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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第四部:『アルカー・テロス ~我はアルファであり、オメガである~』
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第五章:08




・・・



ごう、と雷炎が吹き抜けていった。



太陽のごとき深紅のプロテクターに、閃光のように輝く黄金の鎧。

炎と、雷が一体化し具現化した姿となったアルカーが――静かに、たたずんでいた。



挿絵(By みてみん)



「――美しい」




らしくない言葉が、おもわず漏れた。



あまりに単調で、主観的なセリフだ。だが、そう言わしめるほどの圧が、

今のアルカーにはあった。



「……」



そのアルカーは、黙して動かない。ただじっと、どこを見つめているかもわからない

複眼のような目が、光るだけだ。



(あるいは……)



あるいは、傍らに崩れ落ちた"相棒"を見ているのだろうか。




ノー・フェイスは――完全にその機能を停止していた。


動力炉を、その代わりとなる雷の精霊を失ったのだ。動くはずもない。

アルカーを倒すために生まれ、組織に叛旗をひるがえし、アルカーと共に戦ってきた

裏切者のフェイス戦闘員は……その活動に終止符を打った。



(たいしたものだ)



素直に、そう感じた。


首を垂れ、膝こそついているものの、倒れ伏してはいない。

機能を停止してなお、敵の前に屈することをよしとしない。その信念が伝わるようだ。

――そう、信念。フルフェイスが生み出した人造人間が、"信念"を抱くまでになった。

そのことそれそのものはフルフェイスにとっても、誇り高く感じるものだった。



(キープ・フェイスさえ退けるその"信念"を抱いた個体が、

 私と袂を分かつ道を選んだことだけは――口惜しいが)



創造主とは、思い通りに存外いかないものだ。



そこまで思考してフルフェイスは邪念を振り払った。

まだ戦いは、終わりではない。いや、むしろこの"次"こそが真の決着なのだ。




甲高い排気音をたてて、フルフェイスの右腕に着けたバングルが蒸気を吹き出す。

リムーバーを使用時の余剰エネルギーを排出したのだ。

さしものフルフェイスと言えど、そう何度も使える奥の手ではない。



アルカーにもこちらの奥の手が伝わってしまった。

必然、相手の行動も決まってくる。




フルフェイスは、アルカーにリムーバーを直撃させる。

アルカーはそれを回避し、カウンターを喰らわせる。




もはや複雑な駆け引きはいらない。単純、それでいて高度な読みあいが全てを決める。




フルフェイスは静かに右腕に手を添え、バングルをひねる。

拡散させた波動ではもはや通じないだろう。焦点をしぼり、一転集中させた

リムーバーエネルギーをアルカーに直接叩き込む。




(奴に、リムーバーそのものへの対抗策はない)




だてに数十年、いや数億年をかけて精霊を分析してはいない。

たとえ完全となった"命の精霊"であろうと、この除去波動そのものに抗いうる

手立ては、ないはずだ。




当たれば、全てが終わる。外れれば、全てが終わる。




ぎり、と踏みしめた脚をひねらせ床に圧を加える。

力を込め、突撃するために半身を引く。




アルカーは――動かない。

ただじっと、たたずみ続けている。




(――腑抜けたわけでは、あるまいな)




わずかに芽生えた侮りを拭い去る。

確かにアルカーにとってノー・フェイスは唯一無二の存在だったのだろう。

しかしそれが失われたからといって、目の前の敵を忘れるような男ではないはずだ。



精霊が選び、キープ・フェイスをも降し――フルフェイスとノー・フェイスが認めた

男なのだから。




「――ゆくぞ、アルカー。始まりから終わりへと至るものよ」




あえて、声をかけた。今更不意打ちなどの小細工に頼る必要もない。

相手を読み切る。それだけを念じればいい。




――ふっ、と音が消えた。

否。フルフェイスが音を置き去りにしたのだ。



後方へと蹴り押した足は接地面に反発をうけ、作用反作用の法則にしたがい

同じ力でフルフェイスを前へとおしやる。その速度は音を遥かに超え――





音速を軽く凌駕した速さで、フルフェイスは吶喊した。





フルフェイスの思考はかつてないほどに回転し、頭に入ってくるありとあらゆる

情報を超高速で解析していく。


一万分の一秒、いや十万分の一秒を長く長く引き延ばし、その間に起きる

全ての事象から気を離さずつぶさに観察する。


蹴り上げたわずかな砂粒がどこに飛んでいくかすらすべて把握し、それが与えうる

小さな影響をも計算にいれて、一直線に突撃する。

アルカーの微小な動き、筋肉を流れる神経伝達の電流。委細もらさず観測し、

次の動きを完璧に予想する。



アルカーは――まだ、動かない。



もと立っていた場所から、1m進んだ。時間にして千分の三秒ほど。

空気を押しのけて発生するはずの衝撃波は完全に抑制している。

人間ではまだ不可能な超音速帯における行動制御を完璧にこなし、

右腕を弓のように弾き絞って半身に隠して突きすすむ。



2m進んだ。



アルカーは、あと3mほどの距離にいる。お互いの反射速度であれば

回避するにせよ、こちらを捉えるにせよ、なんらかの対処を行うには

50cmの彼我距離までに行動を起こす必要がある。

奴は、ぎりぎりまで粘るだろう。



(勝てる)



3m。



フルフェイスは確信した。アルカーは、確かに奇跡の存在だ。

だがフルフェイス自身も一つの星がその歴史すべてをかけて作り上げた

超常の存在なのだ。

アルカーのすべてを観察し、これまで研究してきた精霊のデータを統合して

彼がとりうる行動すべてを予測する自信は、あった。



4m。



フルフェイスの意識が、かつてないほど極限に研ぎ澄まされる。

己にここまでの集中力があったのかといまさら驚愕するほどに、

意識が冴えわたっていた。

この部屋のすべてが、手に取るようにわかる。アルカーの動きのすべてが、読める。


(勝てる!!)



4m10cm。



アルカーはまもなく動く。



4m20cm。



アルカーは……



4m30cm。


アルカーは……動かない。



(……?)


はじめて、フルフェイスに動揺が生まれた。


4m40cm。


アルカーに動きは一切見られない。予備動作に必要な神経伝達さえ、ないのだ。

これでは――アルカーは、避けられない。いや――



(――避ける気が、ないというのか!?)



それほどまでにノー・フェイスを失ったことが衝撃だったのか――そんな考えが

一瞬よぎるが、それは違うと悟る。

アルカーから、戦意は失われていない。



4m45cm……。



アルカーの考えが、読めない。

それは少なからぬ狼狽をフルフェイスの中に生んだが、それをねじ伏せる。

行動の精度を落としてはならない。迷いは押し殺し己の一撃だけに意識を集中させる。

欠陥品の人間ではない、感情を完全に制御したフルフェイスなら可能だ。



4m50cm。接敵距離だ。



それでも、アルカーは動かない。

ならば、それでいい。




フルフェイスが腰をひねり、右腕を前へと押しやる。

その先には――アルカーの胸部。




リムーバーを解き放ちながら、フルフェイスはアルカーに弩弓のごとく突きを放った。




「さらばだ! 精霊が選びしものよ!!」



5m。

フルフェイスの右腕は寸分たがわず、アルカーの胸を穿った。

アルカーは――最後まで、みじろぎもしなかった。





ノー・フェイスから雷の精霊を引き剥がした波動が、アルカーへと吸い込まれていく。

フルフェイスの視界さえも完全に白く塗りつぶし、すべてがホワイトアウトしていく。




(終わった――!)




歓喜。

この数億年もの間感じたことのないほど強い喜びが、フルフェイスを満たした。



――そうか。これが、勝利の喜びというものなのか。






長い活動期間の中、はじめて実感した感情を噛みしめ――



・・・



――フルフェイスは、放心した。



「……」



突き出した右腕は、アルカーの胸に突き立っている。

放ったリムーバーの除去波動はそのすべてがアルカーの内部へと吸い込まれていった。


彼の全身を駆け巡った波動は精霊とのつながりを一時的に消去し、アルカーから

精霊を引き剥がす――はず、だった。



「なぜ、だ……」



ぼうぜんと、呟く。

それは制御できなくなった感情――"困惑"がついてださせた言葉だった。



ゆっくりと、アルカーが動いた。

その右手でフルフェイスの右腕をつかみ、ぎりぎりと締め上げて引き剥がしていく。

抵抗しようにも、身体が動かない。完全に想定外の事態を前にして、

フルフェイスは生まれて初めて己の身体の制御を失っていた。



「なぜ――精霊が、引き剥がれない――?」



それはアルカーへの問いではなかった。だが、彼は答えた。



「ノー・フェイスだ」



――その答えは、疑問への解にはならなかったが。



「奴は……機能を……」

「精霊は、命とともに育つ」



ぎしり、と音をたててフルフェイスの腕が押し戻されていく。

アルカーの力に抵抗できない。いや――

アルカーの激情に、フルフェイスが抵抗できないのだ。



「おまえは――精霊がそろえば完全体となると、そう言っていたな。

 ……それは間違いだ」



ぐらり、と視界がゆらぐ。

アルカーに押され、膝がまがり屈していく。



「おまえは、ノー・フェイスに精霊が宿ったのは間違いだと。

 俺に炎と雷の精霊が憑依するのが在るべき姿だと、そう言っていた。

 それは間違いだ」



右腕をつかむアルカーの手が、どんどん食い込んでいく。

その食い込みから、彼の怒りが伝わってくるかのように。



「精霊が完成するのは、この星が終わるその時だけだ。

 それまではすべての精霊が集まろうとも、未完成体にすぎない。

 ――こいつらが、そう言っている」



アルカーが左腕をもちあげていく。

ゆっくりと、だが彼の激情全てを込めて。



「俺一人なら――すべての精霊をそろえても、おまえには対抗できない。

 おまえが精霊を研究し続けてきたからだ。

 俺が炎の精霊を宿した時――おまえは精霊のすべてを知り尽くしていた」



(そうだ……)



だからこそ、勝利を確信していたのだ。

それが間違いではなかったと精霊自身が言うなら、なぜフルフェイスの切り札は

通用しなかったのだ――。



「おまえに知り尽くされた精霊を、おまえが知らない領域へと進化させた。

 それは――ノー・フェイスと俺との間に生まれた絆が、精霊に力を与えたからだ」



アルカーが、振りかぶり――



「アイツの!

 アイツの想いが、信念が!!」

おまえ(創造主)を越える力を与えたんだッッッ!!!」



アルカーの激情が拳と共に、フルフェイスの顔面に打ち込まれた。



・・・



ちこくぅ

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