魔石鉱山
「枝豆事業のほうはどう?」
帰宅したエリオットに聞かれた。
「順調よ。枝豆収穫祭の準備は、高校の文化祭の準備をしているみたいでとっても楽しいし」
んふふっと笑いがこみ上げてくる。
「枝豆事業は任せておいて大丈夫かな。何か困ったことがあればいつでも相談するんだよ」
と優しく微笑まれて、コクコク頷いた。
実際は、ヨナハン伯爵がまとめ役でいろんな交渉事を引き受けてくれているし、大半の加工品の開発は大豆畑のシュルス夫妻と小麦・枝豆畑のリスター夫妻を中心に領民の奥様方が意見を出し合いながらやってくれている。
わたしの担当は、寒天とのコラボ商品ぐらいだろうか。
材料となる天草がたくさん必要になるため、これもヨナハン伯爵が海岸周辺の領地に掛け合って、天草集めと乾燥はその領地にお願いして、そこから天草を仕入れるという体制が整いつつある。
先月、3か月間の航行を終えて戻ってきた遠洋漁船は、わたしのリクエストに応えてエビとカニをたくさん捕ってきてくれた。
それも利用して、おつまみとして枝豆とエビの寒天寄せも作りたいと思っているところだ。
そうなると否応なしに冷蔵・冷凍設備が必要になってくるわけで、わたしが魔法で水を凍らせて、さらにその氷のまわりの時間を止めることで溶けるのを防いで冷気を持続させる箱をいくつか作った。
ただ手間がかかるため、せめて氷を作るところまでは魔石を利用した製氷機を作れないものかと提案して、いま魔法職のみなさんと一緒に開発中だ。
国王様から魔道具作りの許可が下りたのは大きな進歩で、何としてでもこれを成功させて魔法職の地位向上を図りたい。
もともと細々と秘密裏に行われてきた魔石の注入だが、わたしが有り余る魔力をじゃんじゃか魔石に注入するものだから回転が速くなり、石が足りなくなってきた。
十分な数の魔石があれば、年に2回きりだった遠洋漁業船の航行は、その倍の回数をこなせる勢いだ。
魔力を注入する石は硬度の高い天然石で、水晶が用いられることが多いらしい。
新たな水晶を求めて、隣国のルデルリー王国との国境付近にある鉱山で新たな坑道を掘り進めているところなんだとか。
近々エリオットが視察に行くことになっていて、いずれわたしも連れて行ってもらう約束をしている。
個人的にも魔石が欲しくて…鉱山で通常では使えないような小さな石をもらって帰れないだろうかと期待しているのだ。
以前、お屋敷の庭にあったツルっとした石に試しに魔力を注いでみたところ、注入中にバキッとひびが入って石が割れてしまった。
やっぱり硬い石じゃないとダメらしい。
わたしが持っている硬そうな天然石といえば、海神様からもらった祝福の石とエリオットからもらった銀細工のバレッタにはめ込まれたエメラルドぐらいだ。
いくら無謀なわたしでも、さすがに海神様の祝福の石に自分の魔力を注ぎ込もうだなんていう大それたことはしません。
そうなると残るは、バレッタ――。
もしも割れたらエリオットに何て言おうか。
いや、それでも好奇心には勝てなかった。
黒猫のシャールに「やばそうだったらストップって言ってね。お願いよ。絶対よ」と無茶なお願いをして、嫌がるシャールを道連れにバレッタの小さなエメラルド4つに注入してみたことがある。
結果、見事に成功したのだけれど、わたしもシャールも息をするのも忘れるほどの緊張感で精神的な消耗が激しく、『大事な宝石に魔力を注入して遊んではいけません』という教訓を得た。
このことは、シャールとわたしだけの秘密だ。
高校2年生の夏休み中にこちらの世界に召喚されて、隣国のルデルリー王国で3か月過ごし、ここローリンエッジ王国へやって来てもうすぐ半年。
元の世界とは暦や季節がちがうからあまり意識したことがなかったけれど、枝豆収穫祭が開催される頃がわたしの18歳の誕生日のはずだ。
そのプレゼントということで水晶をリクエストしようかと思っている。
エリオットの誕生日は先月だった。
王族だけの内輪で開かれた第三王子の誕生日を祝う宴には、まだエリオットの婚約者として認められていないわたしは招待されなかったけれど、毒でテンパってワゴンの脚を折るのはもう御免だからむしろありがたかった。
エリオットのことは、フィリスとランドールがついていれば、それだけで安心だ。
そのかわり後日、自宅でカニざんまいの夕食でお祝いをした。
蒸しガニ、焼きガニ、カニしゃぶ、カニグラタン、カニクリームコロッケ――どれもこれもとっても美味しかった。
あれ?それってエリオットのお祝いになっていたんだろうか!?
わたしたちはいつになったら婚約を認めてもらえるんだろうか。
結婚できる日は来るんだろうか。
対抗勢力をあぶりだして排除することこそがその近道だと信じて頑張るしかない。




