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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第五部:『そして至るは英雄譚』
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第五部『そして至るは英雄譚』

たいっっっっへんにお待たせしていて申し訳ありません…………最終章の導入部です。

しかし、残念ながらまだだいぶお待たせすることになりそうです……

ぶっちゃけ、ゲーム制作の進捗がめっちゃ押してます。こっちがどうにかならないと執筆にも時間がなかなかさけませんです……

もう少しだけ、気長にお待ちいただければありがたいです……



・・・



「――えぇい、うっとおしい」

べしりと――音に反して強烈な威力の――平手を命乞いする市民にたたきつけ、

はらいおとす。



カマキリのような女……いや、カマキリを擬人化したような女。

かつて大改人と呼ばれたシターテ・ルは、その頭部にはえた触覚をせわしなく

動かしていた。

――表情のわかりづらい硬質な顔だが、それだけでも彼女がいらだっていることは

周囲につたわり、集められた無辜の市民たちはおびえすくんでいた。




秘密結社フェイスダウン。その居城たるヘブンワーズ・テラスが地に堕ちて

はや三ヶ月。

帰還したアルカーによりその首魁たるフルフェイスの敗北が報告され、

超常集団取締部隊(CET)が同組織の壊滅を宣言したものの、

いまだ世間は平穏とはいいがたい状況にあった。



(――ま、その状況に陥らせてるのは私たちなんだけれども?)



クッ、と唇をゆがめる。自分の指先一つで人々がおそれおののき逃げ惑う姿を

夢想すると、少しだけ気分が晴れる。




シターテ・ルたち『改人』はフェイスダウンによって改造――"改良"された人間だ。

いや、"改良されようとした"というべきか。


その改造を施した当人――フルフェイスによれば、彼らの改良は失敗し

"改悪"にしかならなかったらしい。実に身勝手な話だ。



とはいえ、今となってはどうでもいい話だ。

生み出しておきながら失敗作としてあっさり切り捨てようとしたフェイスダウンは

もはや存在しない。

つまり、彼女たち改人は自由になった――はずだったのだが。



(――ああ、もう!)



苛立ちを抑えようともせず、鎌になった手を軽くふるう。

ただそれだけで大理石の分厚い柱が、さっくりと斬り落とされる。



改人は――人間を強化した存在だ。人間、いや生物の枠さえ超え

戦車や戦闘機といった"兵器"を正面から駆逐できる、それほどの戦闘力をもった

おそるべき存在なのだ。なのだが……



この世には、それすらも凌駕する者たちがいる。



アルカー。

精霊に選ばれ、そして愛された者。



シターテ・ルはいまだによくは理解していなかったが、ようは超常的な力をもった

『精霊』がこの地球上には存在しており、その力を宿した人間がアルカーへと

変身するのだ。



その超常力は、圧倒的だ。

改人の中でも突出した力をもつ三人の大改人、ヤソ・マ、ヤク・サ、

そしてシターテ・ル。その三人が束になってなお及ばないほどに。



せっかくフェイスダウンのくびきから解き放たれたというのに、彼女たちは

アルカーに従わざるをえなかった。

――フルフェイスを倒したアルカー・エンガに、ではない。

フェイスダウンに所属していたアルカー、"アルカー・ヒュドール"にだ。



アルカー・ヒュドール……水の精霊を宿したアルカー。

その正体は元刑事局長であった天津稚彦だ。いかなる事由によってかはわからないが

彼はながらくフェイスダウンのスパイとして働き、そして土壇場で裏切り

改人たちをねこそぎ奪って闇に潜んでいた。



シターテ・ルたちは自発的に彼に従ったのではない。天津が握った切り札――

怪人を粛清させる自壊装置の存在のために、屈服せざるをえなかったのだ。



彼女がずっと不機嫌なのはそれが原因だ。

もともと改人とは己のエゴを極端に肥大化された存在、力づくで服従させられるなど

屈辱以外のなにものでもない。



(……ま、あの男の陰気な顔は、好みと言えば好みなんですけど)



鋭い指先を柔らかい唇に軽く押し当て、ぷるんと震わせる。

その切っ先からは鮮血がしたたり、白い唇に朱をさして艶めかしく彩る。



屈辱といえば、今やらされていることも耐え難い。

シターテ・ルは繁華街を襲い、そこに居た人々を捕らえる任務に就いていた。



無力な弱者をつかまえることに心が痛む――わけではない。

こんな雑用じみたことをやらされるのが、苦痛なのだ。



フェイスダウンに居た時は、こんな仕事は主に戦闘員の役目だった。

だがいまとなっては仕方ない。改人と違い、戦闘員たちはフルフェイスに絶対服従。

当然改人やヒュドールには従わず、首領が消えたいまとなってはどこにいったかさえ

ようとして知れない。



(……はぁ。

 ちょっと前まではあの不気味な仮面顔がうっとおしかったのですけど……

 こうなってくるとすこしばかり恋しくなりますわね?)



雑多な役割を押し付ける相手と考えればあんなものでも愛着がわいてくる。

くるりと振り向きながらあの無貌の仮面を思い浮かべる。そう、ちょうどこんな――



「――え?」



おもわず呆けた声が漏れる。その目の前に浮かんだ仮面――

それは空想の中のものではなく、現実に存在する相手だった。



「――あ、く、うう!?」



みっともなくうろたえる自分を叱咤する余裕さえなかった。

首に強い衝撃がくわわり、手足が前に投げ出される。

――首根っこをつかまれ、そのまま引きずられたのだと気づいたのは一瞬あとだ。



「な、あ、バ、バカな!?」



対応するどころか、まともに思考することさえできない。

それほどまでに虚をつかれたのだ。――それすなわち、この仮面の存在が

いっさいの気配を遮断して近づいていたことを意味する。



(そんな――そんな、バカな!?)



かろうじて状況についてきはじめた頭を総動員して事態を把握しようとする。

だがその間に人質を集めた部屋からたたき出され、ガラス窓を破って

表に投げ出されてしまう。




さすがに大改人の矜恃があった。無様に地面に這いつくばるような真似はせず、

たたきつけられる瞬間に身をひるがえして優雅に地面に降り立つ。

そして、無礼を働いた相手をきっとにらみつける。




その姿は――いましがた思い浮かべていた仮面の存在、秘密結社フェイスダウンの

戦闘員アンドロイド、"フェイス"のものだった。

だが、戦闘員ではない。であればシターテ・ルに気づかれず近づき、こうもたやすく

あしらうことなどできようはずがない。



「まさ、か――」



戦闘員、フェイスアンドロイド。その姿をもつ相手で大改人を圧倒できるのは

三体のみ。


一体は、大戦闘員と呼ばれた"キープ・フェイス"。だがアレは確実に葬り去られた。

もう一体は裏切者たる"ノー・フェイス"。こちらも、アルカー・エンガが

機能停止をはっきりと確認したという。

であれば、残る一つは――



「――しばらく姿を見せぬうちに、ずいぶんと好き放題していたようだ」



びくり、と身体がふるえる。

怯え――それも己の根幹からくる恐怖。単に自身以上の力に相対した怯懦ではなく、

もっと原始的な恐怖。"神"に対するものにさえ似た畏怖だ。



シターテ・ルは、その感覚を知っている。



「おまえたちは、私が造り出した存在。であれば、始末をつけるのも

 造物主の役目であろうな……」



どこか遠く聞こえるその声――いや、気のせいではなく本当に声は遠くなっていた。

シターテ・ルは、逃げ出していたのだ。恥も外聞もなく、無意識に。

自慢のスピードを誇る余裕さえもなく、無我無心にただひたすらと。

それほどの恐怖が彼女を包んでいた。



間違いない。この感覚は、間違いない。



「……奴に伝え……まえたちは……以上……き勝手には……」



もはや何を言っているかもほとんど聞こえない距離。それでもシターテ・ルは全力で

逃げ続ける。



最後に一度、振り向く。その視線の先には無数の赤い光点。

その中にあってひときわ異彩をはなつ光――






秘密結社フェイスダウン。その総帥たるフルフェイスが、帰還したのだ。



・・・




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