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精霊討伐。

 





 あの日、アンネに気持ちの入った品をお願いしてからの日々は、良く言っても『暇』な日々でした。何せ毎日何かと顔を出してくれて一緒の時を過ごしたアンネがパッタリと来なくなったからです。

 原因はもちろん私のお願い事によるものです。

 自業自得とはこの事を言うのですね……

 しかしそんな暇を潰す出来事が突如舞い込んで来たのです。


「件の湖畔は…ああ、あそこでしたか」


 土地勘もなく、地名を聞いてもピンとこない私は、大雑把な場所だけ聞いて山の上から湖を探していたのです。

 眼下に見えるのは森にポッカリと空いた穴。穴には大きな水溜り、湖が見えました。









 少し前。アンネが会いに来てくれなくなり暇を持て余していた私は、部屋で侯爵家にある書物を借りて読んでいました。


 コンコンッ


「はい。どうぞ」


 アンネであればノックの後、返事を待たずに開けてきます。という事は、アンネ以外の人物がこの部屋を訪れたという事。私は居住まい正した後、返事をしました。


 ガチャ


「アリス様。討伐者組合(ギルド)の方が面会を求めてお越しです」

「わかりました。どちらに向かえば?」

「ご案内します」


 部屋へと来られた方は侯爵家のリアルメイドさんでした。所謂使用人さんですね。

 討伐者組合に用はないのですが、どうせ国内の調査が終わるまでは暇です。

 高ランク討伐者(わたし)がここにいる事は知っている方は知っている事実なので、それについては特に思うところはありません。よってメイドさんについて行く事にしました。




「アリスさん。アーネスト討伐者組合長から白金ランクの貴女に頼みたい依頼があります。

 まずは話を聞いてもらえますか?」


 組合長補佐を名乗る男性が、挨拶もそこそこに本題を切り出しました。


「とりあえず話だけなら」

「では、お言葉に甘えて。

 頼みたい依頼内容は湖に生息している精霊の討伐になります。

 精霊とは言うものの、それはその地の人達が畏怖を込めてそう呼んでいるだけで、本当の名は『セイレーン』と言います。聞いた事はありますか?」


 セイレーン…ですか。聞かない名ですね。


「いいえ。存じ上げません」

「わかりました。セイレーンは上半身が女人型で下半身が魚の見た目をしています。人魚とは異なり意思の疎通は不可能です。

 セイレーンは基本海に生息しています。ですが、何故か湖に現れたのです。セイレーンの特徴はこちらの冊子に纏めてあります。そして報酬は白金貨百枚を用意しています。

 どうかこの依頼を受けて貰えませんか?」


 人魚は御伽噺で聞いたことがあります。見た目が女性ですか。可愛らしい見た目でなければ討伐可能でしょう。

 えっ?可愛かったら?

 可愛いは正義なのです。可愛いモノに悪はいません!!


「アーネスト討伐者組合にも高ランクの討伐者が居られるはず。まずはそちらにご依頼されては?」

「…金ランク三名のパーティに依頼しましたが、悪戯に犠牲者を増やしただけに終わりました。一人白金ランクの討伐者はいますが、水魔法が得意な方なのでセイレーンとの相性から討伐は無理だとこちらで判断して依頼はしていません」


 馬鹿正直ですね……ですが嘘がなさそうなところは良いですね。

 これまでに私を小娘だと判断して、上からモノを言ってきたり、騙そうとする輩が多かったですから。まぁ討伐者組合ではその様な事はなかったのですが。


「受けるのは構いません」

「おお…たすか『ですが』…」

「受けるかどうかは討伐対象を確認してから。というのはダメでしょうか?」


 基本はそんな事は通りません。しかし今回は向こうから私に頼みにきたのです。それならそれが通る可能性も高い。

 何よりも人型で尚且つ女性の見た目というのが…美少女だと本当に討伐出来る自信がありません……美少女でなくとも少女の見た目であれば無理です。


「…わかりました。ですがそれなら一つ条件を追加させて下さい」

「なんでしょう?」

「確認と討伐にはすぐに向かって下さい。無理なら無理でホーネット王国王都の組合に早急に応援を依頼しなくてはなりませんから」


 当然ですね。受けるかどうかは見てから、倒してからでも良いと言うのは破格の条件。

 話の内容と進行から、組合が私に気を使っているのが垣間見えました。

 もちろん白金ランクだというのもありますが、それと同じくらい侯爵家の客人というのが効果あったようです。


「すぐに向かいましょう。場所を教えて下さい」


 私はその誠意に応えるように、迅速に行動する事にしました。

 どうせ暇ですから。









 そして冒頭(いま)に戻ります。


「確かにこの湖のはずです。上から見るのとは違い、かなり大きいのですね…」


 ここにくる前に幾つかの村を確認しました。件の湖は漁業が盛んに行われていると聞いたので、ここで間違い無さそうなのですが、誤算だったのはその大きさでした。

 侯爵家が治めるアーネストの街よりも一回りは大きいようです。湖畔であれば探すのに苦労はしないのですが、舟で向かわなければならない場所だと断念せざるを得ないです。


「先ずは畔を回ってみましょうか」


 セイレーン討伐に対して特に対策があるわけではないので、出来る事をすることにします。





「やはりかなりの広さでしたね」


 湖を一周して、先程と同じ所へと戻ってきました。常人の何倍もの速さで走れるこの脚でも、一周するのに二時間ほどかかりました。


「お嬢ちゃん。どうかしたのか?」


 セイレーンをどうやって見つけるか悩んでいた私に声を掛けてくる人が。


「こんにちは。私は討伐者組合の依頼で、この湖に棲息しているセイレーンの討伐に来た者です。ご老人はセイレーン…精霊の居場所に心当たりはありませんか?」


 話しかけてきたのは白髪の老年の男性です。

 お爺さんに悪意を感じられなかったので、困っていた私は素直に理由と状況を説明しました。


「!!?やめとけやめとけっ!お嬢ちゃんみたいな将来ある若い(わけぇ)(もん)が命を無駄にしちゃいけねぇ!」

「こう見えて討伐者組合に依頼される程度の実力はあります。見つければ討伐出来るとは思うのですが…そもそも居場所がわかりません」


 どうやら本当に良い人みたいです。

 心配は有り難いのですが、このご老人はセイレーンの居場所を知っているのでしょうか?


「!!…もし、お嬢ちゃんの話がホントなら、ワシらにとっては有り難いが…でもなぁ……こんな別嬪さんが…」

「ご老人。もしやセイレーンの居場所をご存知なのですか?」

「ワシは漁師だから知ってはいるが…」

「教えて下さい。もちろん対価はお支払いします」


 白金貨百枚の依頼なので情報料をケチるつもりはありません。


「いや、対価はいらねぇ…もし、退治してくれたらワシら漁師は大助かりだからなぁ。だけども…お嬢ちゃんを危険には…」


 バキッ

 ザザーーンッ


 環境破壊は好きではありませんが、百聞は一見にしかず。

 近くの大木を蹴り倒して見せました。

 私の力技(せっとく)が効いたのか、お爺さんは口を開けて放心していました。



「お嬢ちゃんが強いのはわかった!よし!ワシもこの湖で育った漁師の端くれ、案内する!」

「ご理解いただき有難うございます。場所さえ教えて頂ければ、それで充分です」

「いや、場所は漁師じゃなきゃわかんねぇ。なんせ湖の真ん中だからな」


 なるほど…それでは私には探しようがありませんね。

 この湖は対岸が見えないほど広く、そこまで行く方法がない私にはどうしようもありません。


「じゃからワシが舟を出す。お嬢ちゃんみたいな別嬪さんに頼るのは情けねぇが、ここの湖で生計を立てている漁師達の為に、精霊を倒してやってくれねぇか?」


「ありがとうございます。倒せるかどうかはやってみないとわかりません。ですが、最善を尽くす事は約束します」


 恐らくセイレーンは私の敵ではありません。しかし、した事もない事をさも出来るように言えるほど私は自信家ではありません。


「よし!着いてきてくれ!あっちにワシの舟がある!」

「巻き込んでしまい申し訳ないですが、よろしくお願いします」

「何言ってんでぇ!孫みたいな歳のお嬢ちゃんがワシらの為に戦ってくれるのに、何もしねぇわけにゃいかん!頼んだ!」


 見た目よりも元気なお爺さんに着いていき、船着場へと向かいました。







「精霊は簡単に舟を沈める。あんまり近づけねぇが、いいか?」


 お爺さんの舟は所謂手漕ぎの川舟で、長さが五メートル、幅が一メートルくらいの小さな舟でした。

 舟に乗るとすぐにセイレーンの棲家に向けて出航しました。そして暫く進むとそうお爺さんに言われました。


「構いません。元より遠くから確認して、それから討伐するかどうかを判断しますから」

「…そ、そうか。無理しねぇ程度に頼む」

「はい」


 ここからセイレーンの棲家まで、小舟で15分程のようです。

 私は五感を研ぎ澄ませ、セイレーンの気配を探りました。







「いました。恐らくあれでしょう」


 気配と言いましたが、嘘です。私にその様な特殊能力はありません。

 あの人が良く言っていたので真似してみただけです。あの人も気配を探る力はなく、魔力を見て言っていると仰ってました。

 私は純粋にその目で見つけました。


「ワシにはまだ見えねぇが、お嬢ちゃんは目が良いんだなぁ」

「長らく討伐者をしておりますので、魔物を探していたら目が良くなっていたようです」


 私の視力は元々普通でしたが、確かに討伐者として身の危険を感じながらの活動のお陰で視力は良くなっているようです。


「良かった」

「んあ?何がだ?」

「ああ。セイレーン…精霊の見た目の話です」


 お爺さんは説明を聞いてもポカーンとしていますが、わたしにとってはとても大切な事柄なのです。

 湖に突き出している岩場で休んでいるセイレーンの見た目は普通の成人女性のモノでした。

 あれなら躊躇なくヤれます。


「このまま向かって下さい」

「えっ、いや、このまま行くと精霊に…」

「大丈夫です。むしろ逃げられると困るので、お願いします」


 私のお願いにお爺さんは心配を口に出しますが、ここまで来て討伐しないはあり得ません。依頼も勿論ですが、このお爺さんのように()()()で困っている方の為にもここでこの騒動を終わらせます。


 覚悟を決めたお爺さんが動かす小舟は、徐々にセイレーンに近づいていきます。

 私は亜空間の魔法陣からMagic(魔法) invalid(無効)の魔法陣とsclerosis(硬化)の魔法陣を取り出しました。

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