4-15 堤三千世が選んだ答え
事件が全て終わり、俺は星鳥大学病院で軽く手当てをしてもらった後自販機の前でコーヒーを飲んで一服した。
ふと横を見るがそこにはもう真矢はいない。
彼女は無事に死を偽装する事が出来ただろうか。だがもしかするとあの言葉は……。
「よう」
「権田原さん」
しばらくまったりしているとどこからともなくひょっこり現れた権田原さんが話しかけてきた。だからあんたは暇なんですかね。
「焼け跡から二人分の死体が見つかった。それだけ言えばわかるな」
「そうですか」
一人はもちろん烏丸だろう。けれどもう一人は。
「俺は信じませんからね。あいつは嘘が得意ですから」
だが俺は頭の中で浮かんだ想像を即座に否定する。そんなはずはない、俺は彼女と約束をしたのだから。
権田原さんは小さくそうか、と呟いて可哀想な人を見る目で見る。だが正直余計なお世話なんだよ。
「結局穂久佐村連続幼女殺人事件の真実は明らかにされるんですかね」
「どうだろうな。少なくとも裁判が開かれる事はないだろう。死んだ人間を無罪にしても何の意味もないからな」
それは真矢にとっては残酷な通達だったが俺はもうどうでもよかった。俺は別に父さんの自殺の真相を知れただけで十分だったからな。
「烏丸はどうなりますか」
「ネットでは黒幕説が盛り上がっているな。みんな喜んで好き放題言って死人に鞭打っているよ」
「そうですか」
烏丸はどうやら死してなお窮地に陥っているらしい。別にそれだけの事をしたのだから仕方ないかもしれないがやはりいい気はしないな。
警察もきっと彼一人に全ての責任を押し付けるはずだ。もし彼に家族がいればきっと萩野キホと同じ苦しみを味わう事になるだろう。俺はそれが気になって権田原さんに尋ねた。
「ところで烏丸に家族っています?」
「娘がこの間産まれたばかりだ。妻は子供を産んですぐに亡くなった」
「……その娘さんは歴史に名を残す冤罪事件を生み出した烏丸の娘だって一生後ろ指を指されて生きていくんでしょうか」
「そうなって欲しくはないが、そうなるかもなあ」
権田原さんはふう、とため息をつきながら自販機でコーヒーを購入しガコンと取り出し口に吐き出される。どうしようもない事とはいえやはり彼も思う所があるらしい。
「俺が育てちゃダメですか、その子」
「は? 何でそうなる?」
だが彼は俺の口から飛び出した発言にギョッとしてしまう。確かにこれはあまりにも非常識な申し出だから仕方がないだろう。俺にもその自覚はあるよ。
「その場のノリとただのエゴです。あと他にする事もないので」
「いやそんな理由で子供を育てちゃ駄目だろ。子育て舐めんな」
権田原さんは子育て経験があるのか結構怒っていた。そりゃまあそう簡単に許可を出すわけはないよな。ましてや仲の良かった人間の子供の運命がかかっているわけだし。
だけど俺は顔も名前も知らないその子供の事を救いたかった。それが偽善だってわかってはいたけれど真実を暴いた償いのために何かがしたかったんだ。
いや、違う。最大の理由は生きる目的が欲しかったからだろう。今の俺にはもう何も残されていない。結局綺麗事を言ったがこれはただのエゴなのだ。
「なら彼女が不幸になる運命を変えれば許可してくれますね?」
「え? いやまあ……烏丸の親戚を説得する材料にはなるかもな。だが出来るのか」
「やってみます。ちょっと待っててください」
すぐに妙案が思い浮かんだ俺は烏丸の子供を救うために必要な物を回収する事にした。貸してくれるかどうかはわからないが頑張って交渉してみよう。最悪土下座をすれば人の良い彼女は最終的には首を縦に振ってくれるはずだ。
……………。
………。
…。
パソコンの画面に映し出されるドン・キホーテ事件最後の動画。
そこには萩野キホたちドン・キホーテの一味と、何故か最初に殺されたはずの更家が椅子に拘束されている映像が映し出されていた。
『皆の者はさぞ意外そうな顔をしている事だろう。そう、こいつこそが全ての黒幕だったのだ。穂久佐村連続幼女殺人事件の真犯人である更家は真実を明らかにしようとした烏丸を殺し彼に全ての罪を擦り付けようとしたのだ。彼は私たちの仲間になったふりをして真実を知る者を殺し密かに裏切っていたのだ』
若干中二なあいつなら多分こんな感じで言うだろうとほんの少し楽しみながら文章を入力し、俺は自分の望むままの台詞を萩野キホに言わせた。
シナリオとしては少し無理があるかもしれないが重要なのは烏丸が悪人ではないという事、そして萩野弘が冤罪だったと思わせる事だ。
それさえ伝われば他の真実はどうでもいい。あとは適当にマスコミや視聴者に委ねるとしよう。あいつらは結局証拠があってもなくても自分の信じたいものしか信じないから都合よく解釈してくれるはずだし。
真矢には悪いが萩野キホには引き続き悪役になってもらった。なお更家警視をチョイスしたのは元々黒幕説があり親族もいなくて丁度良かったからだ。一応言うが個人的な恨みではないぞ、決して。
しかし我ながらよく出来たなあ。適当にそれっぽい台詞を言わせて首をザシュ。細かい齟齬はショッキングな映像で誤魔化そう。しょうもない映画でもCGが凄ければなんとかなるからな。アニメの実写化なんて大体そんなものだし。
動画が投稿されると同時にネット上は即座にお祭り騒ぎになる。あとは正義を振りかざすめんどくさい連中に考察を任せるとしよう。
これでもう二つの事件の真実が明らかになる事は二度とない。
だけど俺はたとえ倫理を踏み外したとしても、過酷な運命に抗う術を持たないこの世に生まれ落ちたばかりのか弱い少女を護らなければいけないのだ。
さて、それじゃあさっさと子育てに関する諸々の情報収集をするか。これから鬼の様に忙しくなるだろうし。しかしまさか結婚という過程をすっ飛ばして子育てをする事になるとはなあ……。




