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寡黙なニコルと人間失格  作者: 或田いち
インサイド
38/65

滾る血と抗い


 

俯いていると、再び扉を蹴る音にびくりと反応する。


「お前はどうなんだよ」


「…」


「この人がクソ忙しい時に…父親が警察に捕まってる時に!

 どこほっつき歩いてやがったかっつってんだよ!」


「!」


相手が踏み入ってくるのを察知し、いち早く逃げようとしたとたん、髪を鷲掴まれて床に叩きつけられた。

痛い。頭皮がちぎれるような痛みに顔を歪ませ、じわりと滲む瞳で、真上の男を睨み付けてみる。


「…んだよその目は」


男の目は、ニコルの剥き出しの敵意より、冷徹な目をしていた。


「…っ」

「てめーは。養ってもらってる分際なんだからよ。言われた通り働いてりゃいーんだよ。ったく…ただでさえお前の母親が倒れて入院だ何だで金が飛ぶっつーのに!てめえが働かねーとどんだけ生活狂うかわかってんのか!」


突如走る戦慄に、身を強張らせる。腹部が痛い。蹴られたらしい。続けて背中、頭と、急所を狙って連続で容赦ない蹴りが続く。


「この…能無しが!!

 何が気に食わないんだ、ぁあ!?言ってみろ、俺はお前らのためにどれだけ…っ」


うそつけ。お前は何もしていない。

何もできない能無しは、お前のことだ。自分が取るに足らない、何の力もない、ダメな人間で使えないことを、私や母に置き換えて、自己嫌悪に陥っているだけじゃないか。


じゃなければ、お前はなぜ何もしようとしないんだ。


「何とか言ったらどうだ…!?

 それとも痛くて声も出ねーのかよ!謝れ。お父さんごめんなさいって言ってみろ。謝れよ…謝れよォラ」

「 お前なんか 」



ニコルは、声を振り絞っていた。

鉄の味が滲む口から、はっきりと。数ある語群から選りすぐり、こいつを


こいつを痛め付ける言葉を



「父親だなんて思ったこと、ない」


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