努力家の憂鬱
思い返せば、自分の財布の紐が緩いのは今に始まったことではなく、昔から健在だったように思う。
それは自分に目立って浪費癖がないこと、物欲がないことに比例しているのだろうが。
でなければ、低血糖でぶっ倒れる寸前の友人を思って、わざわざ甘味処を梯子などするものか。
「どういうつもりだ」
土手だった。
時は夕刻、夏の太陽は西に傾き、一面に広がる空はやがて青から赤になる。
土手下では小学生の野球チームが練習をしていて、それを眺めながら渥美は問いかけた。
「なにが?」
もしゃもしゃ、買ってやった甘味を頬張る血色の悪い男子高生。
先ほどよりは顔色は回復しているっぽいが、見た目死神のそれが食す甘味は、有名どころの寄せ集めでもなんだか美味しそうには見えない。
なんか腹立つな。
思わず舌打ちをする。
「…勝手なことしやがって」
「それはこっちの台詞ですけどね」
「なんだと?」
「渥美最近怖いんだもの」
いや元からだけど、より一層。
死神の喉仏は嚥下するべくして上下に運動し、ようやく全てを胃に収めたらしい、伊野は手の指についたあんこを舐めとってちらと渥美を見た。
頭に血のぼってんの?
そう問いかけて来るそぶりすら余裕ぶっているように思う。
いや、こいつは常にこんな感じだけれども。
「…この時期に平然としていられるのはお前くらいじゃないか」
「いやぁそれほどでも」
「嫌味だよ!」
ムカつく、癪に障る、腹が立つ。
たまにこいつはワザとやってんのかってくらい、飄々とした佇まいには付けいる隙もありはしない。
「お前には、お前以外の人間がどんな苦労を強いられているかなんて。理解すら出来ないんだろう」
土手下で繰り広げられる野球少年たちの熱戦、その傍らで球拾いに励む恐らくベンチの人間。
今まさにホームランを出すべくバットを構えている自信に満ち満ちた少年の表情を、その背中を遠巻きに眺めるそれが世の中の縮図をわかりやすく提示してくれている。
これがこいつと俺の差。
間抜けなくらいわかりやすいため息が漏れた。




