第八章 北から来る者
春。
北方の三つの部族が同盟を結んだ。
知らせを持ってきた騎士は、馬を三頭乗り潰して王都へ到着した。
「敵軍、およそ三万!」
御前会議が開かれた。
ヴァルターは机の上に地図を広げた。
「グレーヴェン砦は持ちません」
「要塞だろう」
王が言った。
「城壁の修繕を五年間先送りしております」
室内が静まった。
誰もが理由を知っていた。
「では他の砦で防げ」
「第二砦も同じです」
「第三は」
「駐屯兵が半数です」
「なぜだ」
ヴァルターは王を見た。
「給与が払われないので脱走しました」
アルフォンスの顔が赤くなった。
「反逆者ではないか」
「そう言えば反逆でしょう」
「捕らえよ」
「三千人近くおります」
王は口を閉じた。
財務卿が震える声で報告した。
「徴兵令を出すしかございません」
王は即座に命じた。
全国から兵を集めよ。
国を守るのは臣民の義務である。
しかし一週間経っても兵は集まらなかった。
二週間後。
予定された人数の三割。
一か月後。
四割にも届かない。
「なぜだ!」
アルフォンスは王座の間で叫んだ。
「なぜ誰も国を守ろうとしない!」
諸侯は目を伏せた。
ヴァルターだけが王を見ていた。
「理由を、お聞きになりますか」
「言え」
「兵士たちは、陛下が国を守る者へ何をしてきたか覚えております」
「給料なら払う!」
「今さらでございます」
「なら倍にする!」
「戦争が始まってから忠誠を買おうとしても遅いのです」
王は怒鳴りかけた。
そのとき急報が届いた。
グレーヴェン砦陥落。
守備隊は戦わず撤退。
敵軍、王都へ向けて南下。
王座の間で、誰も声を発しなかった。




