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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第五部:『そして至るは英雄譚』
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125/140

第一章:03



・・・



「大改人か……ッ!」



ぎりっ、と歯噛みしつつ脚を滑らせて半身をめぐらせ現れたカマキリ女――

シターテ・ルに対峙する。


表情を読みづらい造作だが、以前見た時の妖艶な余裕とでもよぶべき雰囲気は

失せており、どこか苛立った空気を醸し出していた。



(最初の奇襲を避けられたから――と、言うわけでもなさそうだが)



相手をつぶさに観察しながら、火之矢はそんな印象を受けた。

どこか、焦りを感じさせるような――



(――それはこちらもだがな)



相手とは違いおくびにも見せず心中でだけ呟く。

すでに一度、退けた相手ではある。以前よりこちらの力も増してはいる。

とはいえ――



「――貴様一人で来たわけじゃあるまい」

「さあ、どうかしらね?」



ふざけているようで、苛立ちを混じらせた声音でシターテ・ルが応える。

もっともすでにアルカーの感覚は二体の強大な気配を感じ取っている。

――この場にはすでに、三大改人がそろっているはずだ。




(こんな街中にか……ッ!)




アルカーの懸念はそこだった。




単に戦闘力だけで言えば――彼ら三大改人を相手するよりも、大戦闘員たる

キープ・フェイスとの戦いの方がよほど恐ろしかった。

だがあの時は洋上の要塞。すなわち他への影響をいっさい気にすることなく

全力を費やせる最良の条件での戦いだった。



今は、違う。

改人騒ぎですでにPCPによって避難は済んでいると言えども、三大改人が

相手となればどこまで被害が拡大するかもわからない。

当然、使える≪力ある言葉(ロゴス)≫にも制限がある。



そのうえ相手は三体。

総合的な戦闘力はキープ・フェイスより数段劣るとしても、こちらが

一人となればいくらでも攪乱戦法をとることができるのだ。



(厄介だな……)



久しく味わっていなかった焦燥にイヤな汗が流れる。

この場の全てを自分一人で支配し、制御し、戦いきる。

それができなければ、誰かが失われる――そんな重責だ。



そう、自分の背中には誰もいないという――イヤな焦りだ。



(甘えだな)

気を引き締めなおして相手の動向を意識する。

どれだけ願っても、自分の背中にいるべき相手は戻ってこないのだから。



瞬間、地面を蹴って飛び退る。その方向には退却中の竹屋とPCP隊員がいて――



「そらきたか!」



――ばしり、と際どいところで突撃してきた闇の塊をはじき落とす。

ちょうど二人を射線上に巻き込む形で放たれた、大改人の攻撃だ。


避けることは簡単だったが、そうすれば竹屋たちは直撃を受けていただろう。

必然撃ち落とすしかなかったが、その闇の塊は叩き落としたアルカーの右脚に

まとわりつき、ずしりと重い枷と化した。



「浅ましい真似をしてくれるもんだな!」

「フフフ。まあ、そういうやり方が得意なものでして……」



のそり、とビルの影――いや闇から浮き上がってきたのは大改人の一人、

髑髏型大改人のヤク・サだ。アルカー対策に特化した、搦手を好んで用いる

厄介な相手の一人だ。



「ぬぅぅうん!」



空から巨大な肉塊が降ってきて、剛腕を振り下ろしてアルカーに叩きつける。

回避するには右脚が重い。やむなく、その場で受け止める。



「ちぃ……ッ!」



ギシギシッ! とクロスさせた両腕が軋む音がする。

二本の腕をあわせても枯れ枝に見えるくらい、その剛腕――

鬼型大改人、ヤソ・マの腕は隆々としている。



「ヒィィーーーーッハァァーーーー!!」



甲高い叫びを上げ、充分に加速したシターテ・ルが鎌を突き出して

突撃してくる。右脚の枷、振り下ろされた剛腕によって

その場に縫い留められたアルカーには避ける術がなく――



「――レイン・オブ・ファイアッ!」



――≪力ある言葉(ロゴス)≫を発動させ、全身を超高熱の爆炎で包み込む。

並みの改人であればそれだけで融解させられる威力だがさすがは大改人、

ヤソ・マとシターテ・ルを弾き飛ばす程度におさまる。




「ほほほッ! まったくもって面倒な男だこと!」

「もはや力押しでは通用せんか……」




ヤソ・マはずしりと大地を踏みしめ、シターテ・ルは上空へ優雅に飛び去る。

空からの遊撃・足を止めての格闘戦・後方からの援護射撃……と、

実に理想的ともいえる布陣なわけだ。


(どちらが面倒なんだか……)


辟易としながらも当然アルカーとて黙ってみているわけではない。

己は矛。すべてを貫く矛だ――と念じながら、ヤソ・マへと突撃する。



「ぬッ……!」



ボウッ、と炎を纏わせたこちらの貫手を見て鬼型改人が仁王の構えを見せる。

腹や胸を貫かれてでも、動きを止める腹づもりなのだろう――



が、バカ正直に力比べをするつもりはない。



こちらの攻撃を受け止めるつもりなら、当然全身の筋肉が強張る。

そこを突いて、ふっと腰を沈める。ただでさえ天を衝くような巨躯である

鬼型大改人の視界から完全に消え失せ、その股の間をすりぬける。


狙いは――厄介な援護射撃役(デバフ)であるヤク・サだ。

ヤソ・マを盾にするように後方に陣取った相手へと吶喊する。



「"ネブラ"……"ツァオン"……!」



対応する髑髏型大改人とて素人ではない。

慌てず騒がず、≪力ある言葉(ロゴス)≫の模造品――"力ある目録(レキシコン)"を唱え、迎撃にうつる。



「"インペトゥス"……ッッッ!!」



ヤク・サから放たれた闇の霧が壁となって突撃してくる。が、一度見た技だ。

飛び上がってかわし――



「おほほほほほッ!」



――そこを見事にシターテ・ルに狩られる。

鋭い鎌がわき腹を直撃するが、かろうじて精霊の力を集中させるのが間に合い

貫かれることは避けられた。

が、大きくはじきとばされ再びヤク・サとの距離をあけられてしまう。



「あまい、あまいわねぇ! 戦い方が雑になってるんじゃあないこと?」



大きく旋回して再び上空へと離脱するシターテ・ルを苦々しく見送りながら、

追撃してきたヤソ・マの一撃をかわす。


砕かれたアスファルトの破片を弾きながら、詮なきぼやきを思わず口に出す。



「……少し前なら、今のは決まっていたな」



ヤク・サのターゲット分散かシターテ・ルの妨害、どちらかだけでも

請け負ってくれる()()()がいれば、ヤソ・マを倒せていた。

シターテ・ルの言う通り、ある意味で戦い方が雑になってるのかもしれない。



()()()がいない穴は、やはり大きい。



(――いつまで弱気なことを!)



頭をふって目の前の状況に集中する。

ないものねだりをできるほど、現状は気を抜けるようなものではない。


今の自分は、以前この三体と対峙した時よりずっと強くなった実感がある。

相手も強化はされているようだが、それでも()()()気はしない。

が、容易に勝ちに行ける相手でもない。そして長期戦になればなるほど、

戦い方を制限しなければいけないこちらより、いくらでも被害を拡大する

戦い方ができる相手の方が、有利なのだ。


極論、三大改人にしてみればこの場でアルカーを倒せずとも、あえて周囲を

巻き込む戦い方を何度も続けて消耗させる――という非道なやり方も、

選択できる立場なのだから。



(……?)



が、そこで違和感を覚える。

ある意味防衛側であるアルカーに対し、襲撃側である三大改人はいつでも

撤退を選択できる、つまり余裕のある立場のはずだ。

にもかかわらずシターテ・ル以外の二人にもわずかな焦燥を感じ取ったのだ。



「――しばらく姿を見せずにこそこそ隠れてたわりに、

 たいした作戦も考えてはこなかったようだな」

「万全を期して、とはいかないことは認めますよ。

 しかしそう贅沢なことも言えませんのでねぇ」

(なぜだ?)



軽口を装ってカマをかけてみるが、存外あっさりとヤク・サが口を割る。

向こうに余裕がないことをバラすのも不可解だし、それほどに切羽つまった

理由が思い浮かばないこともまた妙だった。



たしかにCETはアドバンスド・カインドのフロント企業を摘発してはいる。

が、所詮CETは日本国内でしか活動できない組織だ。一方で改人たちは

広く海外にも活動拠点を有している。


そもそもが無理を推してアルカーに挑む必要性がないはずなのだ。

フェイスダウン、そしてフルフェイスとは違って。



そんなアルカーの疑念を見透かしたかのように、ヤク・サが表情を変える。

シターテ・ルと同じく読み取りづらい顔だが、にちゃあ、と粘着質な

薄気味悪い笑みを浮かべたのだ。



「フフフ……それにしても貴方も、なかなかこすい男だったようで」

「何の話だ?」

「またまた」



カカカ、と髑髏が笑う。

だがアルカーは相手の言葉の意図をはかりかね、つい攻め手を止める。



「世間はともかく、もう我々にはあなた方のウソはバレているんですよ。

 だからこそ、こうして急を要してあなたをとらえる必要に迫られて

 いるわけですが……」

「ウソだと?」



こちらを――アルカーを確保する、という大改人の言葉には驚きはなかった。

アドバンスド・カインドの首魁が誰なのか、を考えればその行動は

自然なものだ。

が、ウソとは何を指しているのかは、わからない。



「世間の混乱を収めるためか、はたまた別の狙いがあるのか……

 上のご命令かもしれませんが、すぐに判るウソなど、

 つくものではありませんよ?」

「だから、何の話だ?」



くり、と可愛げさえある仕草でヤク・サが首をかしげる。



「ですから、あなた方の発表したウソですよ。

 そう――」

「"秘密結社フェイスダウンの総帥は倒れた"

 ――という言葉か」



――その場にいる全員がびくり、と身をこわばらせたのを感じた。

()()()()()が、一瞬で静寂をもたらしたのだ。



悪趣味に面白がるようなヤク・サの顔が、驚愕と恐怖に震えはじめる。

筋骨隆々とした大偉丈夫であるヤソ・マさえ、身体をわななかせている。

シターテ・ルは――すでに遠くへ飛び去ったようだ。薄情すぎる。



かくいうアルカーとて……声が飛んできた方向へと首をめぐらすのに、

格段の勇気を必要とした。

ゆっくりと、そして最大級の警戒をこめて後ろを振り向く。




目に飛び込んだのは、無数の赤い光点だった。

ビルの上にいくつもの影がたちならび、その一つ一つに赤い光が灯っている。




目が逆光に慣れてくると――それが無貌の仮面をつけた人の群れ……

いや、()()()()人間の群れであると判別がつく。



「……人造人間、フェイスアンドロイド戦闘員……」



フェイスダウンの総本山、ヘブンワーズ・テラスが失墜して以降

長らく姿を見せなかった、フェイスダウンの構成員たちがそこにいた。




その中に一体、明らかに他とは異質な空気を纏う仮面がいた。




赤いマントにその身を包み、古代文字のような装飾がその身体の表面を覆う。

だがそんな外見的特徴など問題ではない。それ以上に、その存在が放つ

威圧感こそが、()の正体を声高に叫んでいた。




「――フェイスダウン総帥、フルフェイス……ッ!!」

「久しぶりだな、アルカー。アルカー・エンガよ。

 ――こうして顔をあわせるのは、空での戦い以来だな」





数か月前に確実に倒したはずの、一つ目の怪人。

異星より来訪した超越者――





秘密結社フェイスダウンの長であるフルフェイスが、再び姿を現したのだ。





・・・




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