表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第五部:『そして至るは英雄譚』
126/140

第一章:04



・・・


「ぬうぅ……ッ!?」

「お……おのれ……! 早すぎる……」

「一度は戴いた相手に、ずいぶんな態度だな」



たじろぎながらうめく大改人に飄々と応えるフルフェイスだが、

しかしかえってその言葉に臆した気を取り戻して苦々しくヤク・サが

口を開く。



「……一方的に使いつぶそうとしておいて、ずいぶんな物言いでは

 ありませんかな? 総帥どの……」

「まったくだな」



他人事のようにフルフェイスが返す。

もとよりまっとうな答えなど期待してはいなかっただろう、棄てられた

大改人はそれ以上は口をつぐみ――



即座に撤退を選んだ。

"力ある目録(レキシコン)"をめくらましに撒き散らし、全力で離脱する。




それを追いかけるべくフルフェイスはわずかに身をかがめるが……

そこにアルカーが殴り掛かった。


力ある言葉(ロゴス)≫で爆炎を纏った正拳をまっすぐその胸に打ち込むが、

古代文字のような文様を刻まれたその仮面の怪人は揺るぐこともなく

拳を掌底で受け止める。



「フル……ッ……!」

「久しぶりだな、アルカーよ」

「――フェイィィィィィィィィィスゥゥッッッッッッ!!!」



掴まれた右手を、それでも無理やりにねじ込むように前へ押し出す。

腹の底から絞り出すような怨嗟の声をぶつけてやるが、やはりフルフェイスは

どこ吹く風といった素振りだ。



「貴様ッ…………!」

「私に難詰したいことがあるのもわかるが。

 いいのか? 奴らを逃しても」



敵ながらもっともな言葉ではあった。あったのだが――



「貴様を、貴様の面を拝んで見過ごせるかッッッ!!!」

「嫌われたものだ」



ぐりっ、と右手をひねりあげられ投げ飛ばされる。

空で身を翻し、着地と同時に再度飛びかかろうと身構えるものの

その時には隙なく距離をとられていた。



「……ッ……当たりまえだ。

 貴様を、貴様を倒すために――アイツは。

 ノー・フェイスは、死んだんだッッッ!!!」

「……」



この数か月でようやく鎮まりかけていた炎が、再び燃え上がる。

フルフェイスが――フェイスダウン総帥が生き延びたのなら、

ノー・フェイスの犠牲はなんだったというのか。



「何故貴様が生き延びている!」

「……"死んだ"、か。

 オマエは、そう表するのだな……」



激昂したこちらとは対照的に、静かに俯きなにごとかを呟くフルフェイス。

ふ、と面をあげるとこちらの疑問に律儀に答えてきた。



「死ななかった。それだけだ」

「ふざけるな!」



結局は、こちらの怒りを逆なでするだけの内容だったが。

怒りのままに追求する。



「貴様はまだ、フェイスたちを人類にしようというのか。

 ホオリを、そしてこの俺から精霊を奪おうとたくらんでいるのか!?」

「いや。今のところ、そうするつもりはない」



が、返ってきた言葉は意外なものだった。

面くらうアルカーを意に介さず、秘密結社の総帥は続ける。



「どのような形であれ、オレはオマエに負けたのだ。

 当面、以前の計画を再始動させる気は――ない」

「なに……」



す、と目線をこちらから外し、大改人たちが逃げ去っていった方向を見やる。



「……しばらくは、オマエと接触する気もなかった。

 私とて、大改人どもを叩くだけのつもりだったのだが、な……」

「ぬけぬけと、よくも言う……!」



対峙している間にも、フェイスアンドロイドの半数以上は大改人を追跡しに

むかっていた。今度はどのような陰謀を企んでいるかしれたものではないが、

今は改人の粛清を再開することを優先しているらしい。



たしかにそれはアルカーにとっても利のあることだった。

何を目論んでいるかわからない以上必ずしも諸手をあげて歓迎できることでは

ないが、それでも厄介な敵同士潰しあってくれるなら助かる話だ。



だが、それでも。

それでも――この仮面を前にして冷静ではいられなかった。



ノー・フェイス。アルカーが唯一相棒として背を任せた男は、

こいつを倒すために空の彼方で散ったのだ。


その相手がおめおめと生き延びてるのでは――自分はホオリに、

顔向けできないではないか。



だがフルフェイスにはそんな感傷もないのだろう。

なにごとか部下のフェイス――あのジェネラルだ――に耳打ちされ、

すっと手をあげるとフェイスたちが散っていく。



「オマエがどう感じるかは知らないが。

 今のところ、オマエたちと事を構える気も人を襲う気も私には、ない」

「それを、信じろというのか!」

「無理にとは言わんが。

 私は改人――そしてアルカー・ヒュドールを探し、倒す。

 邪魔はしない方が、互いのためだと思うがな……」



すぅ……と、その身体が透け始める。舌打ちをして跳躍し蹴りを浴びせるも、

その時にはすでに実体が失われていて相手の身体を通り抜けてしまう。



(瞬間移動? あるいは視覚的な欺瞞か……)



歯噛みするアルカーに、声だけとなったフルフェイスが忠告を残していく。



「いいか、アルカー。私には構うな。

 それが互いのためだ……」

「戯言を……!!」



拳の代わりに言葉に怒りをのせてぶつけるが、その声は相手に届かず。

すでに、フルフェイスの気配はその場から消え去っていた……。



・・・



「――大改人たちの逃走ルートは第三亜空間航跡までは追跡できましたが、

 残念ながらそこから先は……」

「そうか」



頭を垂れて主君に無念の報告をするが、さして咎めるでもなくフルフェイスは

一言うなずくだけであった。


幹部フェイス――ジェネラル・フェイスはちらりとその様子を窺いつつ

胸中で独りごちた。



(……もはや、幹部と呼べるものも私だけか……)



かつてのフェイスダウン、その威容を考えればあまりに落ちぶれたものだ。

数多くの同胞が倒れ、戦闘面最強を謳われたキープ・フェイスさえも

アルカーたちの前に斃れ伏した。



だがフルフェイスは残った。



(このお方さえ――このお方さえ、残っていれば……)

いくらでもやり直せよう。いや、そもそもフェイスたちにとって望むことは

フルフェイスの目的を遂げさせることなのだ。

それさえ叶うならば、自分を含めすべてのフェイスが壊れようとも、

恐れることなどなにもない。



だが……



「今日の追跡はここまでだ。帰投する」

「は……」


ばさり、とマントを翻してフルフェイスが促す。

了解しながらも、ずっと抱いていた疑問を再度問いかける。



「――総帥。僭越ではありますが……そろそろ、新たな目的を

 お教えいただけませぬか」

「……」



そう。

唯一残った幹部であるジェネラル・フェイスにすら、今のフルフェイスが

何を計画しているのかは知らされていなかった。



アルカーは、フルフェイスの言葉を信じなかっただろう。

だがジェネラルたちに厳命されたのは、あの時の言葉通りのものだった。



いわく、人を襲いエモーショナル・データを奪ってはならない。

いわく、アルカーやその仲間と敵対しない。

そして、改人たちを一人残らず始末する。



それに不満はない。

フェイスとはフルフェイスのために存在するもの。その彼が望んだことなら

いかなるものであれ、実行する。



だが、真意がわからなければその力になることもできない。

そのもどかしさが、ジェネラルにはあるのだ。



「もはや、貴方の腹心と呼べるものは私一人。

 その私さえ全容がわからねば、総力を費やすにもその道が見えませぬ。

 どうか真意を教えては――」

「ヘブンワーズ・テラスの残骸、その捜索は続けているか?」

「それは、無論」



懇願をさえぎられる形だが不快にもならず返答する。

アルカーたちによって墜とされたフェイスダウンの本拠地、

その質量の大部分は大気圏に突入する際に燃え尽きた。



が、ごくわずかな残骸は消えずに地表に降り注いでいる。

その中に、フルフェイスが必要とするものがあるらしく、フェイスたちには

大規模な捜索を命じられていた。



「では、今はそれでいい。

 ()()を見つけること、そして改人たちの本拠地――

 そこに居るはずのアルカー・ヒュドールとホデリ。

 それだけに、注力せよ」

「は……」



釈然としないものはあったが、そう切り上げられれば口をつむぐしかない。

前を進むその背を見つめ、つき従う。




フェイスは、フルフェイスのために存在する。

その目的を遂げさせるためなら、いかなる命令にも従う。


だが――




(……なんだ? この違和感は……)



――長い従僕生活の中ではじめて、ジェネラルはフルフェイスに対して

不可解さを感じ取っていた……。




・・・



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ