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異世界召喚された直後に求婚されました  作者: 時継
第二部

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女子トークと枝豆スイーツ

――4か月後


「どうして王太子殿下(ランドール)ではダメなの?」

わたしは、枝豆の寒天スイーツをスプーンですくいながら同じテーブルを囲むフィリスに聞く。


「独身で婚約者も恋人もいない王太子殿下(ランドール)に言い寄るほうが手っ取り早くない?」


寒天は砂糖を入れてお菓子仕立てにしてある。

それを一口食べて、よく冷やして正解だったと思う。

ひんやりしていて、のどごしもよくて美味しい。

暑さがピークのこの時期にぴったりだ。


フィリスは寒天を食べる手を止めた。

「いやよ、エリアスお兄様が好きなんだもの。あなたこそ、救世主のパートナーはエリアスお兄様ではなくて王太子殿下のほうが都合がいいんじゃなくて?しかも顔を合わせるたびに『俺と結婚するか』って迫られているんでしょう?」


ツンと顎を上げて意地悪そうな顔をするフィリスは今日も美しい。


「いやよ、わたしはああいう俺様系はニガテなの!エリオットみたいな王子様系が好きなんだから仕方ないでしょう?大体、エリオットのことを好きになってなかったら、そもそもこの国にも来ていなかったんだからねっ」


フィリスは彼女なりのやり方で大好きなエリオットを守ろうとしていると気づいたあの日から、わたしの中でフィリスの見方が変わり始めた。


フィリスは自分の恋を成就させるために、わたしとエリオットを引き裂こうと狙っている。

もしも、魔女であるわたしがそれに怒ってフィリスに向かって魔法で制裁を加えるようなことでもすれば、その事実を大いに利用して王弟派閥が政治的にも優位に立つ可能性がある。

王弟派は彼女の恋心を利用して好きなように泳がせているし、フィリスのほうもそれがわかっていてエリオットにベタベタするのだ。


わたしとの仲を知りながらエリオットに対してスキンシップが過ぎるのは正直腹立たしいが、わたしとエリオットはいまだに国王陛下に婚約を認められていない。

婚約者がいる者にちょっかいを出すのは貴族社会ではルール違反だ。

だからこそ、この人こそはと見染めた人が現れたら、ほかの人にさらわれないよう婚約を急ぐわけで、まだ婚約が成立していない恋人同士の段階の人に横恋慕したり略奪するのは有りらしい。


わたしたちは恋敵でありながら、エリオットのことは守り抜く!という共通の目的もある。

そこに妙な仲間意識が生まれたのかもしれない。

いまでは、始めた会った日に『典型的な悪役令嬢』とか思ってしまってごめんね、とさえ思っている。


「『オレサマケイ』が何だかは知らないけど、エリアスお兄様が泣き虫でなよっとしているだけの男性とは思わないほうがいいですわよ。お兄様が実は剣術の達人だって知っていて?」

「その話、詳しく聞かせて!」

「どうしようかしら。また機会があればお話ししますわ」

フィリスは勝ち誇ったように微笑んでいる。


ぐぬぬぬ。

「わたしだって、エリオットの胸板が硬いこととか、手のひらも繰り返しまめができて硬くなったんじゃないかっていう跡があることは気づいていたわよ」

負けじと言ってみる。


見かけによらず、いとも簡単にわたしのことをお姫様抱っこしてしまうし、抱きしめられたときのエリオットの胸の感触や、つないだ時の手のひらの感触が見た目の優雅さとは裏腹に男っぽいことに、いつもドキドキさせられっぱなしのだから。


「ギャップ萌え…」

思わずつぶやいてうっとりしていると、

「ちょ、それ何の呪文?何で顔を赤くしてるのよ、こわい!」

うろたえた声が聞こえて正面を見ると、さっきまで勝ち誇っていたはずのフィリスが怯えていた。



ヨナハン伯爵領の枝豆事業がスタートし、枝豆スイーツ作りに着手して行き詰っていた

ときに、エリオットを訪ねてきたフィリスになんとなく相談したのをきっかけに、わたしたちはよく話すようになった。


ずっと前、エリオットへの差し入れとして彼女が持ってきていたかわいらしくて美味しそうなクッキーは彼女の手作りだったようで、エリオットへの「わたし女子力高いです」アピールというよりは、純粋にお菓子作りが好きなのだということもわかった。


わたしがひとりで王宮の外に出ることは許されていないから、寒天の原料となる天草を海岸にさがしに行ったときは、好奇心に負けてフィリスが付き添ってくれたのだけど、帰りの馬車の中で満面の笑みであやしいカイソウを入れた桶を抱える薄気味悪いわたしを見て、付き添ってきたことを心底後悔したらしい。


この枝豆寒天スイーツはまだ試作段階だが、枝豆をペースト状にして寒天に混ぜようというアイデアを出してくれたのはフィリスだった。

「ところであなたの作るカンテンは、どうして全部四角いの?底が丸い器で固めてひっくり返せばドーム状になるでしょう。その上に豆の形のままのエダマメを数粒のせて、その粒もカンテンで固めたらかわいいんじゃなくって?」


「すごい!それ素敵!おつまみ用のエビと枝豆の寒天寄せは四角く作って、スイーツのほうはドーム型にすればいいね。

フィリス様のアイデアって言えないのが残念だわ」


ヨナハン伯爵領の枝豆事業は、王太子殿下の肝いりとして行っているから、対抗派閥のトップの娘であるフィリスは本来、そこに加担してはならないはずだ。

それでも、お菓子作りが趣味という個人的な好奇心に勝てず、たまにこうして試作品を食べてもらっている。


「べつに、そんなの言わなくていいですわっ」

プイっと横を向いたフィリスの顔が赤い。

もしや、照れてる?


2か月後に大規模な「枝豆収穫祭」をヨナハン伯爵領で催す予定で、完成した新作枝豆スイーツはそこで売ることになっているのだ。


収穫した枝豆や、枝豆を使ったの加工食品を露店販売したり、試食で塩ゆで枝豆を出して多くの人に「枝豆」を知ってもらいたい。

ヨハン伯爵の友人のフェルナンド公爵もそのフェスで葡萄酒を提供販売してくれることになっているし、子供用にはぶどうジュースを用意してもらって、そこへわたしが魔法で炭酸を注入してシュワシュワ~な炭酸ぶどうジュースにする予定になっている。


フィリスは主催者として名前を連ねるわけにはいかないけれど、せめて遊びに来てもらいたい。


あのフグの毒入り晩餐会のときに「また会いましょう」と交わした約束は半分社交辞令だと思っていたのだけれど、そのあと間を置かずにサットンから声がかかった。


また毒を盛られるのは勘弁してもらいたいから、サットンとは後宮の中庭で遊ぶのが恒例となり、魔法を見せてとせがまれたら、手品のようなちょっとした魔法を披露するようにしている。

この、子供向けに微力な魔力を使うという加減が実は難しくて、ありがたいことにサットンのおかげで魔法のコントロールが上手くなってきた。

今度会うときは、枝豆スイーツを手土産に持っていこう。


「フィリス様はかわいらしいお菓子のアイデアがたくさんありそうだから、お菓子屋さんになればいいのに。人気店になりそう」

「はあ?冗談言わないでちょうだい。わたくしは、エリアスお兄様と結婚するのが夢なんだから!」


わたしたちの話題は、スイーツが半分、エリオットが残り半分。

どれぐらいエリオットのことを知っているか、どれぐらいエリオットのことが好きかを競うようなあけすけな女子トークが多くて、とてもじゃないがエリオット本人には聞かせられない。


今頃きっと、お仕事をしながらくしゃみでもしているんじゃないだろうか。



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