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半年前

「――ごほっ! くっ……はあはあ」


 咳込みながらは目を開けた。

 視界は暗闇に覆われている。

 頭が働かない。

 体中が痛い上に怠かった。

 何が起こったんだ?

 わからない。頭に霧がかかったみたいに何も浮かばなかった。

 必死で思い出す。

 そうだ、確かアビスでラプンツェンと戦って、その後、崩落して地下に……。

 全身に痛みはあるけど五体満足のようだ。

 どれだけ落下したのかわからないけど、なぜ生きているのか不思議だった。

 それだけじゃない。

 体に魔力が戻っている。

 完全にとはいかないけど、半分程度は回復していた。

 そのおかげでシールドが自然に発動して無事だったのだろうか?

 だけどなぜ魔力が回復したんだ?

 戦闘後、僕の魔力は間違いなく枯渇寸前だったはず。


「一体何が……起きて……うっ……?」


 思わず声を出すと妙な感覚が押し寄せてくる。

 息苦しい。

 頭が少しぼうっとしている感覚もある。

 何が起こっているのかわからず、僕はフレアを使った。

 光源に照らされた場所は、数メートル程度の空間。

 立ち上がることさえ困難なほどの空洞だった。

 無数の大小の岩石が積み重なっており、壁になっている。

 上から落ちてきたアビスの残骸だろうか。

 地面には鉄雷剣や雷光灯、鞄がいくつも落ちていた。

 岩壁はアビスと違って赤い水晶はなく、普通の岩や土だ。

 不意に不穏な魔力を感じてそちらを見やる。

 十の魔族、ラプンツェンだ。

 あいつもどうやら無事だったらしい。

 気絶しているようで、倒れたまま身じろぎしない。

 体中傷だらけのままだけど僕たちとの戦闘で消費した魔力が残ってないのだろうか。

 魔力があれば自然にヒールされるはず。

 とにかくまだ気を失っている様子。

 僕はあいつを殺さなかった。

 だから今さらどうこうしようとは思わない。

 少なくとも今は。


「……つっ! な、なんだこれ……頭が……」


 また頭痛と息苦しさを感じる。

 その瞬間、僕は気付いた。

 ここは地下深く。閉鎖された空洞。

 つまり。

 酸素がない。

 その事実に気付くと、僕はすぐに発動中のフレアを消した。

 酸素が減少している中での燃焼なんて自殺行為だ。

 まずい状況だ。

 助かったと思ったら、全然助かってない。

 視界が明るかった時の光景を思い出す。

 瓦礫と岩壁しかなく、道はなかった。

 恐らく脱出は不可能だと思う。

 手狭な空洞しかなく、酸素の供給される隙間もほとんどなかったはず。

 つまり……このままだと窒息死する。

 そう考えると途端に息苦しさが増していく気がする。

 残された時間はあまりない。

 考えろ。考えるんだ。

 激しい動揺の中、僕は必死に頭を働かせた。

 酸素を供給するためにはどうすればいい?

 気圧操作が可能なブロウは活用できそうだ。

 僕は魔力を広範囲に渡って広げる。

 淡い白の光がぐんぐんと大きくなっていく。

 体外放出をしつつ、魔覚で辺りを探った。

 魔覚は魔力を探知、感知する感覚だ。

 物質そのものを認識する能力ではないが、周辺に魔力持ちの誰かがいれば探知はできる。

 だが不幸にも誰の魔力も感じられなかった。

 一部、魔力を感じない箇所があったので、恐らく妖精石が埋まっているのだろう。

 とにかく集魔をしつつ、魔力を引き延ばし続ける。

 アクアの要領だ。

 魔力を広げて大気中の水分を集めるのと同じで、酸素を集めればいい。

 だが隙間は少ない上に、どこに酸素があるのかまでは魔力の感覚だけではわからない。


「ぐ……はぁはぁ……息が……!」


 息苦しさが増していく。

 お願いだ……範囲内に酸素があってくれ!

 僕は祈るように最大まで魔力を広げると、気圧を操作し、空洞まで空気を循環させる。

 ……しかし一向に息苦しさは解消できない。

 それどころか視界が朦朧としはじめ、息苦しさが増していく。

 ダメだ。

 僕を中心に放射状に広くしてもどうやら酸素のある空間はないらしい。

 とすれば運頼み。

 特定の方向に魔力を伸ばして、できるだけ遠くから酸素を持ってくるしかない。

 360度、どの方向にあるのか見当もつかない。

 猶予もない。

 僕は迷いなく一番可能性のある真上へ飛ばしてみた。

 でも酸素は供給されなかった。

 こっちにはないらしい。


「はぁはぁ……ぐっ! かは……!」


 息苦しさが増した。

 呼吸がしづらい。

 正面斜め上に伸ばしたが、またしても供給されず。

 時間を数分無駄にした。

 息が……限界近い……。

 できて次が最後だろう。

 酸素があるなら上の方。

 そう思い、後ろ斜め上の方に伸ばそうと思った。

 そのはずだったのに、なぜか僕は斜め下へと伸ばした。

 最も可能性の低い方向。

 自分自身の選択を愚かだと思いつつも、僕はなぜかその選択をした。

 息ができない。

 二酸化炭素が増加している。

 これでだめなら僕は……。

 意識が朦朧とする中、最大魔力で限界まで伸ばし。

 僕は空気を循環させるべく、気圧を操作した。

 そして。

 僕は意識を失う――その寸前。


「……はっ……はぁ! すーはー! こ、これって! 酸素の香り!?」


 呼吸が徐々にスムーズになっていく。

 どこからか酸素が供給され、肺が酸素で満たされていく。

 動悸は少しずつ弱まり、徐々に落ち着いていった。

 何とか酸素供給はできたらしい。

 なんとか間に合った。

 賭けに勝ったみたいだ。

 なぜ下方へ魔力を伸ばしたかというと、僕のいる空洞が理由だ。

 アビスから落ちた地下深くの空洞に酸素があったのだから、他の箇所にもあるんじゃないかと思った。

 上方向に魔力を伸ばしても無駄なら、恐らく地上はかなり遠い、あるいは隙間がまったくないということ。

 だからあえて下方向へ伸ばすことで、酸素がある空洞を見つけられる可能性に賭けたというわけだ。

 ああ、呼吸ができるって素晴らしい!


「ま、魔法が使えてよかった……普通なら死んでたよ」


 しばらく酸素を空洞に供給した後、僕は雷光灯を点けた。

 思わずラプンツェンを見たが、呼吸をしている様子だった。

 生きているみたいだ。

 魔族も酸素欠乏か二酸化炭素中毒になるんだろうか。

 あたりを見回すと、やはり隙間はほとんどなく、僕が通れる道もない。

 酸素もずっと供給されるかどうか不安だ。

 あまり雷光灯を使い続けるべきじゃないかも。

 いや、鉄雷石から発生されるのは電流であって燃焼反応とは違うのだから、酸素はほとんど消費しないのか……?

 そりゃそうか。水中でも電流は発生するし、雷光石なら問題ないのか。

 少なくともフレアに比べればマシなはずだ。

 僕はラプンツェンを気にしながら、複数の鞄を確認する。

 大体、食料一か月分と水が少しだけか。

 ラプンツェンとの戦いで水筒の水は地面にこぼしたから、しょうがない。

 とにかくすぐ死ぬって状況は回避できたらしい。

 ただ、空気を循環し続けなければ死ぬので、常に魔力は動かし続ける必要がある。

 問題は山積みだ。

 ここがどれくらい深い場所なのかもわからない。

 どうにかして脱出して、みんなの……マリーのもとに帰らないと。

 きっと心配してる。

 あんな別れ方をしたから特に。

 もしも僕が帰れなかったらマリーは……。

 と。


「……んんっ。んあ? どこなのだ、ここは……?」


 ラプンツェンがむくりと起き上がった。


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― 新着の感想 ―
きたぁぁぁああああ!!!!! ずっとずっと待ってました!!!
ずーっと待っていました。いいところで止まってしまって気になって気になって。 ターニングポイントを迎えこれからどうなるのか楽しみです。 お忙しいかもしれませんが、ゆっくりでいいので。
更新ありがとうございます!! 生きてた……!!
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