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贄の花嫁  作者: 彩世 幻夜
狂想曲
111/111

議会の招集

 勅書に記された、その時刻は昼の12時。

 ――吸血鬼達には辛い時間帯であるが、それが勅書によるお達しとあらば無視はできない。

 せめて日が昇りきる前にと急ぐ馬車の列が、町の商店がぼちぼち商売を始める頃合いにはもう既に公邸への道で酷く渋滞していた。

 貴族にのみ出された勅書の内容を知らない民たちは、その様子を不安そうに眺め、少しでも情報を得ようとあちらこちらで噂話に加わろうとする人溜まりができる。

 ただでさえ異例続きの花嫁選びと代替わりで落ち着かないのに。

 

 渋滞の列の後方に並ぶ馬車を操る御者はやたらと苛々して落ち着かない様子だし、公邸はもうすぐそこという前方の馬車馬の歩みはやけに忙しない。

 花嫁選びの宴の時のように、周囲でお祭り騒ぎなどしようものなら物でも投げつけられそうな、そんなぴりぴりした空気が大通りを中心に街中に広がっていく。


 とてもじゃないが、この渋滞の中を荷馬車等走らせる勇気のある庶民も居らず、忙しいはずの朝が漫然と過ぎていくはずが……


 「おいコラてめぇ、チンタラ走ってんじゃねぇ! こちとら伯爵様の馬車だ! その前を堂々と庶民が荷馬車なんざ走らせるんじゃねぇ!」

 「いやいや、すいませんねぇ。でも、こっちも公爵邸からの依頼の品を届けに参る所なんでね。しかも裏も表もこの状態じゃ、いかに伯爵様の馬車とて譲るに譲れないだろ」

 御者の怒りを、肩を竦めて受け流す強者が約一名。

 「どうしても、昼の12時までに届けてくれとのご注文でね。何しろ、商売ってのは信用第一だからな。俺たちもこれで焦ってるんだぜ」

 そろそろと、極力目立たぬようにと脇を歩く人々の背を見送りながら、彼らはのろのろと坂を登っていく。


 

 その様を公邸の自室に近い回廊から見下ろしてから、彼は痛そうな顔をしながら空を見上げ、太陽の位置を確認する。

 「……そろそろ、頃合いか」

 彼は小さく呟き、自室へと戻る。

 「誰か、着替えを持て」

 そして、太陽が空の頂点へと昇り詰める頃。

 彼は、普段の議会や先日の宴にも着ていなかった仰々しく飾り立てられた第一正装に身を包み、部屋を後にした。



 「ほら、着いたぞ? ……本当に大丈夫か?」

 一方、ごった返す正面玄関ロータリーを避け、使用人用の出入り口へと回った荷馬車の御者台からひょいと身軽に飛び降りた青年が、荷台へと声をかける。

 「……流石に大丈夫と言うには無理があるな。だが、助かった。礼を言う」

 「礼を言われるほどの事じゃない。言うならせめて、無事に全部が終わった後にしてくれ」

 「じゃあ、行ってくる」



 時計の短針と長針との距離が縮まるにつれ、邸の下が騒がしくなって来る。

 ここへ向かう馬車の列が、次から次へとロータリーへと到着し、その主である貴族たちが続々と玄関ホールからこの議会場まで再び列をなす。

 普段使いの議会場より遥かに広い部屋が、刻々と埋まっていく。


 やがて、最後の馬車が公邸の外門をくぐる頃、ダリオは彼らが使うそれとは別の扉から、議会場へと入室し、用意された己の席へと着く。

 未だ空のままの向かいの席を見やり、ほくそ笑みながら彼は時計を見上げた。


 あと、15分。公邸の外門からこの部屋までの所要時間ぎりぎりのこのタイミングで、まだ彼らは来ない。

 ――例の馬車の主は貴族の中でも下位の男爵家の紋章が掲げられていた。


 ダリオが勝利の瞬間を確信し堪え切れぬ笑いに肩を震わせたその時。


 扉が開く音が、した。


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