2-16 ビジネスホテルでのドキドキする一夜
んで。
「ドキドキドキ」
シャワーの音を心の中で般若心経を唱えながら必死で耐えたのち、俺は今真矢と一緒の部屋で寝ていた。そりゃもちろんベッドは別々だけどこの状況は何なんだ。
「今更だけど別々の部屋にすりゃよかったのに」
「こっちのほうが安かったし。少しは仲良くなったしもうそろそろいいかなあって」
もうそろそろいいかなあ!? だけどこれはもちろんそのままの意味だ! だから純朴な青年を弄ぶんじゃないよ!
「友達なのにおいしそうっていうことわざを知らないのかね君は」
「あれはことわざじゃないと思うけど。大体君との関係性は友達じゃないよ」
「俺はお前の事を探偵と認めていない。だから俺は助手じゃない。よって上下関係は形だけの存在だ」
「少し無理矢理な三段論法だね。けどそっか、友達かあ。ふふっ」
しかし真矢は俺に友達と呼ばれた事が嬉しかったのか幸せそうに笑ってしまう。だがこちらは先ほどまでの小悪魔的な物ではなく実に無邪気で子供の様に可愛らしいものだった。
「お前には友達とかいるのか? こんな商売してる奴にいるとは思えないけどな」
折角なのでカウンターに意地悪く質問をしてみる。俺はどんな返答をするのか楽しみにしていたが、
「それなりにいたよ。けどいろいろあって皆いなくなっちゃった」
彼女が寂しそうに笑いながらそう言ったので、俺はちらりとみせた牙をあっさりと抜かれてしまったのだ。
こいつはなぜこんなあくどい商売をする様になったのだろうか。一体こいつの過去に何があったのだろうか。
俺は真矢の事について何も知らなかった。もう少し仲良くなればそれについて教えてくれたりするのだろうか。
「そうか」
だけど俺はその一歩が踏み出せなかった。
こいつは捏造探偵だ。心のどこかで一連のやり取りは全てこいつの計算なんじゃないかと疑っていたんだ。
特に俺は人を簡単に信じてはいけない事を実体験で知っていた。俺に優しくしてくれた人は皆警察官で無くなった途端に離れていったではないか。
そう、これでいいんだ。俺とこいつとの関係はこういうドライな関係で。
……けど、最初はあれだけ毛嫌いしていたのにこんな事を思うようになるなんて。真矢の洗脳計画はどうやら順調に進んでいるらしい。
そのうち本当の意味で絆が芽生えて頼もしいバディになるのだろうか。それともまんまとマインドコントロールされて忠実な下僕にされてしまうのだろうか。
けどそれはそれで案外悪くないかもしれないな、と俺は思いながら眠りについたのだった。




