後編
魔導士ティムスは二人に向かって説明する。
「君達がいた国、酷い事になっているみたいだよ。ケリウスの弟皇子のルイール殿下、国庫の金を多額にわたって使ってしまったらしくて、廃嫡されちゃったみたい。それから、ティーリアの妹のアイリスは、ルイール殿下と共に豪遊して、二人とも鉱山落ちしたみたいだよ。」
実はケリウスは、父である皇帝陛下と連絡を取り、皇帝は魔王と共に共同で、とある鉱山開発をしていたのだ。
人間界と魔界の境目にある鉱山。
ケリウスは頭を抱えて。
「鉱山へ視察へ行かねばならない。私が提案したのだからな。鉱山開発。もしかしたら、弟に会うかもしれない。」
「わたくしも参りますわ。妹の事も気になりますし。」
アイリスは妹と思って情をかけた覚えもないのだが、仲が悪かったし、
しかし、気になるので、ケリウスと共に視察に行くことになった。
沢山の罪人達が、働く鉱山。
魔族も人間も混じって、鉱山から貴重な鉱石を発掘し運び出している。
鉱山の責任者の魔族が、
「ケリウス様のお陰で、よい収入源が出来たと魔王様も喜んでおります。」
「それは良かった。以前、調べさせたらこの辺りの山はよい鉱石が取れると報告があったからな。」
そこへ、ボロボロの格好をしたケリウスの弟だったルイール、そしてティーリアの妹アイリスが、ケリウスとティーリアに気が付いて近づいてきて。
「兄上っ。どうかお助けを。」
「お姉様。助けて下さいませっ。ここは食べる物も貧しくて仕事もきつくて。」
ケリウスは、ルイールとそしてアイリスに向かって。
「すまないが、私には権限がないのだ。この鉱山の視察に来ただけだ。」
「わたくしも、同様です。権限がありません。」
すると、アイリスが形相を変えて叫んだ。
「お前なんて死ねばよかったのに。あの馬の事故を起こしたのはわたくしよ。
あああ、何で何でわたくしがこんなところにいるのよ。もう少しで皇妃になれる所だったのに。」
ああ…なんて事なんでしょう。あの事故がなければ、ケリウス様とわたくしは
皇帝と皇妃になれたのに。
いいえ…今はこうして二人で暮らしていけるだけでも…
わたくしは本当に幸せなのだから。
ケリウスは弟であったルイールに向かって、
「父上は親戚から新しい皇太子を立てるとおっしゃってた。おそらく従弟のチャールズあたりだろう。彼ならいい国を作ってくれる。」
ルイールはがっくりと肩を落として。
「父上は私を見捨てたと…ああああああっ。兄上のせいだ。いつもいつも兄上は優秀で、いつも私は比べられて、愚鈍でどうしようもないと言われてっ。お前なんてたかが人形じゃないか。」
怒りで真っ赤な顔になるルイール。
「魔動人形のせいで、俺はっ。」
シャベルを手にケリウスに襲い掛かった。
ティーリアは叫んだ。
「おだまりなさい。」
思わずシャベルを手に固まるルイール。
「ルイール様。何でもケリウス様のせいにするのは、昔から変わらない悪い癖ですわ。
国庫のお金を沢山使ったのは、貴方様自身が悪いのでしょう。それから、アイリス。貴方だって、ルイール様と共にお金を使って。そして何よりも許せないのは馬の事故を起こしたのは貴方ですって?あの事故のせいで、3人、重傷で中では寝たきりになった人もいるのよ。解っているの? わたくしだって魔動人形でなかったら死んでいたかもしれない。わたくしはわたくしは…貴方の事を妹だって思った事は無かったけれども…でもわたくしは…」
「お姉様?」
ああ…それでもわたくしにとってアイリスは、妹なのね。
憎い、でもそれでも愛しい妹…
「アイリス。貴方がここで働く事は、事故で被害にあった人達への罪滅ぼしですわ。
それにわたくしは貴方を助ける権限はありません。じっくりと反省して、いつかここを出られたらまっとうに生きて欲しいと、わたくしは…姉としてそう思います。」
「お姉様。こんなわたくしでも、妹として見てくれるの??本当にごめんなさい。ごめんなさい…ごめんなさい。」
互いに憎しみあった姉妹であるけれども…泣きじゃくるアイリスを、姉としてティーリアは抱きしめた。
ルイールもシャベルを置いて、ケリウスに謝る。
「兄上。本当に、私は最低な男だ。ここで、反省して、まっとうに生きるように、今度こそ頑張ってみるよ。」
「お前なら、改心してまっとうに生きられる。私はそう信じているよ。」
そう…悪い事をしたルイールとアイリスだけれども、わたくしとケリウス様は信じる事にしました。いつかきっと、改心してまっとうに生きて行ってくれると…
そう信じることに致しましたわ。
視察から帰って来て、今日も又、魔界のテラスでケリウスと共にティーリアはお茶をする。
「わたくしね…。魔動人形で良かったわ。こうして生きて貴方様と共にいられるのだから。」
「そうだな。でも、もし生まれ変わりがあるとしたなら、今度こそ人として生きて、君との子が欲しい物だ。」
「そうですわね。それも素敵かもしれないですわ。新しい紅茶でも淹れましょうか?」
「有難う。」
今日も魔界の赤くて暗い空を眺めながらのお茶は美味しい。
ケリウスと共に暮らせる幸せを深く噛みしめるティーリアであった。
眺めるのは、どんな空でも二人一緒なら幸せなんでしょうね。
会話はいつも、真面目な、国のことを考えるような事をお話している二人です。
拝見下さり有難うございます。