天才と努力家
「い、」
てえな。
何やってんだおまえは、といった意味合いで、無言のまま真横の机に突っ伏していた男子生徒の頭を、思いっきり引っ叩く。
「いて」
「バレてんだよバカ。なにがコメカミにヒットだ、なにが!」
「いや、だって難しい顔してずっとプリントと睨めっこしてるから何事かとね」
渥美んこわあーい。なんて、間の抜けた声を出してはふわあと大きなあくびをこぼすそいつ・伊野雄介を、周りはさながら不謹慎だとでも言いたげに遠退いた。
この時期にこのダレ具合、緊張感のなさを持ち合わせているのは、こいつのみと言っても過言ではないだろう。
おもむろに飛んで来た紙飛行機を拾い上げ広げてみると、渥美はまたしてもイヤミかよ、とその模擬試験結果をぐしゃっと握りつぶして伊野に叩きつけた。
志望大学Sランク判定・合格率90%以上
あらゆる大学に進学可能
や、キモいだろ。
「お前って医者になりたいわけ?」
「え~?やあ親父がなれとかいうから」
「お前はどこに行きたいとかないのか。やりたいこととか」
「あー。あ、駅前の大判焼き?あそこの店長とか」
カフェのマスターとか本屋の店長とか、あっカラオケの店長とかもいいな~。
ご丁寧に指を折って蘭々と目を輝かせるその様は、日常普通に過ごしてそう簡単に見られるものじゃない。
平和ボケしたやつ。でも他と違って、決して自分の実力をてらわない。
だからこそ、渥美は伊野の隣にいても、伊野が特進クラスの学力トップでも、決して妬んだり恨んだりすることはなかった。




