答え合わせ
こっちから出向くまでもなくエリオットが来てくれたので、お店のソファに座ってもらって、いつものハーブティーを飲みながらこれまでのことを説明することにした。
プリシラは実は魔女だったのだ、と告げても、エリオットはさほど驚かなかった。
むしろ、やっぱりそうだったか、という反応だった。
ただ、エリオットがそれに気づいたのはペリア茸の毒が抜けてからで、それまではプリシラのことを全く疑いもせず大好きだったらしい。
まあ、惚れ薬を飲まされていたんだから無理もないんだけどね。
セバスチャンにはもっと早くから「彼女は魔女かもしれませんよ」と言われていたけれど、惚れ薬が効きまくっているエリオットがそれに耳を傾けることはなく、むしろセバスチャンを出し抜いて求婚することになってしまったのだという。
あの場面で、セバスチャンが大げさなほど青ざめてわなわな震えていたのは、プリシラが求婚を承諾して婚約が成立したら、それは魔女と契約を交わしたことになるとわかっていたからだ。
執事一筋30年の彼の勘は当たっていたのよねぇ。
それを阻止したわたしに、もっと感謝してくれてもいいぐらいだわ。
わたしの説明の中でエリオットが驚いていたのは、わたしがおばあちゃんになったあの姿こそがプリシラの本当の姿だったということ。
「いや、女性の容姿にあんまりこだわりはないけど、さすがに老婆は対象外だな」
と何やらつぶやいていた。
そして、エリオットがそれ以上に驚いていたのが、わたしが「海神様に会った」と言ったとき。
「えぇぇぇ?アリィを疑っているわけじゃないけど…夢ではなく?」
まあ、そう言われてもこっちは証拠も示せないんだから、本当に本当だ!としか言いようがないんだけど……ん?証拠?
「そういえば、何かもらったんだっけ」
ポケットから出てきたのは、水色の石。
エリオットにその石を手渡すと、ひっくり返したり、光に透かしたりしてしばらく見つめ
「これは、本物かもしれない。海神様の祝福の石・アクアマリン」
と言った。
「なにそれ?すごく高価だったりするの?」
「本物だったら価値ははかりしれないよ。小さな国が買えるレベルだ。アクアマリンは、海神様の祝福で、加護の塊みたいなものだから」
よくわからないけど、エリオットの焦り方かたすると、この石が本物ならとんでもないお宝ってことよね。
わたしったらそれを、海神様の前で「石ころ」って言ってしまった気がするんだけど…。
海神様にヒントをもらって、プリシラの魂があのバラに宿っていることに気づき、あのバラを暖炉に放り込んで燃やしたところへエリオットが帰ってきたのだと、ようやく説明を終えた。
「いろいろありがとう。きみのおかげだね。アリィがその小さな体で僕たちを救ってくれたんだね」
「とりあえず一件落着かな。これでエリオットたちも安心して予定通り帰国できるね」
「そうだね」
「わたしがよその世界からここへ連れてこられたのは、プリシラの復讐を阻止するためだったんだろうけど、そのミッションを達成しても自動的には戻れないみたい。
わたしは、このままここに残って、元の世界に戻る方法でも探すことにする。
いつかすごい魔法陣が描けるようになったら、帰れるんじゃないかと思うの」
「アリィ、あの時のようにまたきみに怒られるかもしれないけど、それでも言うよ。一緒に僕の国へ来てほしい」
何も考えずに王子様のこの申し出に飛びつくことができたら、どんなにラクだろう。
「あの時はいきなり怒ってごめんなさい。プリシラの秘密をひとりで抱え込んでいっぱいいっぱいだったの。あそこでちゃんとエリオットに話しておけば、プリシラを燃やさずに救えたかもしれないのに。
みんなを守るために咄嗟に暖炉に投げ入れたのよ、魔女を。
あなたの国へ行って『悪い魔女をやっつけてくれた異界人』って称えられるのは耐えられないし、わたし自身もどうやら魔女になってしまったようだから、どう考えても無理だわ。あなたにはついて行けない」
涙が出そうになるのをこらえて言葉を続けた。
「プリシラとわたしのことはもう忘れて、あなたは、あなたにふさわしい人と結婚して幸せになってください」
これで諦めてくれるだろうと思っていたら、意外にもエリオットが食い下がってきた。
「あの頃、ちょうど僕はプリシラの媚薬の効果が切れて、いろいろ混乱していたんだ。まさかそんなものを飲まされていたって知らなかったから、しばらく会えないだけでプリシラへの愛情が冷めてしまうような、自分はそんな軽薄な男だったのかと思ったりしてね」
あらら、そうだったのね。
「プリシラのことを思い返すとよくわからないことが多すぎて、彼女の話していた経歴が本当か裏で調べさせていたんだけど、その過程で彼女が魔女かもしれないっていう疑惑がでてきてね。
そんな矢先に、きみが魔女弾圧のことを調べているってわかって、これ以上首を突っ込ませるのは危険だと思った。
魔女のプリシラが経歴を偽って近づいてきたってことは標的は僕なんだから、きみを僕から遠ざけておけば、きみには害が及ばないだろうと思っていたのが間違いで、危険な目にあわせて申し訳なかった」
そっか、エリオットの態度が急によそよそしくなったのは、わたしを守るためだったのね。
「アリィが歳を取ってしまったときには、てっきりプリシラの魔法にかかってしまったんだと思っていて、きちんと話をしていなかったことをひどく後悔していたんだよ」
「ふふっ、わたしたち同じ反省をしていたのね」
「アリィ、きみを放っとけないんだ。言ってる意味わかるよね?
もう一度チャンスがほしい。明日、僕とデートしてください」
あまりに唐突すぎるデートのお誘いの勢いに押されて、わたしは「はい」と答えるしかなかった。