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捏造探偵~ドン・キホーテの大罪~その探偵は真実を葬り偽りの罪を作り出す【完結】  作者: 高山路麒


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エピローグ そして再び始まる穏やかな滑稽劇

 しんしんと雪の降る音が聞こえるくらい静かな、白の世界。


 見覚えのある景色だ。雪が積もっていて人は誰もいないがここは星鳥市の駅前だろうか。俺はちゃんとベッドに入って眠ったからこれはきっと夢なのだろう。


 取りあえずする事もないので俺は適当に歩いてみる。すると両手を合わせた様な妙なオブジェがある駅前の広場の舞台上に彼女がいた。


「やあ、久しぶりだね、サンチョ君!」

「おう」


 それは俺のかつての相棒の真矢だった。現実ではいろいろあったがここは夢の中の世界、そんな余計な事は気にせず適当に話を合わせて仲良くしておこう。


「すっかり老けたねー。ハゲた?」

「生憎まだ大丈夫だ。そういうお前は変わらないな」

「まあ、僕は外側の存在になっちゃったからね。生き返る事と引き換えに」


 外側の存在とは何の事だろう。ミステリーなんだからTIPS項目が欲しいな。しかし夢の中だしいちいちそんな事を気にする必要もないな。


「ねえ。もし僕がもう一度君と生きたいって言ったら君は受け入れてくれるかい?」

「そうだなあ。別にいいぞ」


 俺は特に逡巡する事無くスッと答えた。夢の中ならば嘘偽りなく答える事が出来る。こうしてもう会えない彼女に対しても、もう伝えられない言葉を伝える事が出来るんだ。


「……そっか。それは楽しみだ」

「?」


 パパー。起きんしゃーい!


 オフ、オフウ!


 その微笑みの言葉の意味を考えているとどこからともなくニナたちの声が聞こえる。もうそろそろ現実世界に戻る時間らしい。


「また会おう! サンチョ君!」

「ああ。待ってるぞ、真矢」


 そして俺は果たせない約束をする。だけどその時は不思議と寂しさは感じられなかったんだ。


 ……………。


 ………。


 …。


「とお!」

「ぐべぇ」


 その朝の目覚めは愛娘によるボディプレスだった。痛みと胃液の酸味による目覚めはなかなか不愉快極まりなかったよ。


「お願いだから中年男性にこんな一昔前のホームドラマみたいな事をするな。逆流性食道炎気味なんだからゆうべ食ったものが戻っちまうだろ」

「早く起きないパパが悪いんだよ! 今日は私とデートでしょ! ほら、早くヒゲ剃って着替えて! はよはよ!」

「オウン!」

「へいへい」


 俺はニナにせっつかれてとっとと朝の支度を始めた。いい加減いい年なんだから親離れする時期だと思うんだがねぇ。


 でもパパと洗濯物一緒なのはイヤ! って言われるのもそれでそれでキツイな。うん、やっぱりしばらくはこのままでいいか。



 晴れやかな日曜日の朝に俺はニナとついでにロッシーと一緒に街を散歩していた。


「えへへ~、パパとデートだ~」

「オフウ!」

「ただの家族サービスだけどな」


 ニナは手を握って幸せそうにはにかんでいるが百人がいれば百人が仲睦まじい親子の姿にしか見えないだろう。


 周囲の人間は天使の様なニナの笑顔を微笑ましく眺めているがその光属性の様な優しい眼差しは俺の様な悪徳探偵に対しなかなかのダメージを与える。やはり真綿で首を締められている様で結構キツイな。


「おほー」


 ニナはショーウィンドウの向こうにある服に興味を示して立ち止まり、ロッシーも彼女と一緒に興味を示す真似をした。


 その服は随分と派手で露出が多くニナが着る様な服ではない。こんな服どこぞのセレブ姉妹以外に着るのかねえ。


(にっこり)

「ん」


 だが一瞬、ガラスに反射したニナの姿が別の人物の様に見えた。それは真矢の様に見えたので少し驚いたが無論そんなわけはなく、俺はすぐに見間違えと判断して移動を再開する。


「オウン?」


 ただロッシーも見間違えたのか舌を出して首を傾げた。こいつと同じ勘違いをするのはなんか嫌だな。


「逃げるな! 逃げるなッ!」

「だから違うんだって! 誤解だって!」


 しかししばらく歩くとなにやら前方が騒がしい。どうやら一人の男が複数の店員らしき人物に強引に抑えられている。万引きでもしてこうなったのだろうか。


「パパ?」

「目を合わせるな」


 ニナは目の前で起こった修羅場に不安げな表情になってしまう。普段なら介入しているかもしれないが今回は彼女もいるし無茶しないでおくか。


「俺は何も盗んでいない! 信じてくれ!」

「とにかく警察に……あ」


 だが俺は店員らしき女性と目が合い相手は何故か血の気が引いた顔をしてしまった。こいつ、どこかで見た様な……?


(やれやれ、見事なまでの小市民ぶりだね)

「え」


 だがその時、どこからともなくあいつの声が聞こえた気がした。そんなはずがないと思い声の聞こえた方向を振り向くと、そこにはニナがいるだけだった。


「ふむ。それが本当に盗まれたものなら指紋が付いているだろう。警察に調べてもらうかい? だけどもし彼の訴えが本当で指紋が検出されなかったらそれは一体誰が入れたんだろうね?」

「へ?」


 だがニナは普段の幼い口調からまるであいつの様に知的な話し方になってしまう。俺はその変化に戸惑ってしまうが彼女は更に言葉を続けた。


「警察に行ったら困るのは君のほうじゃないかな。捏造っていうのは入念に準備しないとどこかでボロが出るものなんだよ。だからこそバシッと決まった時は快感なんだけどね」

「なな、何を言っているのかしら!?」


 ああ、今思い出したけどこいつはこの前のヤンデレ彼女だ。あいつは人格に問題があるから何らかの目的のために一線を越える事はありうるだろう。その目的が何なのか俺にはまだわからないけど。


「防犯カメラの映像はあるかい? 折角だから上手く騙せるか僕と勝負しようよ」

「ニナ……?」


 いや、だけどそれよりもニナのこれは何なのだ。まるで真矢の様な立ち振る舞いではないか!


「さあ、もう一度始めよう。欺瞞と悪戯にまみれた最低のミステリーをね。ねえ、サンチョ君?」

「ッ!?」


 ニナは俺をその名で呼んだ。あいつ以外に呼ぶ事はなかった俺のあだ名を……!


 そして俺たちの物語は再び始まるが、それはまた別の話だ。


 まずはこの事件を解決し――その間に昼食に何を食べるのか決めよう。何をするにしてもまずは腹に食い物を詰め込まないとな。

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