かった。では、店を広げておくよ。この後、ブリンクマン大佐殿も司令部を連れて来る事になっている」

 私はヴァグナー中佐と頷き合って別れた。軍政司令部の要員達が続いて中へ進んでいくと、最後尾にエルドマン大尉がいた。

「お久しぶりです、中佐殿」カツン!

「エルドマン大尉、久しぶりだが、どうしかしたのか?」

 私は答礼しながら尋ねた。彼の中隊は予備として師団司令部と帯同しているはずだ。

「中佐殿にお願いしたいことがあって参りました」

 私はエルドマン大尉の目つきを見て、彼の願い事は予想できた。


 小型兵員車で帰って行くエルドマン大尉を見送りながら、バルクマン大尉が静かに言った。

「図らずも有力な部隊を確保できましたね」

「うむ。私は遠慮していたのだがな」

 バルクマン大尉の言葉に苦笑しながら頷いた。私が予想したとおり、エルドマン大尉の願い事は、救出作戦に偵察中隊の一部を参加させて欲しいと言う事だった。すでにブリンクマン大佐殿から、1個小隊を参加させる許可を得ていると言う。

 私は即時承諾したが、エルドマン大尉から乗馬部隊を混ぜた混成編成にするのはどうかという提案があった。確かに地形によっては、乗馬の方が機動力に優れている事は承知しているが、馬は大量の水と飼葉をはじめとする餌が必要になる。補給への負担を考えて即答できずにいると、

「馬は殆どの村で飼っていますので、飼葉と水ぐらいなら調達できると思います」

 ロイストン殿から助言を得られたので、1個分隊8頭だけ参加させる事で合意した。

「では、直ちに中隊に戻って参加部隊をこちらに差し向けます!」カツン!

 エルドマン大尉は喜び勇んで帰って行った。


 エルドマン大尉を見送った後、戦闘団の構成を考えてみた。

(今の偵察小隊は軽装甲小隊として連れて行くとして、偵察小隊と歩兵1個小隊、工兵小隊と軽高射砲小隊の半分、これを先遣隊とするか。後は通信を強化したいが、装甲無線車の他に大型無線機を積んだ装甲車両が欲しい)

 救出作戦の参加兵力を確定させないと、補給計画の決定に直接影響してしまう。

(明日、奴隷が到着して、どの程度使えるのかを判断する。それを基に参加兵力を確定させて補給計画も決定させる。そこから補給部隊が動き始めて、事前集積と輸送部隊の運用・・・、最低でも5日というところか)

 東征軍の救出。その言葉の次に受けた、様々な人々からの言葉と視線で気持ちが逸っているのは分かっている。

(慌ててはいかん、準備を怠ってはいかんのだ。準備が整うまでの時間は、戦闘団の慣しと、奴隷達に休養を与え、最低限の教育と訓練を施す時間に使えば良いのだ。そして準備が整ったら、動き出すぞ)

 私はバルクマン大尉に視線を向けた。

「大尉、明日で部隊の編成を終える。そして補給の調整がつくまでは訓練を行う」

「了解しました、中佐殿。しかし、偵察小隊以外の部隊があるのですか?」

「君にはきちんと話していなかったな、現地人の奴隷で歩兵部隊を編成する」

「その話は小耳に挟んだ程度でしたが、本当に奴隷で野戦部隊を編成するのですか・・・」

「行き掛かりで奴隷を所有する事になってな。それに我が軍の現状として歩兵不足は危機的と言って良い状況だ」

「それは仰るとおりですが・・・」

「傭兵も雇用したのだが、歩兵として悪くないレベルだった。ただ報酬の問題があるからな、奴隷なら維持費は安く済む」

「はぁ・・・」

 バルクマン大尉は現実を受け止め切れていない様子だった。

「武装と装備はこの世界の標準にして、移動にはトラックを使う」

「なるほど・・・。自分は事務員や労働者として採用するのだと思っていました」

 バルクマン大尉の言葉に苦笑いで返した。

「治安維持まで考えると、とても間に合わんよ」

「のどかな雰囲気ですが、レジスタンスがいるのでしょうか」

「現に反乱を鎮圧しているからな、残党がいれば何かしら行動を起こす可能性は高い。しばらくの間は貴族や農民の反乱に注意を払う必要がある。それに加えて日常的に発生する窃盗や喧嘩などの犯罪、盗賊、山賊、追い剥ぎ、これらに対応するにはそれなりの数が必要になる。価値観や文化の違いからくる齟齬も考えなくてはな」

「それがこの世界の現状ですか」

「そのとおりだ、大尉」

 そう言いながら、バルクマン大尉の現状に対する認識が甘い事を強く感じていた。

 バルクマン大尉は大隊再建の時に、軍司令部が手配した転属組の1人だった。帝国伯爵家の四男坊で士官学校を優秀な成績で卒業、主に参謀将校として勤務していたが本人の希望で装甲兵に転科、新規に編成中の装甲連隊に中隊長として配属され、そこから転属してきたのだ。

 彼の人事評価は悪いものではなかったが、ただ「決断力が欠ける場合がある」との一文に不安を感じていた。生まれと育ち、そして実戦経験が無いと言う事を考えると、彼の決断力が欠ける場合は想像できた。

(転属になった理由もそれだろう)

 私としては攻撃の先頭に立つ装甲部隊の指揮官には向いていないと思っているが、将校が余っている情勢ではなく、大尉という階級を考えると第1中隊長に任命するほか無かった。私は彼の下に経験豊富な将校と下士官を付け、バルクマン大尉を観察させ、報告させた。その結果は思った通り「勤務態度は真面目、穏やかで人当たりも良く、部下からは慕われると思われるが、将校としては優しさが過ぎる」と言うものだった。

(勤勉実直で温厚、情に篤い。好感は持てるが前線向きではないと言う事だ)

 私は中隊本部の将校と下士官にバルクマン大尉を補佐すること、特に中隊本部の次席将校と第1小隊長には、いざという時は中隊の指揮を代行する事を常に念頭に置いておくことを命じていた。

(奴隷兵を消耗品のように扱うものと想像して、抵抗を感じているのだろう・・・。無能でも臆病でも無い、平均以上の能力を持っているのだから、平時だったら無難に務めて佐官に昇進できたろう。だが情勢が変わりすぎてしまった。いつか話し合うべきだな、彼と第1中隊の幸せの為に)

 私は目の前で複雑な心情の面持ちで立っている、若い大尉の肩に優しく手を置いた。


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